第3話
「これは気付かず大変申し訳ありませんでした、魔王様は空腹でいらっしゃったのですね」
「えぇ、まぁ……、ハイ、お腹が空きました」
「ご安心下さい魔王様、このような状況なのでろくな食料もないと思われるかも知れませんが、実はしっかりと良い食べ物を隠しております」
緑色の醜い男が割と得意げな感じで話した。
そして全身マントの小人がマントの中からあまり質が良くない紙を取り出して地面に置くと、何やら複雑な模様が描かれていて、小声で呪文を唱えると光る円柱が出現し、マントの小人はその中に入っていった。
続いてトカゲ男が入っていき、私は緑色の醜い男の手を取ってその中に入った。そして一瞬の光のシャワーを浴びた後に私の目に入ってきたのは洞窟の中の光景だった。
黄色く光る大きな結晶が規則的に壁に開けられた小さなた穴に置かれて辺りを照らしていて、とても幻想的な雰囲気を醸し出し、徐々に私はこの悪いジョークのような世界を現実のものとして認識し始めていた。
3分ほど歩いたところで広いホールに出ると、そこには長いテーブルと椅子が置かれていて、別の異形な姿の存在があるのが見えた。
「皆喜べ! 魔王様が復活なされたぞ!」
「オォーーーッ!」
「おお! そのお姿はまさに魔王様!」
「まさかこんなにも早く復活なされるとは!」
「今度の魔王様はこれまでよりも凄い力を持つに違いない!」
「そうだ! 憎き人間ども! 憎き英雄達を全てうち滅ぼし、我らを勝利に導いてくれるに違いない!」
「オォーーーッ!」
「まずは食事だ! 復活なされたばかりの魔王様は空腹であられる! とっておきの食べ物を出すのだ!」
「ハハァッ!」
「魔王様、こちらにお掛け下さい」
「あ、どうも」
長テーブルの上座と思しき場所にひときわ背もたれが大きな椅子があり、背の高いトカゲ女が椅子を引いてくれた。何故女だと分かったかというと胸が膨らんでいて革の防具を身に着けていたからだった。
椅子に腰かけるとすぐに食べ物が運ばれてきたのだが、蓋付きの皿を持って恭しくやってきたのは巨大なゴキブリだった……
その巨大なゴキブリは2本足で立って歩いていて、残った4本の足で2つの大きな皿を持ってやってきた。
「ああ魔王様、よくぞ復活なされました、この日のためにとっておいたとても新鮮な牛の肉と新鮮な果実をご用意しました」
そのゴキブリは身長150センチ程もあり、長い触覚がピクピク動いていて、限りなく黒に近い茶色の身体はツヤツヤに光っていた。
本来ならば飛び上って仰天して逃げ出すか気絶するかあまりの気持ち悪さでその場で吐き出してしまいそうなのだが、既に私は何かが麻痺していたようで一応少し驚きはしたが、普通に目の前の巨大ゴキブリを受け入れた。
コトリ、コトリ
巨大ゴキブリは丁寧に2つの皿をテーブルの上に置いて蓋を開けると、案の定皿の上には血の滴る生肉の大きな塊が乗っていて、別の皿には果物に見える何かの実が幾つか乗っていた。
私は鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、確かに鮮度は良いようで果物からも良い香りがしていた。
私は立ち上がって厨房はないかと尋ねると、巨大ゴキブリはペコペコしてとても申し訳ない様子で謝り続けたが、私は頭の付け根というか肩のあたりを優しく撫でて君は何も悪くないと言いながら厨房を教えてもらった。
巨大ゴキブリの後について厨房に行くと、一応それらしい設備があったので、早速私は厨房に立って何があるか一通り確認すると、フライパンやナイフなどがある事に神に感謝した。
さらに調味料がないかと尋ねると、以前人間から奪ったという塩やコショウや砂糖などがあるという事で私は手を組んで神に感謝した。
早速大きな牛の肉の塊をナイフでスライスすると周りから感嘆の声があがり、皆から賞賛されながら手際よく牛肉の筋にナイフで細かく切れ込みを入れて塩コショウをまぶした。
全身マントの小人が魔法でかまどに火を着けてくれたので、大きな肉の塊から脂身をナイフで取り出してフライパンの上で溶かし、下味を付けたステーキ肉を焼き始めた。
ジュウゥ~ッ!
「オォーーーッ!」
「今ここには何人いますか?」
「全部で6人しかおりません」
「6人ですね、分かりました」
私は自分を入れて7人分のステーキを焼き、さらに別の皿にそのままの状態で置かれていた果物もカットした。
「うん?この果物は少しだけ塩をまぶしたらさらに甘味が増して美味しいかも」
私は赤い実の瑞々しい果物に塩をほんの少しだけ指でつまんでふりかけた。
そうして7人分のステーキと果物の添え物が完成したので、巨大ゴキブリともう一人別の緑色の肌の女性に頼んで一緒に料理を食卓に運んで皆で食べる事にした。
「まさか……、魔王様、これは私共の分などではないですよね?」
「いえ? 皆さんの分ですよ、私だけが食べるのはどうにも落ち着かないので、皆さんで一緒に食べましょう」
「そんな! 恐れ多いです! これは魔王様が召し上がるための物なのです!」
「でも、皆さんもお腹が空いたでしょう、それにせっかく作ったのですから、皆さんに食べて欲しいのです、私は自分が作った料理を食べてもらうのも好きなんです」
「…………」
皆絶句してその場で固まった。
「まぁまぁ皆さんせっかく作った料理が冷めてしまうので、美味しいうちに食べましょう」
「し、しかし……」
「馬鹿者! 魔王様のご命令だぞ! 皆有難くいただくのだ!」
トカゲ男が大声を上げたので、皆頷いて席に着いた。
「それではいただきましょう、多分良い肉なので美味しいと思います、それじゃいただきます」
「い、いただきます」
「モグモグ、ゴクン、うん、美味しい! 良い肉だね! 塩コショウだけでも凄く美味しい!」
ちなみにナイフとフォークを使って食べたのは私と全身マントの小人だけで、トカゲ男女と緑色の肌の男女と巨大ゴキブリは手掴みだった。
ただ巨大ゴキブリは先端の爪がとても鋭利なようでスッと撫でるだけで綺麗に肉が切れて、もう一方の爪に刺して口に運んで食べた。何故かその所作が上品に見えてしまった。
「ウッ!」
「ウグッ!」
「ムムッ!」
「ヌウッ!」
「マァッ!」
「ッ!!」
「すっ素晴らしい!」
「なんという美味しさだ!」
「この世で最高の食べ物だ!」
「まさに極上の食事です!」
「ええ!なんと美味な事でしょう!」
「さすが魔王様です!」
「皆さんの口に合って良かったです」
「魔王様!この果実も素晴らしいですぞ!」
「然り! この果実、こんなにも甘味があったとは知りませんでした!」
「ああ、それはほんの少しだけ塩をまぶしたんです、そうすることでより甘味を感じるようになるんですよ」
異形な者達の中でも人間に近い生き物には効果があるかも知れないが、巨大ゴキブリにも効果があるのは少し驚きだった。
というより、既にもうこのメンツと一緒に普通に平気で食事が出来る自分に驚きだった……




