↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/105

仲間入り?

「皆さん………ご迷惑とご心配をおかけして、本当に申し訳ありません………!」


 勢いよく下げた頭の上には、安堵の息を漏らす4人の姿。左から、白鹿様、紫狐様、青兎様、向日葵様だ。私の隣には、駐屯地まで無事私を連れて帰ってきた黒馬様も立っている。


「まあ全ては黒馬が悪いってことで」

「そうだな」

「謝って、黒馬」

「何でだよ」


 多分だけど、私があまり責任を感じないように、みんなはわざと冗談を言ってくれている。それでも私は顔を上げないままでいると、後頭部に優しい手が乗って、ゆっくりと撫でられる感触があった。驚いて顔を上げると、私を撫でていたのは白鹿様で。


「ごめん、菖蒲ちゃん」

「白鹿様………?なぜ謝るのですか………」

「菖蒲ちゃんのこと、ほったらかしだったかなって」

「え………」

「向日葵と会ったのが久々で、菖蒲ちゃんのことそっちのけになってたかもって、僕たちも反省してたんだよ」


 すると今まで黙っていた向日葵様も私に駆け寄ってきて、ぎゅっと手を握ってくれた。その顔は悲しげに歪んでいて、本当に心配してくれていたことが窺える。


「菖蒲ちゃん、ごめんね………!私、菖蒲ちゃんの気持ち考えずに、あんな事………」

「向日葵様や皆さんが謝ることは本当にないんです!悪いのは、私なんです」


 皆さんを謝らせたい訳じゃなかった。でも、私が変な意地を張ったり、変な態度を取ったせいで、こんな風に逆に皆さんに責任を感じさせて………。ちゃんと説明して、謝るべきなのは、私だ。


「向日葵様の気持ちを考えられていないのは、私の方なんです。私が、我儘、だから………」

「我儘………?」

「わ、わたし………」


 言いにくそうに言葉を濁す私を、皆さんの不思議そうな視線が囲う。ここまで来たら、言うしかない。


「あの、私………、皆さんのこと、向日葵様に取られるんじゃないかって、ずっとモヤモヤしてて」

「え」

「ヤキモチ妬いてた、面倒くさい女なんです!」


 しーん、と静まり返るその場には、ぽかんとする白鹿様と紫狐様と青兎様がいる。黒馬様には、さっき伝えたことだし、向日葵様は私の気持ちを知っていたので大して驚いてはいないようだ。


「でも、取るとか取られるとか、そういうのじゃないって、ここに帰ってくる間、改めて考えたんです」

「どういうこと?」

「向日葵様も、私にとっては大切なんです」


 その言葉に、今度は向日葵様の目が大きく見開かれる。


「だ、だから、私は向日葵様とも一緒にいたいです」

「へ………!?」

「6人で、一緒にいるんです。向日葵様のことも、誰にも渡しません」


 勢いのままに告白して、私は緊張するように体を強張らせていた。穴があったら入りたいとは、この事なのだろうか。今すぐにでもこの場から逃げ出して部屋に篭りたいところだが、そうもいかない。言った言葉の責任は、言った本人が持たなければ。


 向日葵様は、しばらくポカンとしていたが、徐々にその頬を赤く染めた。まるで盛大な愛の告白のような私の言葉に、どう返したらいいのか分からないようだ。


「な、わ、渡さないって、菖蒲ちゃん何を………」

「向日葵様も、私のことが好きだと仰っていたので………」

「そ、そうだけど!急にそんな………」


 大胆なこと………、と背を向けてモジモジとのの字を書き出した向日葵様を、黒馬様筆頭に男たち4人はシラーっと眺めていた。そこだけは、私と向日葵様の空気感とは違い、1度くらい温度が低い気がした。


「………何これ」

「結局そことそこがくっ付くの?」

「……………」

「………帰ろうぜ」


 踵を返し、スタスタと自室へ帰っていく4人の背中に、私は慌てて声を掛ける。


「あ、み、皆さん………!まだ話は終わってな………」

「菖蒲………、菖蒲って呼んでいい………?」

「ひ、向日葵様………?」

「私、嬉しい。菖蒲がそんな風に言ってくれて………」


 動揺する私を他所に、2人取り残された向日葵様は、私に抱き付きながら、そっと黒馬様の背中を見つめた。


(………私には、口付けしなかった癖に)


