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第20話 歯車の鼓動、鉄屑の街(スクラップ・タウン)

お読みいただきありがとうございます! ゼニス編、本格始動。 魔法が通用しない極寒の街で、ロアたちは理屈屋の少年技師・ルカと出会います。 「凍結病」という名の致命的エラー。 お掃除屋さんのハンマーピッケルが、今度は鉄と油の汚れに挑みます!



「……『凍結病』? なにそれ、美味しそうな名前だね」


 ロアは首を傾げ、凍りついた旅人の前で飛び出してきた少年を見つめた。

 少年は煤で汚れた作業着を纏い、背中には巨大なスパナを背負っている。彼がかけている多機能ゴーグルのレンズが、ロアの黄金のハンマーピッケルを捉えて不気味に赤く点滅した。


「馬鹿かお前! 美味しいわけないだろ。……それはゼニスの地下にある『 心臓エンジン』が吐き出した、世界の廃棄データだ」


 少年――ルカは忌々しげに吐き捨てると、手慣れた手つきで旅人の身体をスキャンし始めた。


「いいか、魔法使い共。ここはセレステみたいなお花畑の箱庭じゃない。……ここでは、魔法(無駄な演算)を使えば使うほどに、街のシステムが過負荷を起こして、お前たち自身の体温ごとデータを凍結フリーズさせるんだ」


「……魔法が、毒になるというの?」


 ノエルが青ざめた。彼女が指先に灯した微かな燈火が、ルカの言う通り、不自然なノイズを上げながらパチパチと弾けて消えていく。


「そういうことだ。……おい、ついてこい。吹雪が強くなる前に『地下スクラップ・タウン』に入らないと、お前らもあの像の仲間入りだぞ」


 ルカに案内され、一行はゼニスの巨大な外壁の根元にある、錆びたマンホールのような入り口へと滑り込んだ。


 ◇


 そこは、魔法の輝きとは無縁の、鉄と油と蒸気の世界だった。


 ガチャン、シュゥゥゥゥ……!


 頭上で巨大な歯車がゆっくりと回転し、無数の動力パイプが血管のように張り巡らされている。  「地下鉄クズスクラップ・タウン」。  上層のきらびやかな機械文明から弾き出された廃棄物と、そこで逞しく生きる人々が作り上げた、薄暗くも活気に満ちた「裏の世界」だった。


「……うわあ、ここ、すごく『ガタガタ』言ってるね! どこの機械も、お掃除してほしくて泣いてるみたいだもん!」


 ロアは目を輝かせ、腰のハンマーピッケルをトントンと叩いた。

 [Area: Zenith_ScrapTown - Status: Maintenance_Required - Accumulated_Corrosion: 88%]


「お掃除だぁ? ふん、おめでたい奴だな」


 ルカは自身の工房――『ルカズ・ジャンク&フィックス』の重い鉄扉を開けた。

 中には、分解された魔導人形の残骸や、用途不明の真空管が山積みになっている。


「いいか、ロア。お前のそのハンマーピッケルが何を剥がすのかは知らねえが、この街のバグは感情や休息っていう名前の、機械にとっては無駄なデータから生まれるんだ」


「無駄なデータ……? でも、休むのは大事だよ? 爺ちゃんだって、お昼寝が一番大好きだったもん」


「機械(この街)には、それが理解できないのさ。……効率、生産、回転。それだけを求めて走り続けた結果、システムが焼き付いて、人を凍らせるようになった。……それが凍結病の正体だ」


 ルカは作業台に座り、ロアを真っ直ぐ見つめた。


「お前が本当に『お掃除屋』なら……この街の心臓部で、詰まりきった人間の想いを剥がしてみろ」


「うん、任せてよ、ルカ! 僕、高いところも暗いところも、お掃除しに行くの大得意なんだ!」


 ロアの屈託のない笑顔に、皮肉屋のルカも一瞬だけ呆気に取られたように言葉を失った。


 だがその時、クズ街のスピーカーから、割れたような緊急放送が流れた。


『――審問官だ! 教会の連中が、地下に降りてきたぞ!!』


(第20話終わり)

読んでくださりありがとうございます! 機械と油、そして蒸気が支配するゼニス。 ロアとルカ、正反対の二人が出会ったことで、物語はさらなる混迷エラーへと突入します。 そして迫りくる教会の影……。 このクズ街を、ロアのハンマーピッケルは守りきれるのか!? 次回、地下通路の決戦。お楽しみに!

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