第30話 人間って面白ぇわ
「「めっちゃ美味い!!」」
5人入ればいっぱいという狭い店内でカウンター席に座った二人の歓声に近い声が上がる。
堪らず次の串に手をのばす二人をニヤニヤと見ながら「でしょ~?」とリオンも誇らしげに鳥皮を口に含んだ。
ジャスは手に持った串をしげしげと見つめると感心したように呟いた。
「いや、正直驚いた。ただ串に刺して焼いてるだけかと思ってたけど、串に刺すのも焼くのも職人技って感じだな。まいった、美味い」
ジャスの言葉に無表情な職人堅気な店主がフっと口許を緩ませる。
炭火で焼いているため、店内は煙が充満しておりお世辞にも綺麗な雰囲気ではないが、これはこれで隠れた名店のような印象を受ける。
店の位置も東中央通りから結構南に入り込み、王都の一番外側である城壁通り近くという町外れにあった。
「人間のおっちゃん!焼き鳥に合う酒は扱ってないのか?」
満面の笑みで焼き鳥を頬張るダリウスが当初の目的である酒のリクエストをする。
店主は無言で鳥を火にかけると背後にある棚から壺を下ろしてその中身を小さなコップのようなものに注ぐ。
注がれた液体は透明だが、よく見るとほんのわずかに黄色がかっているようにも見える。
「アズマノクニの酒でアズマ酒だ。滅多に出さないが今日は特別だ」
そう言って店主はアズマ酒が入った器を3つ、それぞれの前に出す。
ジャスは隣に座るリオンの方を見るが、ふるふると首を振られる。
どうやらリオンもこの酒については何も知らないらしい。
恐る恐る口を近づけるとふわっと花のような果物のような華やかな香りが鼻腔をくすぐり、一口含むと優しい甘味が口内にふわりと広がった。
「なんだこれ。初めて飲んだが不思議な味わいで・・・美味いな」
「おいジャス!この酒と焼き鳥無茶苦茶合うぞ!っかあ!これだよこれ!こういうのを求めていたんだよ!」
おかわり!と空になった酒と焼き鳥の器を店主の方に渡す。
なみなみと注がれた酒を用意し、店主は次の肉を焼く作業に戻る。
「いやぁ~少年!いい店に連れてきてくれたな!今度なんかお礼するぜ、ジャスが!」
上機嫌にリオンの肩をばしばしと叩きながらダリウスはアズマ酒に口をつける。
「え~お礼してくれるんですか~?何をしてもらおっかなぁ」
「おお!何でもいいぜ。このダリウス様の礼だ。大抵のことは聞いてくれるだろ!」
「それは期待しちゃいますねー!」
大きな声で機嫌よく笑う酔っぱらい二人に挟まれ、ジャスはため息をひとつ。
なんとなくこの二人は相性が良い気がしていたのでこうなるのではないかと思っていたが予想通りであった。
それからしばらく他愛もない会話で盛り上がっていたが、酒をちびりと一口含んだジャスに急に思い出したかのようにダリウスが問う。
「そういえばジャスよ。お前、嬢ちゃんとヤってねぇの?」
「んぐ!!ぐふ、・・・げほ!げっほ!な、何を言い出すんだお前は!!」
「今、さいあく吹き出しても良いようにボクの方を向きましたよね・・・」
口内のもの全てを吐き出しそうなところをすんでのところで耐える。
そんなジャスの姿を冷ややかに見ながらダリウスは既に何も付いていない竹串をプラプラと振ると呆れたように口を開いた。
「異種族のオレから見ても嬢ちゃんは良い娘だ。気立てがいいし、人望も厚いし、何より若いメスだ。オレらはツガイとかそういう考えがないから細かいところまではわからんが、四六時中一緒に居て何もないとか、オスとしてどうなんだ?」
「いやいや、サーナちゃんはまだ15だぞ?俺の半分なのに手なんか出せるか!」
ジャスとしても彼女の好意には気が付いているが、それが異性としてなのか大人であり命の恩人への憧れなのかサーナ自身がまだわかっていないのではないかと考えている。
勿論、気恥ずかしいので自分を誤魔化しているのではないかという自覚も多少はあるが。
