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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

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幕間 二:異世界にない物を贈る 4

「え? 私、テンシュの店に行っていいの?!」


「店じゃねぇ! 俺んとこの店っつったろうが!」


「同じことでしょ?」


「違ぇ!」


 セレナのやややつれた顔に、心の伴う笑顔が浮かぶ。

 店主と違って異世界に強い関心を示している。


「ぬいぐるみ? 何それ」


 店主にそう聞き返してその思いはさらに強くなったようで、昨夜よりは元気になったように見えた。

 しかし店主には、それはそれで面倒な話になる。


「まずお前の金髪と目の色は目立つんだ。その上で通訳の術がかけられていない場所で声を上げてみろ。目立ってしょうがないし、警察に捕まったらかなりまずい。身分証明なんか出来っこないんだからな」


「話聞くだけでも、随分生活しづらい所に住んでるのね、テンシュ」


 その誤解を解く話は、店主が話をしたい本題からずれる。

 苦虫を潰す思いを抱えたまま、セレナの言葉を遮って話を続けた。


「まず店の外に連れ出す。帰りは今日中に戻るから時間の経過は心配しなくていいだろ。外にいる時はなるべくしゃべるな。っつーか、転移したらなるべくしゃべるな。ボディランゲージは共通みたいだからいいと思ったらそんな素振りを見せてくれりゃいい」


「何か見に行くの?」


 店主は軽く髪の毛を掻きむしった。

 言いたくはない。しかしここで言わないと、何のためにこっちの世界に連れて行くのかわからないままになる。


「……お前に縋りつかれるのはご免被る。だからその身代わりをお前にくれてやる。いくつか候補があるだろうから、お前が一番いいと思える物一つだけ選べ」


 セレナは思いがけない店主の言葉に驚いて目を丸くした。

 しかしそれも一瞬のこと。満面の笑顔で抱き着く。


「おっと」


 ビダンッ!

 ひらりと躱され床に体の前面を打ち付ける音が響く。


「痛いぃぃ……」


「遊んでないで、そろそろ行くぞ。店も開店する時間だ」


 この二つの世界の転移する先は、二人の店の入り口。

『天美法具店』に転移するときに、従業員達に見られはしないかと心配していた店主だったが。


「扉から店の外に出る方向に移動したらいいんじゃない? 扉はすぐ閉まるし、見られたとしても私達だってすぐに分かることもないと思うよ?」


 店の前の人通りが多い昼前ならば、店の中から自分達を見られるとも思えない。

 そうして二人は『天美法具店』の外に移動した。


「ファンシーショップ?」


「あぁ。俺もあんまり詳しくないんだが、おもちゃ屋よりはいろいろ種類があるらしい。そこでいいのがなかったらおもちゃ屋かな」


「ファンシーもおもちゃもよく分かんないんだけど……」


 転移する前の会話だが、セレナは要領を得ない。

 そんなセレナを連れてファンシーショップに入った店主は、とにかくセレナを抑えることで精いっぱいとなってしまった。

 セレナは店内の店員も腰を引いてしまうほどの興奮ぶりである。

 それでも彼女は、自分の国の言葉を喋らないという約束事は忘れていないようで、店主に取ってもそれは救いになった。

 しかし彼女は思わず声を上げた。

 目当てのぬいぐるみのコーナーに連れて行った時のことである。

 その直後ダッシュして、一つのぬいぐるみに突進した。

 それは、身長二メートル以上ある彼女の体を受け止めるほどの大きさ。

 セレナはそのぬいぐるみに体をうずめたまま、他の物には目もくれない。

 間違いなく店内で一番大きいと思われるそれは、白い狐を象ったようなぬいぐるみ。

 この店もよくこんなものを仕入れたものだと店主は感心する。

 気になる値段は、値札に五桁の数字が書かれている。それでも割引の値段である。


「これでいいんだな?」


 セレナにそう問いかける。

 勿論彼女からの返事はない。あっても何を言ってるのか分からないし、何も喋るなという取り決めもある。

 が、その意図は通じたらしく、セレナは首だけ店主に向けて何度も大きく頷いた。


「……何も涙目になってまで喜ばんでも……はぁ……」


 思いもしなかった金額は、いくら社長という肩書があっても痛い出費である。

 さっさと向こうの世界に戻ってもらうため、急いで店員を呼ぶ。

 レジは分かるらしく、店主はセレナの肩を指で突いて会計の方を指すと、セレナはそのまま持ち上げて店員の方に向かっていく。


「法具店の店主さんですよね。彼女さんにプレゼントですか?」


 入ったことのない店ではあるが同じ商店街の人間である。顔だけは互い知っている。


「いいえ。犬に餌をやる程度の気持ちです」

「ずいぶん高価な餌でうらやましいです」


 毒舌をさらりと受け流す店員の応対は流石である。

 だが店主は、余計なことを口にしなくていいからとっとと会計を済ませてほしい、と女性店員にやきもきする。

 店員の言葉をセレナが理解できていたらどうなっていたか。

 店員が金額を打ち込んでいる間、店主は昔言われたことを思い出す。


『遠足は、家に帰るまでが遠足です』


 セレナがそっちの世界に戻るまで油断はできない、と気を引き締める。


「えっと……」


 現金払い、そして釣りを受け取った後、店員が店主に声をかけてきた。

 まだ何か用があるのかと店員の方を向く。


「そのままお持ち帰りされます?」

「え?」


 店主には、店員が言っている意味が分からない。

 店員に促されるままセレナを見ると、抱き締めて抱え込んで持ち上げているのだが、柔らかいぬいぐるみに埋もれているようにも見える。

 うちの若い連中に、エルフがぬいぐるみに埋もれて喜んでいるなんて教えてやったらどれだけはしゃぎながら見に来るだろう。

 そんなばかばかしい妄想を一瞬だけ浮かべた。

 しゃべるなとは言ったが、ぬいぐるみに埋もれながら何かしゃべっている。うーうー唸っているようにしか聞こえない。

 普通に見たら微笑ましい姿。

 しかし、セレナは人間ではない。

 繰り返す。

 セレナは人間ではない。

 店主はそう主張したいのだができるわけがない。

 そんな気持ちは知るよしのない店員は、温かく見守るような目で二人を見ていた。


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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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