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第6話 パパの勝ち


「す、すまんかった。」


台風一過。

女王ハリケーンは多大な被害をジャスに与えたものの無事に勢力を弱めていた。

ローラルダは両手を合わせ本当に申し訳なさそうに頭を下げる。


「妾の方からルルの話を振っておきながら、汝には迷惑をかけた」


「いや、大丈夫ですよ。女王様も大変だったんですね」


女王から回復魔法をかけてもらったお陰で体の調子は元通り、むしろ元より調子が良い状態となっていた。

腕をグルグルと回しながらジャスは笑ってみせる。


「大変という言葉で片付けられるものではなかったがの。はぁ、その話はもう良い。汝、名は?」


「ジャスと申します、女王様」


「ローラルダじゃ。妾の名はローラルダ。今後からは名で呼ぶが良い」


「承知しました、ローラルダ様」


「それとじゃが、もう少し砕けた口調で話せ。ジャスよ、汝は家臣ではない、妾の友となるかもしれぬのだからな」


「友・・・ですか?」


古代竜の、しかもその王族と友とは光栄極まりない話である。

しかしながら、言葉とは裏腹に何やら嫌な予感がジャスの脳内に警鐘をならす。

何故かはわからない。

しかし原因である人物は目の前の龍の女王以外にあり得ない。


「そう、友じゃ!妾は若かった頃から友はコレを通して作ると決めておる!」


グっと陶磁器のような真っ白な拳をジャスに向ける。

どんな美術品よりも美しいそれは、ジャスには死神の鎌のような妖しい光を纏っているかのように見えた。


「妾は汝が気に入った!是非、友になってほしいと思っておる。ジャスよ・・・壊れてくれるなよ?」


その言葉が終わるやいなやローラルダを中心に風が吹き荒れ、草花が無惨に散っていく。

卵はあらかじめ結界が張られていたのか、東屋の机の上に先程と変わらない形で大事に置かれているままだ。


(ドラゴンって脳筋思考なところがあるから戦闘もあり得ると思っていたけど、まさか古代竜がのしかも女王とやる羽目になるとは・・・。俺、死ぬかも)


脳内で諦めの溜息を吐きつつ、ジャスは口を開く。


「ローラルダ様、質問が」


こうなったら仕方がないと、ジャスも魔力を練っていく。

最初から全力でいくつもりだ。

出し惜しみをする余裕なんて当然ない。

そのような愚行は即、死に繋がる。


「なんじゃ?申せ」


ジャスは視線を動かし部屋の大きさを確認する。

天井はジャスの身長の20倍ほどの高さ、縦横は更にそれの5倍程か。

建物の材質はよくわからないが間違いなく簡単には壊れない。


(遠慮は、なしだ)


「友達、少ないでしょ?」


刹那、ジャスの姿が揺らめき、消えた。

と、同時にローラルダの前方、左右から両手の短刀を逆手に致命の一撃を放たんとするジャスの姿が。


6つの刃が各々、華奢な女王の首、胸、腹部に吸い込まれ、鮮血が舞うかと思われた瞬間、3人のジャスの姿が砕け散った。


そしてローラルダは優雅に後方の何もない空間へ手を伸ばすと焦った表情のジャスが現れた。

風を切り裂く速度で振るわれた短刀は、しかし、しっかりと女王の指に挟み込まれており微動だにしない。


ローラルダはニヤリと悪戯な笑みを浮かべ、


「正解じゃ。残念ながらほとんどおらん」


と4人目のジャスを部屋の壁まで殴り飛ばしながら先程の質問に答える。


壁に激突する寸前、先程の3人と同じようにジャスの姿が砕け散る。

その瞬間、砕けたジャスの欠片が突如燃え盛り、炎の雨となって女王に降り注いだ。

しかしそれも片手を軽く無造作に振るだけで炎の全てを消滅させてしまう。


「色々な手品を持っておるのぅ。だが、妾には届いておらぬ。そうじゃなぁ、少しでも妾に手傷を負わすことが出来たなら汝の勝ちにしてやろう!」


叫ぶと同時にローラルダは最初にジャスが消えた場所に移動し、右手で突きを放つ。


僅かに軌道を逸らされた自らの右腕を見て口角を上げる。

姿は見えないが、今の攻撃が受け流されたと判断。


次に左手の爪による凪ぎ払い、その動きのまま半回転し、いつの間にか生えていた尻尾で同じくその空間を凪ぐ。

その威力は凪ぐというよりも空間そのものを抉り取るような威力を持っていた。


女王の一連の攻撃の後、突如、周辺にジャスが纏っていた外套の一部であろう布が細切れになって宙を舞った。

布地が舞う中、うっすらとジャスの姿が出現する。


一撃も当たっていないはずの彼の外套は既にボロボロであった。


(お互い攻撃が当たっていないのにこれだけ差が出るか。そこそこいい装備だったのに衝撃だけで台無しだ)


「よく避けたの!殺してしまったらどうしようかと思ったわ!さて、次は何を見せてくれるのじゃ?」


両腕を広げ無防備に誘うローラルダ。

その表情はいきいきとしており、心底楽しんでいる様子が見てとれる。


(どうせまともにやっても勝ちはない。それならバクチを打つか。でも、上手く行っても行かなくても痛そうだなぁ・・・)


脳裏に浮かんだ自分の策の行く末を想像し、冷や汗を流す。

しかし、このまま長期戦を行うつもりはジャスにはなかった。

体力、魔力共に相手の方が遥かに上なのだから、仕掛けるなら短期戦で。


「それなら、俺の勝利というやつを見せて差し上げますよ」


そう告げるジャスの姿が掻き消え、またもローラルダの前方と左右に出現する。

それに「何じゃ、またか」と明らかに落胆の色を見せ、同じように迎撃するローラルダ。

ジャスの分身が砕け散り、後方に振り返ろうとした彼女を違和感が襲う。


今、手応えがあった。


(正面が、砕けておらぬ!?)


彼女は先程と同様に全てのジャスの腹部を正確に拳で撃ち抜いていた。

それにより左右の分身は砕け、光の粒子となったが正面のジャスは、


「根っっ性ぉお!!」


「くっ!」


口から血を吐きながら無防備となったローラルダの首に放った斬擊は、しかし身をよじった彼女に惜しくもギリギリで避けられた。


そして逆に攻撃を空振り、隙だらけとなった腹部に強烈な蹴りを受けてしまいジャスは大きな衝突音と砂塵を生じさせながら東屋まで吹き飛ばされる。


強烈な攻撃を2発も腹部に受け、ジャスの命は風前の灯であった。


そんな朦朧とした彼に小さな影がさす。

地面に転がるジャスの頭上、頭に卵の殻を載せた小さなローラルダが机の上から覗き込んでいた。

そして天使のような幼女は、


「パパの勝ち、だね」


と意識を失いかけているジャスに屈託のない笑顔を向けた。


その様子に蹴りを放った格好のまま唖然とするローラルダの頬からは赤い血が一筋流れていた。


お読み頂きありがとうございます。

しばらく毎日更新続けていきますので、良ければまたよろしくお願いします。

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