 菖蒲を探すと言ってみんながここを飛び出して行った時、黒馬の後を付けていた向日葵は、秘密の泉での黒馬と菖蒲のやり取りを、全て見ていた。


『黒馬、お願い。………口付け、して』

『……………』


 昨日、向日葵が医務室で黒馬に言った言葉。黒馬はしばらく驚いたように固まっていたが、やがて向日葵から顔を背け、


『………悪い。それはできない』

『どうして………!?私じゃ駄目………?』

『……………』

『………菖蒲ちゃんが、いるから?』

『……………』

『儀式の為に一緒にいるだけじゃないの………?儀式と黒馬の個人的な感情は別で………』

『儀式のことは関係ない』

『………もしかして………黒馬、菖蒲ちゃんのこと………?』


 結局その話は、突然黒馬が人の気配がすると言って扉を開けに行ったから中断されてしまったが、あの時に向日葵は薄々勘付いてしまった。あの黒馬が、菖蒲ちゃんに、片想いをしているのだと。


 それからは何とか黒馬の気を引く為に、頑張って色々なことを試した。ずっと黒馬の側に引っ付いて、菖蒲が入る隙を与えなかったつもりだ。でも、黒馬は、


(また………見てる)


 いつだって、黒馬の目線を追うと、その先には菖蒲がいる。そして、それは白鹿も、紫狐も、青兎も、みんな同じだった。みんな、彼女に………。


 そうして目の当たりにした、泉での一部始終。向日葵の時は頑なに断っていた口付けを、菖蒲が、向日葵と全く同じ言い回しで懇願したら。彼は、何の躊躇いもなく、1秒も考えることなく、唇を重ねていた。それを見たら、………納得、するしかなかった。


 勿論、みんな向日葵のことも大事にしてくれている。しかし、菖蒲のそれとは違う。あくまでも、家族、仲間として大事にされている向日葵と、女として大切にされている菖蒲。そもそもみんなは、向日葵と菖蒲を比べてなんかいない。


(みんな、菖蒲のこと奪い合ってるんだ………。仲良さそうにしといて、水面下で…………)





 抱きついてきたまま、何かを思案するように、遠ざかっていく4人の背中を見る向日葵様を、私はただ困惑しながら受け止めるしかなかった。纏わりつく向日葵様を引き剥がす訳にもいかないので、4人を追いかけることができない。しかし、そんな彼らを呼び止める声が1つ。


「黒馬、白鹿、紫狐、青兎!」


 黙ったままだった向日葵様が、彼らを呼び止めたのだ。ピタリと止まった4人の足がこちらを振り返り、怪訝そうな目で私たちを見ている。向日葵様、一体何を考えているのだろう。


「みんなが菖蒲に惚れる理由、よく分かった。女性らしいのに妙に男気があって、今時珍しいくらい真っ直ぐで、嫌味もないし美人だし」

「ひ、向日葵様………?」


 相変わらず向日葵様が何を言いたいのか分からず、私だけでなく、黒馬様たちも困惑している。だがそんな置いてけぼりな私たちなど関係なく、向日葵様はいつもの明るい笑顔を浮かべて話し続ける。


「私も興味が湧いちゃった、菖蒲のこと!」

「え………」


 そして。


 向日葵様は、私の頬をぐい、と己の方へ近付けた。ふに、とそこに向日葵様の柔らかい唇が重なる。ぽかん、と固まっているのは、黒馬様たちも同じだ。まさかの向日葵様は、黒馬様たちが見ている前で、私の頬に接吻をしたのだった。


「私も仲間に入れてくれるんだよね?菖蒲」

「ぁ………、ぇ………?」

「向日葵、お前何して…………」

「改めて、よろしくね、みんな」


 挑戦的な笑みを浮かべる向日葵様。もしかして私、彼女の何か新しい扉を開けてしまったのだろうか。


 そしてしばらくの静寂の後、ぶち、という4人分の血管が切れる音が響いて、後にも先にも、あれほど恐ろしい般若のような顔をした彼らを、見たことはなかった。


 波乱はまだ、終わりそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。