トラブルは続く 3 セレナからの依頼と効果
『法具店アマミ』に店主と一緒に戻ってきたセレナは渋い顔をしている。
インスタントラーメンのダメージが意外と強かったらしい。
接着を頼もうと思ったが、セレナは調子が悪そうに見える。
しかし店主は彼女に特に思うことはない。
「魔法の力は当てにするには難しいか」
はめ込みで完成できる同じ形の杖を二本、店内に展示されている中から選び早速作業に入る。
「火の力を組み込んだ杖を二本作った。一本は普通に魔力で攻撃できる杖だ。もう片方がお前が持ってきた宝石を組み込んだ杖、『リミットさん』とでも名付けようか。ま、お前にとっちゃおもちゃだろうからそんな名前で丁度いいだろ。この二つを比べて効果の違いを見る実験をしたいが……なんだ? どっか調子悪いのか?」
「テ……テンシュ……いつもあんなもの食べてるの……? 食うなとは言わないけど……自然の食材使った方がいいよ?」
店主はやや苦し気なセレナを労わる素振りも心配もしない。
説明も聞かず、店主の住まいの台所を漁って料理を作る勝手な行動を起こしたセレナもセレナである。
それでもセレナの顔色が悪くなるほどでもなく、間もなく体調は元通りになる。
やれやれと店主は肩をすくめ、杖を作った経緯の説明を続ける。
「それなら斡旋所の鍛錬所ならいいかも。壊してもいい的とかはたくさんあるしとっても広いし安心安全」
そんな場所があるならそこで実験を行っても問題はないだろう。
しかし二人の間で言葉が通じない問題がある。
斡旋所の施設の一部なら、セレナの術をおいそれとかけるわけにはいかない。
「ならここで説明しとこう。それぞれの杖の効果を見るために、二か所に同じように的を並べること。間を開けて的を並べるんだが奥に向かっての縦方向と、左右の横方向の二種類を二か所に。その範囲は目一杯並べてほしいが、現地の広さを見てからだな。縦横に見える位置にお前が立って、同じ力を使ってその杖を通じて発揮させること」
その要領が分かったセナレは頷く。
あとは到着までに誰かから絡まれることが心配の種。
「それは私がついてるし問題ないってば。それよりこれ、どんな違いが出るんだろ」
自分のために作ってくれた道具と勘違いしているのか、店主からの注意が耳に入ったかどうか分からないくらい浮かれているように見える。
人の話を聞かない店の経営者で、店が成り立っていけるかどうか。
そんな不安は一つもない店主には、まるで他人事のように興味津々である。
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「へぇ……ここが鍛錬所か……。プロ野球公式戦の球場くらいあるか? でも観客席は斜めだから、あれが平面になると……球場よりも広いのか?」
セレナから手を引かれながら、何事もなく斡旋所に到着する。
子供じゃないいい年をして手を引かれて歩くのも恥ずかしいやら情けないやら。
しかし迷子になったら元の世界に戻るどころではない。『法具店アマミ』に戻ることすら難しい。
外に出ることを想像すると必ずそんな心配が生まれる。
これまではそんな思いはあくまでも想像の範囲内。
店主が今まで見たこともない、町中にある看板や標識に書かれた文字はすべて現実。
時々耳に入る住民同士の道端での会話も理解不能。セレナも時折通行人から驚かれ、喜ばれ、普通に声をかけられる。
この外出はその心配に現実味を帯びさせた。
恥ずかしいはずである迷子防止の手つなぎ。
しかしセレナに掴んでもらっている自分の手首に受ける感覚から、やはり想像通りの安心感が生まれている。
「心の中を覗かれる魔法なんかあったら悶絶しちまうな」
「……? △×●◇卍?」
「あぁ、独り言も聞かれても恥ずかしくはないってのは助かるな。うん、何でもない。そのまま案内頼む」
そうこうして歩いて行くとやがてたどり着いた斡旋所。冒険者のための宿泊施設が併設されており、隣接する広い建物は鍛錬所。
鍛錬所へは斡旋所の建物の中を通って中に入る。セレナは受付で何やら会話をしてからそのまま店主の手を引いてその通路に進む。
そこを抜けて出てきた場所を一望し、店主は感心した。
何人かが武器での打ち合いによる模擬戦をしている。無関係な者を巻き込まないように気配りをしたのであろう。奥の隅でそれは行われていた。時間帯も夜のため、利用者はその者達だけ。中央は存分に使うことが出来た。
