トラブルは続く 4
「そ言えば一日に二回向こうに訪問したのか。一度目の時間が短けりゃそういうことも出来るんだな」
『天美法具店』に戻り、店主は呟きながら背伸びをする。
一日の終わりに約五時間の労働。風呂に入って布団に入ればすぐに眠りに就けそうなほど良い疲労感が店主の体の中に存在している。
「セレナが来たのは八時半。ラーメン一杯でよく一時間半もかけられるよな……。午後十時頃に向こうに行って、で、今が……が? 十二時……だと……?」
時間の経過がないはずの、セレナの世界に滞在中のこちらの世界。
『天美法具店』の壁の時計はそれから二時間経過した十二時を示していた。
「店の外に出た分は時間が進む、ってことか? あの店に何か力が存在してたのか? そんな気配もなかったが……。とにかく今日はまず寝るか」
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「……ということがあってな。お前が何か仕掛でもしてたのかって思ったんだが」
翌朝、早速『法具店アマミ』でセレナにその話をしたところ、セレナも首をかしげるばかり。
「通訳の術にそんな効果があるとは思えないんだけど。でもほかに心当たりないし」
魔法、魔術は元々目的があって開発される。
その目的以外の効果が発揮された場合、想定外の効果ということであるし、その因果関係に気付かなければずっと原因不明のままと思われることもある。
セレナは顔をしかめながら頭の中を一生懸命働かせるが、思い当たる節がない。
結論が出ないと見るや、早速作業場に向かう。
『法具店アマミ』の開店前に立てた予定がほとんど進んでいないのだ。
「まぁ外出することがなきゃそれでいい。それよりとっとと作り直さなきゃな。それとお前が俺をどう思ってるかは理解できた。だがあんな風に変な客が来たらお前が抑えとけよ? それしか仕事ねぇだろ」
「そ、そんなことないでしょっ」
結局昨日も店を開けずじまい。
店主の言う変な客が来て店主に絡み始めたら、また新装開店日が先延ばしにされる。
自分との再会や店の開店を喜んでくれるのは素直にうれしい。
だが、自分が再会したい相手が戻ってきたという話はまだ聞いていない。
この店を拠点として、ウィリックをはじめとする行方不明者の情報収集と救助活動が出来れば。
そのためにも早く店の経営を軌道に乗せたい。セレナはそんな思いもこの店に託している。
しかし、やはりセレナが一時行方不明になっていたという話は広まっており、ようやく二人揃って『法具店アマミ』の新装開店の時間を迎えても買い物客はほとんど来ず、店に入ってくる者はみなセレナに会いに来る者ばかり。店の名前が変わったことに驚きながらもみな一様に喜んでいる。
蚊帳の外の店主だが、改良作業が捗り、展示品として恥ずかしくない物と判断できる品物を次々と完成させていく。
「ふぅ……。セレナ、とりあえず今日はここで戻るわ。こっちはこれから一日が始まるんでな」
「え? 一日中いるんじゃないの?」
客足が一旦途絶えた昼前。
セレナの望む通り一日中ここで仕事をすれば、店主は自分の店に戻ればすぐに一日の仕事が始まる。
休みなしに二日分の仕事をするのは、集中しない限り難しい上、そんな仕事が終われば休養もしっかりとる必要がある。
「お前が客とおしゃべりしてる間に、ショーケースの一台に並べてあるものはみんな作り直した。机に並べてあるようにくっつけりゃ十分だ」
「テ、テンシュ」
「ん?」
『天美法具店』に戻ろうとした店主は思わず振り向いてセレナの方を見る。
その口調、そしてその表情には、店主にはなぜか彼女に焦りの色が見え隠れしているようにも見えた。
「……あぁ、岩の件か? 早いうちに何とか移動させてくれ。滑車か荷車か何かがあればこっちに持って来れるだろ」
「え? あ、うん……。……あの……」
「こっちに来るタイミング考える必要があるな。こっちの一日が終わった直後にここに来りゃ、戻ったら休むだけだから頑張れるだけ仕事が出来るってことだしな。ま、いろいろ工夫してみるさきちんとその予定も進められてるかどうかの監視も相変わらず必要だな。じゃあな」
セレナが何を考えているか店主にはおおよその見当はつく。
しかし敢えて何も聞くつもりはない。
自分が自信を持って出来ることと言えば、宝石を中心とする加工と物作り。
それによって、自分が手掛けた物が秘めている力を効果的に発揮させることが出来ること。
それ以上の何かを期待されても応える気は全くない。
そして店主がこの店に求める日々は、今日のこの時間までの職場環境。
誰からも絡まれることなく、作業に集中して仕事を進めていくこと。
「それ以外の面倒事はそっちでやってくれ。なんせここは俺の住む世界じゃないからな」
店主が口にしたこの言葉は、この世界の住人が耳にしたら無責任に聞こえるかもしれない。
言った本人もそれくらいのことは想像はつく。
それでも店主は言わずにいられなかったのは、店主にもこの世界に求めていた物があったから。
そしてその思いを自ら制しなければならない立場であることも自覚していたから。
セレナにはその一言は聞こえていなかったようだった。
店主にはまたここに来る意志があることが分かり、まだ物言いたげだったがどう言っていいのか分からないままその思いを堪えてその場で店主を見送った。