「ふっふっふ。ジャスさん!愛に年齢なんて関係ないですよ!大事なのは自分がどう思っているか!これだけだね」
「ぐっ、アホなくせに痛いところを。そう言うお前こそチェル嬢とはどうなんだ?」
「え?チェルがどうしたの?」
「・・・いや何でもない」
唐突に出た知己の名に心底不思議そうな顔をするリオン。
その何もわかっていない表情を見てジャスは思わず心の中で小さな大賢者に合掌するのであった。
「で、結局何が気に入らんのよ?あ!わかったぞ!あれだろ、乳!お前なんか乳好きそうだしな!嬢ちゃんじゃボリュームが足りんかー」
何やら勝手に不名誉なことを言い出して勝手に納得するダリウスにリオンが突っかかる。
「それは聞き捨てなりませんね!ジャスさんは脚好きですよ!きっと間違いありません!」
「おい」
「脚か、いやなんかこいつ見てたら尻も好きそうな顔してる気がしてきたぞ」
「おい!」
「いや、それどころか首筋や鎖骨が好きなんじゃないかと思えてきましたよ!ジャスさんのえっちーふぇっちー」
「お前らいい加減にしろよ!」
左右から好き放題言われて堪忍袋の緒が切れたジャスは勢いよく立ち上がると、まだ器いっぱいに入っていた酒をぐいっと飲み干した。
そして先程から囃し立てて来る二人をじとっと睨む。
「何が悪い。乳が好きで何が悪い!尻や脚が好きで何が悪い!俺は男だ。女性の魅力的なところが好きなのは正常なんだよ!むしろお前の方が問題だ!」
そう叫ぶと右隣に座るリオンの頭をつかみ自分の方へ向き直させる。
「ボ、ボクの何が問題なんですか?というか目!目が怖い!」
いつもどこか余裕があるジャスの目が今は完全にイッチャってる風になっていることにリオンは激しい恐怖を覚えた。
「何が問題だぁ?全部だ全部!女みたいな顔で人畜無害そうな性格しやがって!お前はホモか!」
「む!それは聞き捨てならないんだけど!ボクだって普通に女の子も好きだよ!」
「「も」ってなんだ!「も」って!お前が言うと本当に疑惑が洒落にならんからそういうのやめろよ!本当に女が好きならチェル嬢の・・・ってまぁあれは幼女みたいなもんだから無理もないか」
ジャスの脳裏に美少女と言って過言ないチェルロッテの姿が浮かぶが、女性的な体つきという面から言うと些か以上に物足りないことに思い当たり言葉を濁す。
「あら、何が無理もないの?」
「いや、チェル嬢じゃ子供みた・・・いな綺麗な肌とか絹のような髪が美しくて俺なんかじゃ、あの魅力は筆舌に尽くしがたかったりなんとかしてみたりしちゃったり?」
異様な寒気を背中に感じ、言葉の途中で発言の方向修正を行ったジャス。
その背中に小さな手のひらが当てられくいくいっと服を引かれる。
そこには不自然なほどニコニコとしたチェルロッテがジャスを見上げていた。
「あら、ありがとう。じゃあちょっと「お礼」をしたいから付き合ってくれないかしら?ではリオンとお連れのお兄さん。ジャスを借りていくわね」
「あのチェル。ジャスさんも酔っぱらってるだけだから、あのーー」
「借りていくわね?」
「はい」
相変わらず笑顔のまま受け答えをする友人に言い様のない恐怖を覚え、それ以上の反論を諦めて引き摺られていくジャスの姿を心配そうに見守るしかできなかった。
途中から一人展開に置いていかれる形になったダリウスは残っていた酒をぐいっと流し込むと満足げな吐息を吐く。
「やっぱ人間って面白ぇわ」
酒と焼き鳥の追加を注文してダリウスは一人破顔するのであった。
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投稿当初はこんなにたくさんの人に読んで貰えると思っていなかったので感謝感謝です。
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