「ここを目一杯広げて的を並べるのは流石に時間がかかりすぎる。適当に並べてい……って言っても俺の言葉も分からねぇんだっけか」
いつの間にか手を放したセレナは並べる的を取りに行く。ここで離れても置き去りにされることはあってもはぐれることはない。
店主がセレナの後を追って行ったのは心細くなったのではなく、少しでも早く終わらせられるように手伝うため。
身振り手振りだけのコミュニケーションは意思伝達に時間がかかるが、事前に打ち合わせをしたせいかスムーズに事を進む。
段ボール箱のように軽い、セレナの身長の半分くらいの箱を全部で四十個を、五メートルくらいずつ離して縦に二列、横に二列、交わらないように列もそれぞれ離して並べていく。
まずは縦方向で、普通の杖を使って火の魔法を試し打ち。セレナから近い箱二つを燃やし尽くして終わった。
店主もセレナも、まぁこんな物だろうという目で見る。
言葉は通じない。しかしセレナは思わず声をかけてしまったのだろう。店主には何と言ったか分からないが、じゃあ本命はどうかな? という期待が止まらない顔をしているセレナ。
彼女は『リミットさん』を構えてもう一列の前に立つ。
ほぼ同じ距離をとり、同じ力量を込めて火の魔法を放つ。
大体五メートルおきに置かれた縦一列十箱が燃え尽くされて全滅した。
「◇●▽※☆×?!」
普通の杖の効果と比べ、店主は予想した通りの結果なのか落ち着いているが、セレナのリアクションが激しい。
一体自分は何をした?
現実を把握しきれないようなセレナの驚きっぷりを見て店主は感想を聞こうと彼女に近寄るが、近寄ったところで何かが意思を感じ取れるわけでもない。
気を取り直したセレナが見た方向は、まだ残されている横方向への試し撃ちの箱の二列。
深呼吸したのは、気持ちを切り替えるためか。表情が一変して真剣な顔で的を見る。
杖から火が飛び出ると、周りの箱を吹き飛ばし、目標の一個の箱だけを燃やし尽くした。
セレナはさっきの手ごたえを覚えているようで、その結果に不満顔。
残った最後の一列に『リミットさん』を構えて同じ力を込めて火の魔法を放つ。
「☆◎×□●※◆!!」
やはり目標物全てを燃やし尽くした。
セレナは何やら叫びながら、店主に掛けよって抱き着く。
全身で喜びを表現しているのは間違いない。
女性だが、冒険者である。
そんな体力がある者に力いっぱい抱き着かれて無事でいられるはずもない。
が、守護の力が働き店主は苦しい思いもせず無傷で済むが、動くに動けない。
もがいて抵抗して店主はようやく解放されたが、店主の意図に気付いたわけではない。
我に返って、やるべきことはすべてやったこと。目的を果たした後はすぐに店に戻ることを思い出しただけのこと。
急いで鍛錬所を利用した箇所を片付け、斡旋所に使用終了の報告を告げて『法具店アマミ』に戻る。
店内に入るなり、セレナは店主に再び抱き着く。
「すごいすごい! まさかあんなに効果が違うなんて思わなかった!」
店主から離れると、二本の杖を見比べる。
寸分違わぬ杖。違うのはその宝石が加わっているかどうかのみ。
「力が増幅される効果があるのね。これはちょっと私には判別できないな。言われてようやくその力の正体がわずかに分かる気がするくらいだもん。テンシュさんすごいよ」
興奮と感動が覚めないセレナ。
見ずとも結果が分かっていた店主は、そんな彼女を冷静に受け流す。
「ハイハイ。杖二本作るのに三時間。それから外出した時間が二時間か。ややこしくなるからもう帰るか」
「え? 帰っちゃうの?」
「お前に襲われるからやだね。鍛錬所でどんだけ離れようと思ったか分からなかったろ」
「あぅ……」
襲われるというのは冗談として、それよりも日をまたいでからの帰還の時間の計算が面倒にならないうちに早く戻りたい。
何泊したとしても自分の世界に戻る時点では混乱はない。
しかし次に『法具店アマミ』に行くタイミング次第ではややこしいことになりかねない。
前回の一泊ですらそのカウントが面倒になってしまった。
それに十分懲りた店主は、報酬の件は後で貰うことにしてとにかく早く戻るつもりでいた。
「また明日来れるんだから変な顔すんな。腹もきちんとケアしとけよ?」
セレナの苦い経験の記憶を呼び起こす一言を残して、この日の店主の仕事はどちらも終了と相成った。




