第28話 ぺったんこ
続きです。
最果ての島でジャスは睨み合う二人を震えながら見守る。
完全なとばっちりを受ける形となった彼は一瞬転移で王都に帰ろうかという思いが頭を過ったが、慌てて首を振って考え直す。
どう考えても逃げた方が後々の被害が大きい。
しかもララミーナの事はいまいち掴みきれていないところもあり、未知の恐怖にわざわざ自分から突っ込んでいくほどジャスは無謀ではなかった。
そんなわけで凍えながら戦況を見守るジャスの前でついに戦いが始まろうとしていた。
「ハンデをあげる。ララはここから、動かない。ほら、かかってきていい。ぺったんこ」
両手を広げいつでもどうぞと挑発するララミーナを中心に半径1メートルほどの光の円が発生する。
そこから出ることなく相手するということだが、相手は賢者、いや、この場合は<小さな大災害>チェルロッテである。
流石に無謀が過ぎるのではないかと心配するジャスをよそにララミーナは纏っていた炎を百を越える火の玉に変える。
それに対抗するようにチェルロッテも炎を無数の矢に変えて構えた。
「・・・!?今気がついたんだけど、まさかさっきのぺったんこって」
わなわなと震えるチェルロッテに非常な宣告がなされ、
「貴女の、胸」
「っっ!!?」
それが開戦の合図となった。
チェルロッテは発生させていた炎の矢1本をそれぞれ10本に分裂させ、1000を越えようかという矢を一斉にララミーナへと放った。
時間差などなく一斉に対象に向かう炎の矢はまるで巨大な壁が迫ってくるかのようであったが、それをララミーナは浮かべていた炎で出来た球を巧みに、しかし凄まじい速度で操りその全てを撃墜。
そしておもむろに指を鳴らすと、チェルロッテが矢を目眩ましに地中に放っていた巨大な氷の柱が地表へその巨大な姿を現す前にララミーナを中心に4つに割れ、目的を果たすことなく凄まじい速度で天へと消えていった。
「よく地中の魔法に気付いたわね!でも、まだまだ!!」
叫ぶチェルロッテの周囲にまたも炎の矢が一瞬で出現する。
ただし、その数は倍近くに増えており周囲が赤く眩い光で溢れかえった。
しかしその光景にララミーナは失望したように溜め息を軽くつく。
「単純。それでは、ララには届かない」
「だと良いわね!」
迫り来る炎をまたも炎の球でかき消そうとしたララミーナであったが、ふとあることに気が付いた。
炎の矢の真後ろに同数の氷の矢が追随してきていた。
炎と氷。
迫り来る矢はあわせて5000本を超えている。
(流石にこれは、消しきれない)
球での相殺はすぐに断念。
そして一瞬魔力を溜め、巨大な青白く光る壁を出現させて全ての矢を受ける。
壁に激突した炎の矢に氷の矢がぶつかり小規模な爆発が連鎖。
その結果、凄まじい大爆発が大気を震わせた。
氷で閉ざされた死の大地のこの周辺だけ雪が一瞬で溶けて地面が露出するまでになっていた。
「まだまだ!!」
連鎖した爆発の影響でララミーナの姿は見えない。
しかしチェルロッテは攻撃の手を緩める気はさらさらなかった。
チェルロッテの言葉を合図に先程空へと消えていったはずの4つに割れた巨大な氷の柱が今度は槍の形をして落下してくる。
それは落下速度も追加され、空気を切り裂く甲高い音を立てながら同時に爆心地へと落ちる。
更に未だ粉塵が晴れないララミーナがいるであろう箇所の周辺に4つの巨大な球体が出現。
強大なエネルギーが込められているであろうその球体はバチバチと炸裂音を鳴らし形状を保てなくなったのか次々と大爆発を起こした。
1つで山を消し飛ばしそうな物が4つ。
チェルロッテの脳裏に「島がなくなったらどうしよう」という不安が過るが、次の瞬間それが杞憂であることを知る。
「終わり?なかなか、暖かい」
突然強風が渦巻き、粉塵が晴れる。
ララミーナが光る円の中で先程と変わった様子もなく無傷で佇んでいた。
しかも地表の雪が溶けている以外、特に地表にダメージもない様子であった。
(自分だけじゃなく周囲まで無傷なんて・・・。間違いない。悔しいけど全力でやったとしてもこの人の方が上だ)
相手の実力が想定以上に高いことに焦りと喜びを覚える。
先程、魔力を感じないのは制御が見事だからだと目の前の女性は言っていたが、どうやらそれは本当の事だったらしい。
まだまだ修行不足の自分を思い知る。
「次は、ララの番。そして、終わり」
ララミーナが指差したその瞬間、親指の爪くらいの小さな球体がチェルロッテに向かって高速で飛んできた。
それを慌てて撃墜しようとチェルロッテは氷の矢を放つが、それは簡単に砕かれ、炎の槍はかき消され、魔力の防壁は穴を穿たれた。
苦肉の策として同じく魔力を凝縮させた球体を作り出しそれをぶつけるが、パキィィンと高い音を立てて一方的に砕かれる結果となる。
「う、嘘・・・」
「貴女は、制御の力を、もっと付けた方がいい」
「うわあああああ!!!」
最後の抵抗にと、巨大な氷の槍を放つが、その真ん中を球体は速度を落とすことなく貫通した。
目的を果たせなかった槍はララミーナの方へ飛んでいき、それを一歩後退して避けたララミーナが小さく告げる。
「またいつでも、相手してあげる」
コツーン!
少し間の抜けた音を鳴らし、チェルロッテの額に球体が直撃。
すると糸が切れた人形のように彼女の華奢な体は膝から崩れ落ち、雪が溶けた大地に仰向けに桃色の髪を広げて倒れた。
「おい!大丈夫か!」
何処かで見守っていたのであろうジャスが心配そうに駆け寄る様子を見てララミーナは一人溜め息をつく。
頭をちょっと揺さぶっただけなのですぐに目を覚ますだろう。
しかし、まさかあの状態から攻撃してくるとは。
「油断した。悔しい」
妹のルルエンティですらほとんど見たことがない唇を噛んで悔しがるララミーナの足許。
その踵は光る円の外側の大地を踏んでいた。




