客じゃない客 5
入れ代わり立ち代わりでセレナに面会に来る来訪者は後を絶たない。
それでもその間隙を縫って、帰り際の『風刃隊』に声をかけた。
「ウィーナちゃん、ミールちゃん、明日体空いてる? 明日一日またバイト頼みたいんだけど」
「バイト? バイトなら俺が」
「私がやったげるわよ。何よ水臭い」
面会客が口々にバイトに名乗りを上げる。
セレナは彼らに苦笑いしながら押しとどめるが、気を遣われていると思い込んでいるのか親切の押し売りが止まらない。
「え、遠慮しとこうか、ミール。頼りになりそうな人たちこんなにたくさん来てるし……」
「そ、そうだね。古くからの知り合いの人達みたいっぽいし……」
スパアアアアアアアン!!
乾いた音が店内に響いた。
その音の発生元はセレナの後頭部。
店主が手にしているのは、いつ作ったか分からない、自分の身長の半分ほどの長さのハリセン。
店内にいる全員が言葉を失っている。
「お前いい加減にしろよ。お前の世界のお前の店だろ? その店の方針は、俺抜きで決めるつもりはなかったんだよな? で、お前に会計任せただろうよ。素材は泣かせるし客の対応まともに出来ねぇし、客じゃねぇ連中に言いくるめられて、何やってんの?」
「ご、ごめん、テンシュ……」
「おい、お前がどこの何者か知らねぇけどよ、セレナに何やらかしてんだよ!」
「セレナさんの頭叩くってどういうことよ! 身の程知らずにもほどがあるでしょ?!」
面会客にカウンター越しに詰め寄られる店主。
彼らとて、魔物、魔獣などを相手にしてきた百戦錬磨の兵たち。
それでも店主は怖気づくことはない。
それどころか、華麗にスルー。
セレナに向かって止めの言葉を放った。
「ウィリックとか言ったっけ? そいつさえ無事に戻って来るなら俺のことを使い潰そうがこの店がどうなろうが知ったこっちゃねぇんだろうよ! ま、こっちはその分の報酬さえもらえりゃそれでいいさ。お前からの命令をお願いだと勘違いしてたのは恥ずかしい限りだがな」
「め、命令なわけないでしょう! だって私、あなたのおかげで……」
セレナは店主に言い返す。
赤くなりつつある顔は、感情をむき出しにしているせいか。
しかし途中でその言葉を止める。再び口から出た口調は機械的になり、面会客にそれを向ける。
「ごめん、みんな。もう十分でしょ? 帰ってくれる?」
再会出来た喜びを爆発させている彼らは、セレナの言葉で熱を下げた。
店主と双子を睨めつけながら「うん、じゃまた来るね」という言葉を残し店を出た。
「……ごめん、テンシュ。みんな。……私にとってのウィリックはとても大切な人。おんなじように、会いに来てくれた人にとっての私もそうなのかなって思ったら……」
以前店主がセレナに忠告した内容を口にした。
しかし自分の役割を放棄する理由にしてもいいなどと言ってはいない。
「……俺は仕事にかかる。お前ら六人のやつは後回しでもいいっつったな? で、こいつら五人のを先に作ると。……余計なトラブルに巻き込ませてんじゃねぇぞ、セレナ」
『風刃隊』への最初の依頼の品同様、彼らに合いそうな道具を作る。そのため達人が扱うような物ではなく、且つ誰でも扱える物が彼らには相応しいはず。
『ホットライン』の依頼のように、一人一人の動きを確認するまでもない。店主は誰からも何も聞こうとはせずに作業部屋に入っていった。
店主が話を聞く耳を持たないなら、店主抜きで話を進めるしかない。
自分抜きで話を進めるなとは言われたが、バイトの話は一時的なものだし、バイト料の給与などの金銭関係はセレナが一任されている。
店主の作業の音をBGMに、セレナは他の方面の話を始めた。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
店主へのお願いは決して命令ではない。
店主のおかげで自分はここにいる。
セレナが他者にそのことを誠心誠意を込めて伝えるには、店主は別の国から来たのではなく別の世界から来たことを話さなければならなかった。
それは、この世界の者達が店主の世界に行くことを防ぐため、その話を店主から止められていた中身。
大げさかもしれないが、命と引き換えにしてまでも、移動しようとする者を阻止するつもりでいた。
「それで見たことのないあんな大きな物を……」
「ふわふわで、暖かそうだったよね」
この世界にはないぬいぐるみを思い出した双子は腑に落ちた。
「ってことは、ブレイドさん達はその話を……」
「あぁ。知っていた。って言うか、俺達しか知らないんじゃないか?」
「信じられねぇよな。別の世界があったなんて。しかも魔法がない世界? それでも、魔法があるこの世界に住んでる奴らにもない力をテンシュさんが持ってるって……」
ギースが信じられないように首を横に振る。
しかし二回から持ってきたぬいぐるみを見て、初めて見た者達は目を奪われる。
一度見たことがある双子は初めてそれに触った。
「あったかーい」
「ふわふわー」
「毛が抜けるんじゃない? その辺にしたら?」
リメリアが優しく二人を止める。
「……感謝してもしきれないね、セレナ」
「うん。でも言わせてもらえないの。口先だけじゃ気持ちは伝わらないだろうし」
セレナの言葉に一堂頷いた。




