第21話 冷徹な正義、審問官の鉄槌
お読みいただきありがとうございます! ゼニス編、最初の壁。 法と効率を掲げる教会の「審問官」が、ルカの工房を包囲します。 魔法が「エラー」として処理される街で、ロアのハンマーピッケルが真実を剥ぎ取ります!
「……審問官? 誰それ。お掃除のお手伝いさん?」
ロアは首を傾げ、ルカの工房のモニターを覗き込んだ。ザラついたモノクロの映像の中、白銀の甲冑を纏った一団が、蒸気機関のバイクを走らせて地下へと降りてくるのが見えた。彼らが掲げる旗印には、歯車と天秤を組み合わせた不気味な聖標が刻まれている。
「馬鹿言うな! あれは教会の狂信者共だ。……この街において『効率を乱す者』、つまり魔法使いやバグ持ちを、文字通り物理的に削除して回る奴らだよ!」
ルカは毒づきながら、手早く工房の各所に偽装工作を施し、重い工具箱をロアたちに押し付けた。
「いいか、今の放送を聞いただろ。教会のやつらは魔力反応を追ってきている。……ノエル、お前は絶対に指先一つ動かすな。お前が何かを詠唱した瞬間に、この工房の温度は絶対零度まで引きずり落とされるぞ」
「……わかっている」
ノエルは唇を噛み、己の杖をマントの下に隠した。彼女の指先は、極寒の恐怖ではなく、自身の力が仲間の足を引っ張るかもしれないという屈辱で微かに震えていた。
ドォォォォン!!
工房の鉄扉が、外部からの衝撃で大きく歪んだ。 超高圧の蒸気が隙間から吹き出し、油の混じった霧が部屋を満たす。
「――罪深きエラーの保持者、ルカ・ヴァレンタイン。および、セレステから侵入した不純物共へ告げる」
歪んだ扉を蹴破り、一人の男が足を踏み入れてきた。他の兵士とは違う、漆黒の外套を纏った審問官――カシウス。彼の瞳は感情を削ぎ落とした氷のようで、その手には、魔力を一切必要としない機械仕掛けの「処刑鎌」が握られていた。
「速やかに投降せよ。……抵抗は、演算の効率化において不要である」
「ふん。相変わらず、機械みたいな喋り方だなカシウス。……僕らはただのジャンク屋だ。エラーなんてどこにもいないぜ」
ルカが前に出るが、カシウスの鎌は容赦なくロアの方を指し示した。
「……そこの少年。……お前の存在確率は、今の世界のログと一致しない。……削除対象とする」
カシウスが地を蹴った。魔法ではない、純粋な身体強化と蒸気加速による、目視不可能なほどの刺突。
「させるかァッ!!」
ラグが割って入り、大剣で鎌を弾き返した。
キィィィィィィィン!!
鉄と鉄がぶつかり合い、周囲の機械部品が衝撃で飛散する。
「魔法なしでも、俺の腕力はバグってんだよ! 舐めるなよ、聖職者!」
「……不規則な筋力か。それも、排除の対象だ」
カシウスの鎌から、高圧の蒸気が噴射され、刃が不自然な機動を描いてラグの喉元へと迫る。
「……あ。お兄さんのそれ、すごく汚れてるね」
ロアが、いつもののんびりした声で言った。彼の目には、カシウスの鎌が空気を切り裂くたびに、透明な座標データが無理やり捻じ曲げられているのが見えていた。
[Object: InquisitorScythe - Status: CheatCode_Enabled - Manipulated_Vector: 110%]
「自分のルール(計算)が正しいって嘘をつきながら、こっそりズルしてる。……そんなの、掃除屋さんが許さないんだから!」
ロアがハンマーピッケルを振りかぶった。カシウスは鼻で笑い、鎌をロアの細い腕へと振り下ろす。 魔法の防御障壁も、ラグの援護も間に合わない。
トントン。
軽い、けれど絶対的な一打。 ロアのハンマーピッケルが、カシウスの鎌の柄に触れた瞬間――。
「……なっ!?」
バチィィィィィッ!!!
鎌を駆動させていた蒸気機関が、まるで最初から存在しなかったかのように、金属の質感そのものがサラサラと剥がれ落ちていった。 カシウスの手の中に残ったのは、錆びついたただの鉄屑の棒だけだった。
「お兄さんのズル、剥がしておいたよ。……ほら、それじゃあお掃除もできないでしょ?」
ロアの満面の笑みを前に、冷徹な審問官の、完璧を誇る表情が初めて恐怖に歪んだ。
(第21話終わり)
読んでくださりありがとうございます! 魔法を否定し、論理を重んじる審問官。 しかしロアのハンマーピッケルは、その「論理の裏側にある嘘」さえも剥ぎ取ってしまいます。 カシウスの武器を剥離したロアですが、背後からはさらに多くの「処刑官」が迫り……。 次回、地下通路の包囲網。脱出なるか!? 応援よろしくお願いします!




