第2話
「鏡……、でございますか?」
「はい、鏡です」
「ええと、それは英雄達の所在を映し出したり、望みの場所に行ける高級魔道具の鏡の事でございますでしょうか?」
緑色の一人が言った。
「えっ、そんな鏡があるんですか? ……、いえ普通の鏡です、今自分がどんな姿になっているのか確認したいのです」
「そうでございますか、さすれば……」
「わたくしめが映しますです」
全身マントの小人が前に出てきた。
「僭越ながら……、魔王様の御身を映し給え」
ポワァ……
目の前に緑色の炎の額縁に囲まれた全身鏡のようなものが現れて、私の姿を映し出した。
「…………」
「いやいやいや、さすがにコレはないでしょう、これはジョークアイテムですよね? とりあえず普通の鏡を出してくれませんか?」
「申し訳ありません魔王様、普通の鏡は持っておりません、そしてそのお姿は紛れもなく魔王様の高貴なるお姿そのものでございますです」
「…………」
ガクッ!
私は言葉もなく地面に跪いて首を垂れる姿、いわゆるOTZの姿勢になった。
私が見たのはそれはもうジョークとしか思えないユニークな姿で、紫色の皮膚に大きく釣りあがった目に尖った鼻に吸血鬼ドラキュラのような牙に両方の側頭部からはツノが生えていて、エリをピンと立てたマントを羽織っており、上半身は裸で下半身は毛皮のズボンを履いていたように見えたがどうやら地毛のようだった。
手は人間の手だったが凶悪な見た目の爪が伸びていて、靴を履いていない生足も似たようなものだった。さらにお尻に妙な感覚があったので、動かしてみるとムチのような尻尾が生えていて、思い通りに動かすことが出来た。
そしてこの奇妙な生き物はまだ幼い子供のように見えたが、決して可愛い姿ではなかった。
これは一体何の罰ゲームだ?
私はその場で頭を抱えてしまった。
「お気持ちは痛いほど分かります魔王様……、あの憎き英雄に殺された後に復活したら、完全にレベル1に戻ってしまわれたのですから……」
この緑色の醜い生き物は何を言ってるんだ?まだ意味不明なジョークを話し続けているのか?
「魔王様、我らがついております、どうかお気を確かに、魔王様ならばすぐにまた最高レベルの大魔王に復活なされます!」
「その通りでございます、我らが命を懸けて魔王様をお支え致しますから、どうか立ち上がって下さい!」
私はゆっくりと立ち上がると、3人の異形な者達はオオーッ!と喜んだ。
「……、とりあえず説明してもらえますか?」
その後この異形な者達から聞いた話しをまとめると、私達は人間からは魔物と呼ばれている存在で、私達が暮らしているこの場所は世界の果てと呼ばれる不毛な大地だという事が分かった。
魔物達は食料と快適な居住地を求めて人間達のいる場所に進出し領土を拡大していったが、残念ながら人間から見た魔物達はどう見ても好意的に映る容姿ではなく、当然言葉も通じないので最初はその姿を見るなり人々は逃げ出したそうだ。
魔物達側からは特に略奪や侵略などの行為は行わず、動物を狩ったり自然に群生している果物などを食べて生活していたが、やがて人間達は団結して武装集団を送ってきた。
しかし魔物達は過酷な大地で生き続けてきたので人間よりも強靭な肉体を持っていたため、小規模の武装集団程度では魔物達を追い払う事は出来なかった。
そして魔物達は厳しい自然環境下で生きる戦いを続けてきたので、平和を愛する静かで穏やかな存在ではなく、攻撃されたら当然やり返した。
気性の荒い種族や残虐な種族も多くいて、人間達が自分達よりも弱いと知るや、積極的に人間達を襲うようになり、侵略と略奪をする者達が増えていった。
そうした状況が数百年以上続き、魔物達の領土もかなり拡大していったが、とうとうある日を境に人間達の逆襲が始まった。
人間達は鉄の武器を手に入れ、戦術という戦闘概念を用い、単なる武装集団から軍隊という戦闘集団になって魔物達に反撃してきた。
これまでは個の力で撃退出来ていたが、戦術を巧みに用いる組織化された軍隊相手に苦戦するようになり、次第に領土を失っていった。
そして決定的な存在として、軍を指揮する者達の中に英雄と呼ばれる存在が出てきたことで、状況は一変した。
彼等は優れた頭脳を持ち、自ら最前線に立って極めて的確な指示を出し、魔物達の中でも最強レベルの種族を次々と撃破していった。
だが魔物達も全種族が知能が低いというわけではなく頭の良い者達もいて、敗北から、いやそれどころかこれまで見下していた人間からも学ぶようになった。
そうしてじわじわと後退を余儀なくされていたところで、魔物達の中からも魔王と呼ばれる存在が出現した。
これまでは種族ごとの王がいたが、魔王は多種多様な魔族を一つにまとめあげて、人間達と同じように軍隊組織を作り上げて英雄達が指揮する軍隊に対抗した。
互いに敵対的な存在であった種族達は共通の敵と相対する事で結束し、何度目かの戦闘でとうとう一人の英雄を撃破する事に成功し、魔物達は一気に息を吹き返したように見えた。
しかし残念ながらこちらは魔王ただ一人に対して人間側の英雄は数名おり、加えて人間側の軍団は数万人規模という圧倒的な数の暴力による戦力差があるので、多勢に無勢という状況だった。
それでも魔王の圧倒的な個の力でなんとか凌いでいたが、とうとう数名の英雄が指揮する大規模軍勢に敗れ、魔物達はまた不毛な大地へと追いやられる事になった。
しかしその後、英雄達によって打ち倒された魔王は復活し、前回負けた教訓から多くを学び、再び人間達に逆襲した。そしてその時初めて魔物達は魔法という強力な武器を手に入れた。
魔王率いる魔王軍は破竹の快進撃を続け、すっかり平和を謳歌していた人間達は次々と領土を明け渡す事になった。
個の力が強い魔物達は統率された軍組織に加えて新たに手に入れた魔法により、英雄達が指揮する軍隊を蹴散らし以前よりも領土を拡大した。
その後100年以上魔物達は豊かな土地でひとときの平穏な暮らしを手に入れた。
しかしその裏で人間側でも知の英雄と呼ばれる存在が魔法を研究し、いよいよ人間側でも魔法を使う者達が現れ、人間達の再侵攻が始まった。
結局その後またしても魔王は打ち倒され、生き残った魔物達は失意の中不毛な大地へと追いやられたのであった。
以上の話しを聞き終えた私はまたしても頭を抱えてその場に蹲ってしまった。
「お気を確かに魔王様!」
「我等がついております魔王様!」
「そうです! 命に代えてもお守りします!」
異形の者達は強く励ましてくれたが、正直全く心が励まされる事はなかった。
グウ~~~ッ!
おまけに腹まで空いてきて、ますます私の気分は落ち込んでいった。




