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友達、だから。

「熱なさそうで安心したよ。すごい真っ赤だったからさ」

「ごめんなさい、向日葵様………」


 本当は体調不良でも発熱でもないのに、向日葵様が心配して様子を見に来てくれて、一応大丈夫なのかどうかの診察までしてくれた。自分がどうして真っ赤だったのか、はっきりと心当たりがあるので、その診察結果は予想できたのだが、心当たりを正直に向日葵様に言う勇気はなく、ただただ私は、無駄に心配をかけてしまった彼女に謝った。


 気にしないで、と笑いながら、簡単な診察道具を片付ける向日葵様の背中を、じっと見つめる。聞きたい。向日葵様の本当の気持ちとか、黒馬様たちのこと、どう思っているのかとか、あの後………黒馬様と口付けしたのかどうか、とか。


 でも、勇気が出ない。せっかく私のことを友達と言ってくれた、数少ない女性。そんな向日葵様に、


『本当は、私からみんなを奪った菖蒲ちゃんのことが憎いの』


 とか。


『私、みんなのことが好きなの。だから、連れて行かないで』


 とか。


『黒馬のことが好き。だから口付けしたの』


 とか。


 言われたくない、聞きたくないと思っている答えが返ってきたら、私はどう返事をするのだろう。結局私はまた、


『そう、ですか。私は応援します!向日葵様と、黒馬様のこと』


『皆さんのことも、もう連れて行ったりしません。町へは………、私1人で帰ります』


 なんて、思ってもいない調子のいいことを、作り笑顔で言って。向日葵様を安心させようとするのだろうか。自分の気持ちに蓋をして、我慢して、目を背けて。


「ねえ、菖蒲ちゃん」

「は、はい!」


 1人で考え込む私を、向日葵様は背を向けたまま呼んだ。咄嗟に出た返事の声が裏返って、ぎこちない空気が流れる。すると、向日葵様はゆっくりと振り返った。その顔には、いつもの明るい微笑みはない。真剣に、真っすぐに、私を見つめる目。


「私、菖蒲ちゃんのこと、好き」

「え?」

「あ、ご、ごめん突然!変な意味に聞こえるよね!友達として好き、って意味ね!」


 あまりにも唐突な告白で、思わずドキッとしてしまったが、慌ててされた訂正に落ち着きを取り戻す。勿論私も同じ気持ちだし、そう思ってもらえているのは素直に嬉しい。だが、何故今突然そんなことを言いだしたのか。向日葵様の意図が読めず、じっと彼女を見つめる。


「まだ会って間もないのに、すごいいい子だって分かったし。喧嘩も強いし!」

「け、喧嘩のことは、忘れてください………。反省していますので………」

「ふふ。ごめんごめん、ちょっと揶揄っちゃった。でも、いい子だって思ったのは本当だよ。………みんなが、菖蒲ちゃんのこと気に入るのも、納得できる」


 そのみんなというのが、黒馬様たちのことを指しているのが分かって、私は言葉が出なくなった。だって、その言葉を口にした向日葵様の横顔が、とても寂しそうだったから。やっぱり、私は向日葵様にとって、大事な人たちを奪った存在なんだと、実感させられる。


 一体、その言葉に対してなんと返せばいいのだろうか。


「私、菖蒲ちゃんと友達でいたい。だから、ちゃんと話したい。私の気持ちとか、黒馬たちのこととか」

「向日葵様………」

「だから、もし菖蒲ちゃんも同じ気持ちなら………。遠慮せずに、正直に気持ちを教えてほしい」


 そこで私は気付いてしまった。私にそう打ち明ける向日葵様の、手。胸元の辺りで固く握られたその手が、微かに震えている。………そこまで私と、同じなんだ。聞くのが、怖い。でも、聞きたい知りたい。貴女が、みんなのことをどう思っているのか。勇気を出して、向日葵様は確認しようとしている。


 だったら、私も目を背けてばかりではダメだ。ちゃんと向日葵様の気持ちに答えないと。自分の気持ちに向き合わないと。


「菖蒲ちゃんは、みんなのこと、好き?」

「…………」


 迷うことなど無かった。返事は、ただ1つ。


「………好きです」

「…………」

「大切な人たちです」


 向日葵様が、皆さんのことを大切に思っているように、私も皆さんのことを大切に思っている。過ごした年月の長さとか、どっちが出会ったのが先かとか、そういうものはきっと関係ないんだ。


「………そっか。嬉しい、菖蒲ちゃんが正直に話してくれて」

「ごめんなさい、私………」

「ここで変に遠慮して、私に譲るようなことがあったら、その方が嫌だった。だってそれじゃ、菖蒲ちゃん1人だけ苦しいもん」

「向日葵、様」

「友達だもん。菖蒲ちゃんのこと、大切。だから、菖蒲ちゃんにも傷付いてほしくない」


 だから、と前置きして、再び向日葵様は私を真っ直ぐ見つめた。その揺らぎない瞳は決意に満ちている。私の気持ちを確認して改めて、向日葵様の中で覚悟が決まったようだ。


「だから………。私も、遠慮しない。自分が納得できるように、みんなに、黒馬に、私のこの気持ちいっぱい伝える。それで、また儀式に戻る日が来た時に私を選んでもらえるように、頑張る」

「…………」

「頑張った上で、みんなが菖蒲ちゃんを選ぶなら、私は納得して、諦める」


 菖蒲ちゃんにとっては、嫌な女になっちゃうね、と自嘲気味に笑う向日葵様に、私はすぐさま首を左右に振った。そんなの、向日葵様にとっては私が邪魔な存在だ。お互い様だし、私は向日葵様のことを嫌な女だなんて感じたりしない。こんな風に面と向かって気持ちを教えてくれて、その上で友達でいたいと思ってくれて、むしろ感謝しかない。


「私、向日葵様のこと好きです。尊敬します。誰にでも優しくて、立派な夢の為に頑張っていて、明るくて元気で」

「菖蒲ちゃん………」

「本来だったら、私のことを憎んでいてもおかしくないのに。それでも向日葵様は、私に優しくしてくれて、好きだと言ってくれる。私にないものを持っている、貴女が好きです」

「………ありがとう………。なんだか照れくさいね」

「ふふ、先に言ったのは、向日葵様ですよ」


 好きだからこそ。お互いに遠慮はなし。私たちは、そう改めて確認しあった。お互い嫌いになれたら、楽だったのかもしれない。でも、お互い好きだから。きっとその先の結果に、納得できる。


(向日葵様だったら………)


 例え町に帰る日が来て、彼らがみな、彼女を選びここに残ると言ったとしても。私は納得して、別れを告げられるのだろう。

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