客じゃない客 7
贖罪。
店主がセレナと初めて出会い、その時に彼女から聞いた話で思い浮かんだ言葉。
父親の意志ということもあり、彼の数代前に開業した『天美法具店』に就職。
そして周りからの推挙もあり、父親の後を継いで『天美法具店』の社長に就任した。
これまでのこの仕事で、いろんなことを考えさせられた。
生きている者は、時間の長短を問わず必ず死を迎える。
そして同時に、誰もがいつかは親しい者と死に別れる時も訪れる。
これは自然の摂理上、仕方のないこと。受け入れるしかない。
しかし店主はそれよりつらい経験をしてきて、未だに引きずっている。
生き別れである。
親しい者と互いに嫌う感情は持ってはいなかった。しかし二度と会うことが出来なくなってしまった。
そんな辛い思いは死に別れとは違い、避けて通れる道はある。
だからこそ、誰にもそんな体験をしてほしくはないし、つらい思いをしてほしくはない。
しかし店主には出来ることと出来ないことがある。
この世界と違い、セレナの住む世界は魔法が頻繁に使える法則がある。
魔物や魔獣といった物が存在する。
そして彼女の世界の言葉の読み書き、社会の仕組みや歴史、善悪の判断基準や道徳その他諸々を知らないまま。
物が持つ力を見て判断する能力があり、セレナの世界でもそんな力を持つ者はいない。
当然セレナからははその貴重な能力を当てにされているが、店主自身は彼女の世界においては万能ではない。
そんな思いはセレナに対しても同じである。
彼女から、どんな風に思われ、どんな言われ方をされようとも。
宝石の加工職人としての誇りがある。
しかしそればかりではない。
店主は彼女のそんな願いも心の片隅に止めている。
その願いが少しでも早く叶うのであれば、そのための仕事、作業を邪魔されることがあれば、効率のことを考えて中断することもある。
しかしセレナでも、その店長の胸の内は知らない。
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「もう出来たんですか? テンシュさん、ほんとにすごいですねっ!」
「早くみんなに報せなくちゃ! 呼んでいい?!」
「落ち着け」
店主は一言で、あっさりと二人の興奮を受け流す。
リーダーの人種の男には胸当て。
小男には脚部の防具。
長身のエルフの男にはブーメラン。
双子には、宝石の粉を満遍なく散りばめた裏地がある、魔術師用のローブ。
「報酬は特に取り決めてなかったが、俺にはこないだみたいに鉱物か宝石。あいつには適当な額でいいぞ」
「「適当でいいんだ……」」
「いいもの作ってもらったじゃない。模擬戦の相手した甲斐があったわね」
「一日で五人分の装備品ってどんなやっつけ仕事よって思ったけど、あなた達にはなかなかのものだと思うよ?」
「私達『には』ってとこが気になるんですが……」
「いい物……だよね。だよね?」
この双子がバイトに来るということは、店内に備わっている防犯機能が働かないトラブルが起きた時には対応しきれない事態が起きたら困る。
そういうことで、ヒューラーとキューリアも警備役で店に来ていた。
その二人は五人の装備品を真剣に評価するが、双子にはそれが揶揄われていると思ったようで、素直に喜べないでいる。
昨日のセレナの面会客への対応が噂に流れたのか、セレナに会うだけの客は来ない。
買い物客も増えないまま。
普通の店なら売り上げの心配をするところだろうが、店内はのどかな会話が続く。
時折双子から、冒険者としての心得のような質問が出たりして、バイトに来たのかレクチャーを受けに来たのか、店主はこの四人を見て、その目的があやふやに感じさせられた。
「……じゃ俺は仕事してるから、お前らもお前らで仕事きっちりやってくれよ?」
呆れた店主は四人に念押しをして作業にかかる。
『ホットライン』からの依頼もそろそろ終盤。
同時に店内の品物の改良も進めていく必要がある。
「はーい」
という返事をよそに作業部屋に入っていった。
のどかな昼下がりの『法具店アマミ』。
しかし事態は急変する。
「……テンシュさん、仕事一区切りついた?」
作業部屋で仕事をしてどれくらい時間が経ったか。
店主は背伸びをしてからいつものストレッチをする。
その様子を伺って、ミールが作業部屋に恐る恐る入ってきた。
「……おやつの用意は聞いてねぇぞ。あ、飯のことも聞いてねぇ。俺は食わなくもて平気だけどよ」
「いや、おやつは絶対欲しいってわけじゃないから……。そうじゃなくて。通信来てる。セレナさんから」
そう言われてもどうしろと?
そんな顔をミールに向ける。
「いや、だからセレナさんから通信が来てるの。こっちっ」
ミールに強引に引っ張られ、作業部屋を出る。
通信とは何のことか。
カウンターではその台の下から電話の受話器のような形の物体を店主に差し出している。
「電話のことか。つっても電気を必要とするから電話……あれ? 昔の電話は電気がなくても使えてたような。いや、えーと、どうだったっけ?」
「テンシュさん、セレナさんをずっと待たせてるんだけど」
やや膨れ顔のウィーナからそれを受け取る。
そばにいたヒューラーとキューリアは心配そうにその受話器を見ている。
「……警備は外にも必要なんじゃなかったのか?」
「いいから、早く出てください。一時間くらい待たせっぱなしなのよ?」
「テンシュさんの仕事邪魔しちゃ悪いからこのまま待つって言ってたから。全くこの人は……」
ヒューラーとキューリアからも愚痴を聞かせられる。しかしそうは言われても何ともならない。
店主は受話器を受け取った。
「はい、待たせたか。間が悪かったと思って諦めな。大体こいつらに伝言頼みゃ……」
やや不貞腐れたような店主の顔が変わる。
作業中の真剣な表情そのものだった。
声のトーンも低くなった。
「……あぁ。双子は帰しとく。あの二人も一旦帰すか。店も……あぁ。構わねぇよ。俺のことは気にすんな。じゃ、切るぞ」
「ど、どうしたの? セレナさん、何かあったの?」
受話器を受け取ったウィーナは、事情を聞かずにいられない風に店主からその返事を急かす。
それに反して店主はゆっくりと言葉を返した。
「お前ら全員一旦帰れ。今日は店じまいだ」
「まだ夕方前だよ? 何かあったの?」
「……あいつの捜し人が見つかった。事態が落ち着くまでグダグダ抜かすな」
店内の空気は冷たく重く、四人にのしかかった。




