再会
——ドォン!!
鼓膜がびりびりするくらいの爆音が、ホール全体を揺らした。
天井の鉄骨が悲鳴を上げる。
すぐ上のパネルがひしゃげて、次の瞬間——
バキバキッ、と音を立てて、試験場の屋根が破れた。
コンクリ片と鉄骨と天井材が、雪崩みたいに降ってくる。
粉塵の向こうから、影が——ひとつ、ふたつ、みっつ。
どさあんっ、と床を揺らして墜ちてきた。
「おぉい! 切り札ちゃうかったんかぁ! そんなもんかぁ!」
関西弁の怒鳴り声。
「うるさいわね! レンは疲れてんのよ!」
甲高い女の声が、風の渦の中から返す。
「ルーチェ、俺は全然疲れてない」
「あんたもこんなんで疲れてんじゃないわよ!」
ひよりの目の前で、瓦礫の山がぐらついた。
その上から、ワイシャツの後ろ姿が、よろよろと立ち上がる。
「……れ、レンさん……?」
思わず、声が漏れた。
「ひより!?」
振り向いた男の顔は、見慣れたその人だった。
そのすぐ後ろ——
瓦礫を踏み割って、異様な影が身を起こす。
細長い首。
犬とも鹿ともつかない脚が四本以上。
背中からは鳥の翼と、ゾンビの腕が一緒くたに生えている。
ドラゴンのつもりで作られた、キメラの化け物。
「ひより、気をつけろ!」
レンが、ひよりとステージとの間に滑り込む。
化け物が、喉の奥でゴボゴボと音を鳴らした。
次の瞬間——
ぼうっ、と、口の中から炎があふれ出た。
オレンジと黒煙が、波みたいに押し寄せてくる。
「っ——!」
ひよりは、思わず目をつぶる。
その瞬間、レンの肩の横で、小さな風の渦がぱっと膨らんだ。
「ったく、もう!」
女の声がした。
掌ほどの大きさだった風の塊が、一瞬で広がる。
透明な膜のように、レンたちの前に立ちはだかった。
炎がぶつかる。
空気がうなり、熱気が押し寄せる——が、そこから先に進まない。
風が、炎を押し返していた。
火の粉だけが、雨みたいにぱらぱらと降る。
「……助かった」
レンが短く礼を言う。
「大丈夫か、ひより!」
「だ、大丈夫です! それよりレンさん!」
ひよりは、胸を押さえたまま叫んだ。
「ももりんが!!」
「え?」
レンの目が、ぱちりと瞬く。
粉塵が少し晴れていく。
スポットライトの下——
さっきまでひよりの“敵”として立っていた少女が、まだステージの上にいた。
見覚えのある横顔。
ステージ用の笑顔を浮かべようとして、うまく作れずにいる表情。
——桃瀬鈴。
ももりん。
その隣に、もうひとり影が並んだ。
黒いローブ。
フードの奥から覗く口元に、薄い笑み。
指先だけが出たグローブをひらひらさせながら、関西弁の男がステージに降りる
「いやぁ、ええタイミングで合流したなぁ、アイドルちゃん」
召喚屋——幹部の一人。
ももりんの肩に、さりげなく手を置く。
レンの背筋に、冷たいものが走る。
(…
推しと、敵対している男が、同じステージに並ぶ
レンは、剣のない右手を、ゆっくりと下ろした。
左手首の内側が、じわりと熱くなる。
ひよりの手首にも、同じ場所に薄く紺色の印が浮かび上がっていた。
召喚屋は、楽しそうに笑みを深める。
「さぁて。
レン。
北川ひより。
——まとめて“試験”続行や」
ドラゴンのようなキメラが、再び低く唸った。
試験場だったはずのホールは、あっという間に、本物の戦場に変わりつつあった。




