表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/74

第25話 氷解、そして剥離される虚偽

お読みいただきありがとうございます! ゼニス編、ついに完結。 効率のために「熱(感情)」を捨てた街に、お掃除屋のハンマーピッケルが真実の火を灯します。 冷徹な管理者シオンに、ロアが提示した「新しい世界の理」とは? 鉄と油の都に、静かに朝が訪れます。

「……エラーを検知。……論理崩壊。……なぜ、この小規模な打撃で、世界の冷却システムが停滞し、再起動を開始するのですか」


 管理者シオンの白い瞳に、初めて戸惑いという人間のノイズが混じった。

 ロアの黄金のハンマーピッケルは、シオンの身体を傷つけたわけではない。

 シオンが依って立つ高効率という名の絶対のルールを、物理的な質量でもって物理的に剥ぎ取ってしまったのだ。


「シオン。お掃除っていうのはね、汚れたところを捨てることじゃないんだ」


 ロアは息を整えながら、咆哮を上げる中央機関セントラル・エンジンへと一歩踏み出した。


「爺ちゃんが教えてくれたんだ。……一番大切なものは、一番汚れやすい場所に隠れてる。……この機械の中には、たくさんの人が無理やり押し込めた悲しいとか『寂しい』とか、そういう捨てられちゃった熱がいっぱい詰まってるんだよ!」


 ロアの目には見えていた。

 エンジンの心臓部に、教会の聖印によって封印された、真っ赤に加熱された情報の塊を。

 それが冷却材(凍結病の人々)に熱を押し付けようとする、世界の歪んだバイパスを。


「……計算上、その熱を解放すれば、ゼニスのシステムは融解メルトダウンします。……何万という人が死ぬ。それがあなたの掃除ですか」


「ううん。……全部、僕が受け止める!」


 ロアが跳躍した。  シオンが反射的に消去プログラムを起動しようとするが、ノエルがその前に立ちはだかった。


「……させない。……私も、あなたの言う無駄な計算の一部。……でも、その無駄が、今は最高に心地いいの!」


 ノエルが放った純白の魔導光が、シオンの視界を一瞬だけ遮る。


 その隙に、ロアの黄金のハンマーピッケルが、エンジンの効率化バルブへと振り下ろされた。


 ズガァァァァァァァンッ!!


 爆音。だが、破壊の音ではない。

 それは、世界を縛っていた冷たい嘘が剥がれ落ちる、祝福の音だった。


 ロアのハンマーピッケルが触れた瞬間、エンジンの表面を覆っていたデジタルな氷が一気に融解し、真っ白い、けれど温かい本物の蒸気が空洞を満たした。

 行き場を失っていた感情の熱が、攻撃的な毒ではなく、街を温めるための生命のエネルギへと再定義リフォーマットされていく。


[Object: CentralEngine - Status: Overheating_Prevented - Redefine_System: Warmth_Mode]


「……あ。……温かい……」


 シオンが呟いた。  彼の手を、ロアが剥離したばかりの温かい蒸気がなぞっていく。

 効率100%の極寒の世界では決してあり得なかった、非効率で、曖昧で、けれど優しい体温の記憶。


「……シオン。お掃除、おしまいだよ。……これなら、もう誰も氷にならなくていいでしょ?」


 ロアの笑顔を前に、シオンはしばらくの間、無言で自身の記録装置メモリーと向き合っていた。          

 やがて、彼はゆっくりと、空中に溶けるように透明になっていく。


「……イレギュラー・ロア。……今回の事象は、計算不能な奇跡としてログに残します。……監視対象を継続。……また、いつか」


 管理者が姿を消すと、地下空洞に静寂が戻った。

 いや、静寂ではない。

 砕け散った氷の繭の中から、人々が、テオが、ゆっくりと起き上がり、互いの温かさを確かめるための無駄な会話が始まり、そこら中で掃除のいらない涙が流れていた。


 ◇


 翌朝。  機械都市ゼニスの煙突からは、かつてのような茶褐色の煤煙ではなく、朝日に輝く真っ白い蒸気が立ち上っていた。


「……本当に行くのか? ロア。……お前がいれば、この街のメンテナンス効率はさらに三倍は上がるんだがな」


 ルカが、テオの頭を乱暴に撫でながら、不器用な表情でロアを見送った。


「あはは! メンテナンスはルカに任せるよ。……僕、まだお掃除してない場所が、世界中にいっぱいあるんだもん!」


 ロアは黄金のハンマーピッケルを腰に下げ、ゼニスの巨大な門の前に立った。

 隣には、以前よりも少しだけ人間くさい表情で微笑むノエル。そして、朝から大欠伸をしているラグ。


「……ロア。次はどこへ?」


「うん。……世界の一番高いところに行けば、もっと綺麗に磨ける気がするんだ!」


 ロアは朝日の中へと駆けていく。

 その背中を、シオンの残した視覚ログを通して、遙か高次元の上位管理者が見守っていることに、少年はまだ気づいていなかった。


(第25話終わり)

読んでくださりありがとうございます! ゼニス編、完結です。 効率や数字よりも大切な「温もりの理」をお掃除屋さんが証明してくれました。 ルカとテオのその後も気になりますが、物語は再び、世界の謎の中心へと向かいます。 次回、第26話より、新しい章が開幕。 世界の「天井」に隠された秘密とは? これからも応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