表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第二章:異世界と縁を切りたい店主が、異世界に絡み始める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/292

客じゃない客 4

 ウィーナとミールがバイトしている間、その途中から店の戦力として志願したヒューラーとキューリアの仕事ぶりは、彼女達がその役割を終えてから身に染みて実感した店主。

 セレナが久々に一日中『法具店アマミ』で仕事を再開した初日から実感した。


「ごめん、精算途中にごめんね。セレナっ! 会いたかったんだよー! 今まで店の前でさ、用心棒っぽい人に止められてさぁ」


「あ、ごめんね、お客さん。セレナぁ! 今まで何してたのよぉ。会うだけの人入店禁止なんて今まで言われちゃってさぁ」


 買い物客を押しのけてまでセレナに会いに来る人数はかなり多い。

 バイトが来ていた間の買い物客は、平均にすれば一日で五人程度。

 この日も昼過ぎまでそれくらい。

 客は冒険者ではなく、装飾品を見に来て買い求めた一般人。

 セレナに会いに来た者達は商品に目もくれず、カウンターで支払いをしている客を押しのける。

 セレナは愛想笑いでそんな者達に付き合うが、会計を待たされる客はたまったものではない。


「ちょっと、そこの人。お会計お願い。この人忙しそうだから」


 ガラス越しに声をかけられる店主は、その度ごとに仕事を中断させられる。


「釣銭なしで出してくれ。大きい金しかない? 俺はよく分からんのでな。釣銭が出ない金額の金出してくれりゃいい」


「値札よりもかなり低いよ? お釣りは……」


 分かるのは数だけ。単位も貨幣紙幣の額の高低も全く知らない店主はぶっきらぼうに「釣銭は出す気はない」の一点張り。

 すると客は当然、明記されている額よりも低いお金を出す。

 受け取った店主は品物を袋に入れて客に渡す。

 目を丸くする客に「毎度あり」と短く挨拶して買い物を終わらせる。

 セレナは受け取った金額が気になるが、彼女を手放すまいと面会に来た者達がマシンガンのごとく言葉を紡ぐ。


「盛況……って訳じゃなさそうね、テンシュさん。……ってかなり怒ってる? まぁこれじゃあしょうがないか」


「依頼しに来たんだけど、いいかしら? 私達の分は後回しでいいから」


「すいません、お忙しそうなところ」


「うるせぇ、帰れ」


 やってきたのはヒューラーとキューリア。そして『風刃隊』の面々。

 ヒューラーの指摘通り、相当頭に来ている店主。イライラする顔は、なるべくなら話しかけたくない思いにさせる。


「私達の依頼の仕事なら後回しにしていいんだってば。この子達の防具か武器、一つずつ作ってくれない?」


 依頼者本人達からの後回しの申し出を受け、店主の表情はやや穏やかになる。

 しかし、つい先だって依頼を果たしたばかりである。

 さらに追加の依頼とはどういうことか。


「半日模擬戦に付き合ったんだけどさ、やっぱ装備と武器が釣り合わなくて違和感ありありで」


「貯金もある程度貯まってたみたいだったから、そんな提案してみたらみんな納得してね」


 長身のエルフの男は防具。それ以外の男たちは武器。双子は杖。

 今度は武器類と防具類を逆に依頼するということらしい。


「あの……これ、欲しいんですが、お会計……」


 買い物客が割って入ってきた。

 しかし間髪入れずに店主が反応する。


「無理だ。帰れ」


「ちょっ! テンシュさんっ! わ、私お手伝い」

「バイト代、出さねぇし部外者立ち入り禁止」


 客は呆然としている。

 まさか店員にそんなことを言われるとは思わなかっただろう。


「わ、私、ずっと待ってたんですが。なんであとから来た人たちの注文を先に聞くんですか?」


「俺は品物作り専門で担当だからな。会計はあっち。さっき会計したのは俺への依頼客がいなかったからだ。隣が開いた時にまた来な。俺がしゃしゃり出ると一発でのされちまうんでな」


 客は目を白黒させている。

 こんな対応をする店員、そんな店員がいる店がどの世界にあるというのか。


「ちょ、ちょっとテンシュっ! いくらなんでも……。セ、セレナさん、お喋りはその辺にした方が……」


 ヒューラーが間を取り持とうとセレナと面会客の間に入ろうとする。


「あ、ごめ」

「あ、あんたは今日は警備じゃないんだろ? いいじゃねぇか。積もる話いっぱいあるんだからよ」


「あなたが何者かは知らないけど、営業」

「うるせぇ。お前は何しに来たんだ? 俺への注文じゃなかったのか?」


 そのヒューラーを止めたのは店主だった。

 面会客は、ほら見ろと言わんばかりのドヤ顔をヒューラーに見せつけ、再びセレナに話しかける。


 その一連のやり取りが終わる前に、買い物客は品物を戻して店を出た。


「……テンシュ……今のはあんまりじゃない?」


「俺の仕事の邪魔をしたってこと。会計はあいつの担当。それ以上のこともしないし、あいつの不始末は俺がどうこうする話でもない。お前らからの依頼の品がまだ未完成だしな」


 武器や防具をリクエスト通りに作ってくれる職人。

 他にもそんな店はあるが、その出来は他の店と比べ物にならないくらい良質の物を作ってくれる。

 身内が引き起こしたトラブルだからそこのところは頭は上がらないが、人格的には問題がありそうな人物。

 言いたいことはないわけではない。

 しかしそれはセレナに対しても言えること。

 今回持ち込んだ依頼は自分達の用件であるなら文句の一つも言える。

 だが可愛い後輩の成長を願い、後輩らはそれを望んだ結果の依頼。

 もどかしい思いをひとまず飲み込み、ヒューラーは改めて店主に依頼を申し込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