第9話
マジクと二人で水辺を調査すると、肉や魚以外にも木の実や果物に野菜もあるのが分かり、食料調達地としてかなり良い場所だという事で、ここから少し離れた場所に転移魔法陣を設置しようという事になった。
マジクが新しい転移魔法陣を用意しますかと聞いてきたが、来た時にあった転移魔法陣をここに持って来る事にした。岩の下にある古代の簡易住居跡も便利そうではあるがマジクの転移魔法があれば安全な洞窟からここに通えるので、先程の魔方陣が刻まれた石を持って来る事にした。
マジクが一人で持って来ようとしたが、空の王者ホーグルがやってくるかも知れないので、二人で注意しながら持って来る事にした。
その後特に危険な目に遭う事もなく無事に魔法陣が刻まれた石を持ち運んで地面に設置して、いったん拠点に戻った。
すぐにゴブロとリザロとコックを連れて別の洞窟に行って私とマジクで見てきた事を説明し、早速全員で食料調達を開始すると宣言すると、皆目を輝かせてやる気に満ち溢れた声をあげた。
そして全員マジクが開いた転移魔法陣を通って食料調達地へと移動した。
朝に打ち合わせた通りのメンバーに分かれて早速各々食料調達を開始したが、ここで私からは全員に対して決して無理をしない事と、誰一人怪我する事なく無事に戻ってくる事を命令した。
私とマジクは上空から皆を見守りながら、ホーグルの襲来に警戒する事にした。
各々リーダーの側近達に従って進んで行き、まずはコックに従ってゴキブリ人間達が地面にあるイモのような野菜を掘り出し始め、リザラとリザードウーマン達は背の高さを活かして木の実を採り始め、ゴブリとゴブリンの女達は葉野菜を採り始めた。
次にゴブロとゴブリンの男達はクロゲータの影がない浅瀬で魚を獲る事にしたが、なんと彼等は弓矢を使って魚を獲るようだった。
最後にリザロとリザードマン達が槍を手に、大きなトカゲにゆっくりと近付いて行った。
上空からリザロ達を見守っていると、リザロは大分人間っぽい見た目になったが、それでも他のリザードマン達は二足歩行で歩いているとはいえ同じトカゲ同士に見えた。
私はマジクにゴブロ達を見守るように言って、私はリザロ達の支援に向かう事にした。
リザロ達は背をかがめて大きなトカゲの背後から接近していたが、大きなトカゲはリザロ達に気付いて逃げ出そうとしたので、私はすかさず素早く上空からトカゲに近付いて人差し指を指し示して「カミナリ!」と今回は声に出して強く念じたところ、指からかなり太い稲光がバリバリッ!と言う音を立てて向かっていき、オオトカゲに直撃するとオオトカゲは身体を大きくのけぞらして感電して痙攣した。
それを機にリザロ達は突進して四方八方から槍を突き立てたがオオトカゲは尻尾を振り回して必死に抵抗した。しかしリザロが槍を手離して剣を抜き素早く移動してオオトカゲの頭を切り落として仕留めた。
尻尾の先端まで含めると全長5メートルはあろうかという程のオオトカゲを仕留めたので、これだけでも相当の食料備蓄になるという事で、リザードマン達は声をあげて喜び、私も少し興奮して手を叩いて声を上げて喜んだ。
皆人間に比べればかなりの力持ちではあるが、さすがに5メートルを超えて、手足も胴体も丸々と太ったオオトカゲをそのまま持ち運ぶのは不可能なので、その場で解体する事になった。
さすがにトカゲを捌いた事はないが、それでもこれまでの経験を活かして、リザロ達に指示しながら手足と尻尾を切断してもらい、私も自ら腹を裂いて内臓を取り出した。
先に切断が完了した手足をリザードマン達は駆け足で転移魔法陣に運んで行き、コック達も増援に駆けつけてきて大勢で大きな尻尾を運んだ。
手足と尻尾を運び終えたメンバーが戻ってくると、私以外の全員で大きな胴体を持ち上げて運んだが、さすがに巨体なだけあってなかなか思うように運ぶことが出来ず、マジクがやってきてこの大きさだと転移魔法陣を通過する事は出来ないと言われたのでさらに解体することにした。
