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第29話 飲みに行こうぜ!


「うぉーい、ジャス~暇だろー?」


そろそろ閉店の準備をしようかと考えていたジャスの耳に大変失礼な確認をして来る声が届いた。

声の主はジィジィと夏の虫の声が響く中庭のドアを閉じながら爽快に笑ってみせた。


「そーんな失礼なことを言う悪い人は片付けの手伝いをしてください!ダリウスさん!」


その声の主に向かって腰に手を当てたサーナが、ピッと店内の窓を指差す。

窓とカーテンを閉めて飾っている花瓶の水を交換しろという意味だが、それを正確に理解したダリウスは「へいへい」と面倒臭そうにしながらもちゃんと作業を進める。

なんだかんだと彼はサーナに甘いところがあった。


(古代竜を顎で使うとは、サーナちゃん恐るべし)


カウンターの拭き掃除をしながら、真面目に花瓶の水を入れ換えるダリウスを眺める。

改めて見てみると仲が良い兄妹のように見えなくもない。

基本的に兄が妹にお小言を言われる関係になってしまっているが。


「さて、お疲れさん。で、ダリウスはこんな時間に何の用なんだ?」


店の掃除などの閉店作業が終わり、ぐっと一伸びしてからジャスは訪ねた。

こんな日が沈むような時間に彼が来るのは珍しい話であった。


「いや~実はな、お前が来るまでオレは人間と関わったことがほとんどなかったんだよ。どういう文化だってのは、まぁ大体は知ってたけどな」


ドカっとカウンター反対側、ジャスの向かいの椅子に腰を下ろして続ける。


「で、だ。この前人間の世界の酒を飲んでみたわけよ。これがだな、メチャクチャ美味かったんだわ!基本オレらは魔力さえあればそんなに食には頓着しないんだが、あれはダメだ。知ったら飲みたくなる!ってなわけで、今から飲みに行こうぜ!」


いい笑顔でグイっとジョッキを傾ける仕草をするダリウス。

ただの酒飲みのおっさんのような仕草も、薄いブラウンの美しい髪を後ろで縛った美丈夫がすると絵になるのが癪に触る。

ジャスが同じ仕草をすると、恐らくただの酒好きのおっさんにしか見えないだろう。


やれやれと世の理不尽さを心中に留めてジャスは席を立つ。


「特に夕飯決めてなかったし構わんぞ。サーナちゃんはどうする?」


「あ~ものすごく惹かれるお誘いなんですけど、今日は夕飯を作らないとダメなんですよ・・・」


エプロンを胸に抱きながらしょんぼりと肩を落とす。

間の悪いことに今日は両親の帰宅が少し遅いため、サーナが夕飯の担当となっていた。

それに一人留守番をしている幼い弟のソルノも心配なため早く帰宅する必要があった。


「ありゃ、嬢ちゃんはダメか。今度は一緒に行けるといいな。ちゃんとミルク奢ってやるからよ」


「私はもう大人です!お酒だって飲めます!・・・飲んだ事ないけど」


「ほら、サーナちゃん。ダリウスは放っておいて良いから早く帰った方が良いよ」


そっぽを向いてツンとしているサーナにジャスは苦笑する。

自分が言うのもなんだが、早めに声をかけないといつまでも弄られて帰宅時間が遅れていくのが目に見えていた。


「あぁ!そうでした!では、店長また明日ー!ダリウスさんはまた今度ー!」


エプロンを定位置に吊るすとそのまま勢いよく退店していった。

元気な看板娘が帰宅することで、本当の意味で今日の業務が終わったような気持ちになる。


「それで、何か食べたいもの、飲みたいものはあるのか?」


サーナを見送り入り口の扉の方を向いていたダリウスがくるりと振り返る。


「いや~特に決めてないな。なんかコレ!ってのは無いのか?」


「そういうことでしたら!!」


いきなりバン!と勢いよく入り口の扉が開いたと思ったら、これまた勢いよく飛び込んできた青髪の青年が、これまたまた勢いよく大きな声を出す。


何でも良いけどうちの店の扉っていつも乱暴に開かれてるなぁとどうでもいいことを考えるジャス。


「焼き鳥を食べに行きましょう!」


ビシリとジャスに向かって竹串を突き出す。

どうやら既に一本食べてきたのだろう、口の端にタレまで付いている始末である。


「おいリオン。お前、うちを盗聴してるんじゃないだろうな?」


あまりにもよいタイミングでの登場に目の前の勇者をジャスは半眼で睨む。

リオンは微妙に非常識なところがあるので絶対にそんなことはしないとは言い切れないのが悲しいところである。


「しようと思ったらチェルに止められました!まぁそれは良いんですよ。それより・・・ってどちら様でしょう?」


不穏なことを口走りながら二人の様子を見ている美丈夫に気が付く。


「オレはダリウス。ジャスのそうだな、友人ってやつだ」


よろしくなとリオンと握手する、

リオンは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で握られた手に視線を落とした。


「ジャスさんってボク以外にも友達いたんですね~。あ、ところでダリウスさんは古代竜の方ですよね?前に城で会った方とどことなく雰囲気が似てます」


城で会ったというのは言うまでもなくルルエンティのことだ。

ジャスとしてはあまり二人が似ているという気はしないのだが、少し人とは違ったおかしい感性を持っているリオンであればそれぐらい見抜くこともあるのだろうと納得をする。


「よくわかったな。そういうお前さんは何者だ?人間とは思えないほど強そうだが」


「ふっふっふ。ボクはですね・・・ってそれより焼き鳥ですよ!」


今度はダリウスに向かってビシリと竹串を突きつけ、その竹串が視界に入った途端に当初の目的を思い出す。

その忙しい姿に若干呆れつつジャスが肝心なことを尋ねる。


「そんなに焼き鳥ってのは美味いのか?どうもお前のテンション的にただ鳥を焼いただけってわけでもなさそうだが」


「え~ジャスさん~焼き鳥知らないのぉ?おっくれってる~・・・っていたいいたいいたいいたい!!」


ジャスの拳がリオンのこめかみにグリグリと沈み込む。


「少年、その焼き鳥っては美味いのか?酒に合うなら更に良いんだが」


悲痛な声をあげるリオンにダリウスが興味津々に尋ねる。

先程言っていた食に目覚めたというのは本当らしい。


「いたたた・・・。もう!ボクの愛らしい顔が歪んだらどうするの!えーと焼き鳥っていうのはですね。東の島国「アズマノクニ」から最近伝わってきた料理なんですよ。鳥の肉を串に刺して焼く!という単純な料理なんですが、これがまた美味しいんですよー!そしてボクが見つけた隠れた名店「コケヤ」!絶品です」


力説しながら竹串をぶんぶんと振り回す。

勇者であるリオンが本気で振ったらこの串でもある程度の魔物は倒せそうだなぁと下らないことを考えるジャスにダリウスが半信半疑の目で聞いてきた。


「鳥の肉を串に刺しただけでそんなに美味くなると思うか?」


「いや、鳥肉は美味いけどそこまでテンション上がるかと言われたら微妙だな」


「じゃあ行きましょうよ!絶対めっちゃ美味いって言いますよ!」


「「あっはっは、ないない」」


続きます。


焼き鳥美味しいですよね。

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