集合
新宿コロニーのメイン通路は、もう“避難所”の顔をしていなかった。
倒れた屋台の下から、手が伸びる。
逃げ出した子どもを、大人が引き戻す。
その背後から、足音がそろって近づいてくる。
ゾンビだ。
ただ、いつも見慣れたやつとは、少しだけ違う。
肌はまだらではなく、血の気のない白。
首はかしげない。
よろめきもしない。
まっすぐ、“人の多いほう”だけを見て歩いてくる。
「なんだよ、あれ……普通のじゃねぇ……」
誰かのそういう声が、悲鳴に飲まれて消えた。
* * *
その様子を、かなり上から眺めている目があった。
高層ビルの最上階。
割れた窓のそばに、ローブの男が立っている。
ネクロマンサーは、煙草も持たない指先を、空中でひとつ叩いた。
コロニーのあちこちで、自分のゾンビが動いているのが分かる。
音と匂いに釣られて、ばらばらと、遠回りしながら集まってくる。
……その輪の中に、妙な“筋”が走っていた。
白いゾンビたちだ。
道に迷わない。
角でも立ち止まらない。
一直線に、コロニーの中心へ向かっている。
ネクロマンサーの口元が、わずかに歪んだ。
「……勝手に、わしの箱庭に線を引くでないわ」
窓の外。
簡易ステージの骨組みが見える。
ここ数日、そこでは小さな歌やメッセージが繰り返されてきた。
人を落ち着かせ、また別の人をここへ呼び寄せるための声だ。
その声の主——桃瀬鈴の姿は、まだ見えない。
だが、ネクロマンサーは知っていた。
この街そのものが、その子を閉じ込める檻になっていることを。
彼が作り上げた、“新宿コロニー”という名の箱の中に。
* * *
一方、もっと地の底。
窓もない狭い部屋で、別の誰かが同じ光景を眺めていた。
壁一面のモニター。
そのうちいくつかには、新宿コロニーの通路が映っている。
別のいくつかには、白いゾンビの視界が映っている。
白衣の男——科学者は、椅子を足で軽く蹴りながら回転させた。
画面の中で、白いゾンビがいっせいに角を曲がる。
人だかりのある広場へ、まるで合図を受けたように集まっていく。
男は、喉の奥で笑った。
キーボードに指を滑らせる。
数字の羅列が流れ、何体かの白いゾンビのルートが微妙に修正される。
別のモニターには、簡易ステージの俯瞰映像。
その中央に、小さな女の子の姿が映っていた。
桃瀬鈴。
画面越しでも分かる、“声を出す前の表情”に、男は少しだけ身を乗り出す。
その顔を見て、彼は満足そうに頷いた。
ネクロマンサーのゾンビには興味がない。
彼の指先が追っているのは、白い数字の列と、桃瀬鈴の小さなシルエットだけだ。
モニターの中で、白いゾンビが彼女のいる方向へ、静かに向きを変えた。
新宿コロニーは、避難所のふりをしたまま——
上からは死霊術師に、下からは科学者に弄ばれ、
その真ん中で、レンたちが走り回る場所になりつつあった。