しかし太い背骨と肋骨があるので解体は容易ではなく、肋骨の隙間に刃を通して肉を切断したが頑丈な背骨の切断にはリザロも手を焼いた。
それでも何とかして3分割して無事に運び入れる事が出来たので皆手を挙げて喜んた。
私も手を挙げて喜んだのだが、突然嫌な気配を感じて空を見るとガガラの倍はありそうな巨大な鳥が空を旋回しているのを見た。
「ホーグルだ! 全員退避ィーッ!」
私は低空で素早く仲間達の元に行き、同じ言葉を繰り返して全員に転移魔法陣がある場所に行くよう叫んだ。
マジクも仲間達に知らせて、全員すぐに全力で転移魔法陣へと向かった。
側近達を除いて全員が転移魔法陣で洞窟へと逃げ込むと、残った私達はいつでも逃げられる態勢をとりながらホーグルの動向を見守った。
ホーグルは血の匂いを嗅ぎつけてやってきたらしくリザロが切り落とした頭と私が取り出した内臓をガン見しながら降下してきた。
ところがその時湖の岸からも巨大な黒い影が出てきた。
「クロゲータだ! それもかなりデカイ!」
リザロの言う通り、10メートル以上はありそうな巨大なクロゲータが血の匂いと内臓に向かってゆっくりと近付いていた。
しかしクロゲータはその巨体のため、陸上ではあまり素早くは動けないようだった。
それを見たホーグルは甲高い声をあげてクロゲータを威嚇したが、クロゲータの方でも大きな口を空に向けて開けてシャァーッ!と威嚇した。
この世界にやってきて2日目にして初めてこの世界が決定的にこれまで生きてきた世界とは違って命の危険が極めて大きいという事を思い知らされる光景を目の当たりにした。
「これまでの魔王はアレと戦って勝つ事が出来ましたか?」
「この中で実際に目にした者はおりませんが、伝え聞いた話しではあの程度の生き物は魔王様の敵ですらない程に魔王様はお強かったそうです」
「そんなに強いんですか!?」
「はい、私もそう伝え聞いております」
リザロとゴブロの言葉に続いて他の皆も頷いていた。
あんな怪獣のような恐ろしい生き物が敵ですらないとは……、一体魔王というのはどれ程の存在なのだろうか……、私のような元普通の人間がそんな存在になれるとは到底思えない……
そう思いながら2匹の怪獣の戦いを見守ると、先にホーグルの鋭い爪がクロゲータの頭に振り下ろされた。
ガキンッ!
遠くからでも凄い音が聞こえたが、マジクが言っていた通りクロゲータの皮膚はかなり頑丈で、ホーグルの鋭い爪をものともしなかった。
さらに続けて2発3発と鋭い爪によるキックを繰り出したがクロゲータは瞼を閉じて目を防御しつつキックの合間の隙を伺っていて、5発目のキックが振り下ろされて防御した直後にホーグルの足首に嚙みついた。
キェーーーッ!!
ホーグルはたまらず鋭いクチバシでクロゲータの頭部をつついたが、クロゲータは構わずしっかりアゴを閉じたままジリジリと後退して湖の中に引きずり込もうとした。
ガキン! ガキン! ガキン!
キエェーーッ!
ガキン! ガキン! ガキン!
キエェーーッ!
ホーグルは必死に何度も鋭いクチバシをクロゲータの頭に叩き込んだが、クロゲータは一向にものともせずジリジリと後退を続けた。
いよいよクロゲータの身体の3分の1が水に浸かった所でホーグルは翼を激しく羽ばたいて空に逃げようとした。
するとクロゲータの巨体の半分が持ち上がり、ホーグルはさらに激しく羽ばたいた。かなり距離をとっている私達にも風を感じる程だった。
そしてとうとうクロゲータの身体が完全に持ち上がりホーグルはさらに羽ばたいて上昇を続けたが、ホーグルの方はかなりスタミナを消耗しているようだった。
クロゲータの方も自らの巨体をアゴで支える事など当然これまでやった事などないはずで、間違いなくアゴの筋肉は悲鳴をあげている事だろうと思った。
そしてそんな光景を見ていた私の中に突然得も言われぬゾクゾクする興奮が襲ってきた……




