第24話
南からの乾いた風によってみるみるうちに火の手は野営地にテントに迫っていき、強い風の音によって燃える炎の音はかき消されているのと、ほとんどの兵士達はテントで寝ている事で、自分達の身に死が近付いている事に気付く者はほとんどいなかった。
当然最前線なので見張り役はいるのだが、それは前方で籠城作戦を続けている王の居城に対してであり、後方についてはごく少数の見張りしかおらず、しかも緊張感が低いせいかウトウトして居眠りをしていたようで、そこに加えて強い風の音で火の手があがっている事に気付くのも遅れたようだった。
そして熱風を肌に感じて、身体に巻き付けていた防寒マントに火が付いている事に驚き慌ててマントを脱ぎ捨てて大声を出したが、時すでに遅しという状況だった。
幾つもの後方のテントから火があがったが、深夜という事で即座に兵達がテントから出てくる事もなく、ようやく遅れて飛び出してきた兵達は衣服の一部に火がついていた。
中には火だるまになって猛烈に暴れている者がいたが、すぐに力なく崩れ落ちて生きたまま焼かれて死んでいった。
私はこの時ばかりは自分の超視力が恨めしいと思ったが、それでも目を背けずしっかりと戦場全体を捉えていた。
敵兵力は推定4千とされており、テントの数もかなりの数があってしっかり分散配置されているので、当然この火攻めだけで敵を全滅させるには至らず、各テントから兵士達が出てきて、炎から距離を取って整然と隊列を組み始めた。
「有能な指揮官と良く訓練された兵達です」
「その通りだね、パニックを起こしているのは後方中央部だけだ」
私の背中にはクモの糸で編んで作ったハーネスで固定されているジャンヌがいて、上空で戦場全体を俯瞰していた。
「では魔王様、手筈通り合図をお願いします」
「分かった」
私は高度を上げて上空から雷撃を地面に対して放った、ちょっと低すぎるが火事に気を取られてる人達には自然の雷に見えるだろう。
するとわざと大声を上げていかにも城門から出てきたように見せかけた我が軍団が敵の野営地へと進軍を開始した。
作戦の第一目標は大成功と言っても良い程にうまくいったが、それでもこちらの兵力は100にも満たない数で、火攻めによってかなりの数の兵を減らしたとはいえ、まだ3千以上の兵は残っているのは確実だった。
しかし後方中央部で燃え盛る火の手によって、部隊は3っつに分断されており、いくら訓練されている兵とはいえまだ完全に戦闘隊形の布陣が完成しているわけではなかった。
まずは中央にいる部隊に対して、スリング部隊が投石を行ったが、ジャンヌが言っていた通り女性と若い魔物達で構成されているにも関わらず、その威力は凄まじい破壊力を誇り、加えてマジコが用意した砲弾形状の弾は頭部に当たれば兜を付けていても即死は免れない程の威力があった。
そうして突然バタバタと倒れている前線の歩兵を見て指揮官は仰天し、盾を構えさせて密集隊形を取らせた。
それを見計らって今度は弓隊が火矢を放ち、リザロ達は敵が足を止めて密集体型で守りを固めている隙にダッシュして油の入った容器を次々と放り投げると、瞬く間に火の手があがった。
こうなると今度は密集している事が仇となり、兵達は盾を捨てて逃げ惑い、そこに容赦なく投石攻撃が雨のように降りかかった。
リザロ達と一緒に走り込んで接敵していたゴブロと従者の男ゴブリン2人の3名が敵指揮官に向けて弓矢を放つと全ての矢が指揮官の顔面に突き刺さった。
それを確認したジャンヌは生き物の骨で作った笛を一度だけ吹くと、我が部隊はまだ残っている敵兵達を無視して向かって左側で戦闘隊形を完成させつつある部隊に向かって行った。
既に騎乗している騎馬兵が多くいたので、兵ではなく的の大きな馬を狙って投石を開始し、馬たちはバタバタと倒れていくかパニックを起こして敵兵を蹴散らし踏みつけながら逃げ惑い、せっかく整えた隊形を破壊してくれていた。
そこに通常の矢を雨のように降らせ、より一層敵の隊列を乱したところで、リザロと傭兵達が一斉になだれ込んで接近戦に持ち込んだ。
「これはいい! 四方八方敵だらけだ! ただ槍を突き出すだけで敵を倒せるぞ!」
「ワハハハハハ!」
「隊長!」
「ああ! オレも驚いている! これ程までに我等は強くなったのか!」
リザロ達リザードマンだけでなく、人間の傭兵達も同じ人間の兵士を槍で次々と貫いていた。しかも敵兵士達はしっかりと鉄の防具を身に着けていたにも関わらず。
「武器が良いのか、我等の力が上がったのか」
「その両方だ!」
「然り!」
「オォーッ!」
傭兵団の隊長はリザロ達に言われて、自信が付いたようで声をあげて奮い立った。
左側の軍勢も今や統率が取れていない状態になり、指揮官とその側近達が声をあげてもこの混乱状態を収める事は出来ないでいた。
しかし向かって右の部隊がいよいよ陣形を完成させ、くさび形陣形でこちらに迫ってきた。
こちらがスリング投石部隊と弓隊で迎撃しようとした時、後方からホラ貝のような低く大きな音がして、沢山の松明の灯かりと地響きのような音がして大勢の軍団が王の居城から出てきた。
「おお! 来たか!」
傭兵達は振り返って確認する事なく、目の前の敵に対処しながら、味方が出て来てくれた事を確信して喜んだ。
そして右方向から近付いてきた敵集団もそれを見て即座に引き始めた。その際生き残った兵達をしっかりまとめあげて後退した手腕にジャンヌは感心していた。
そしてジャンヌが笛を三度鳴らすと、傭兵達の旗が掲げられ全員で勝どきをあげ、目の前にいた左側の敵兵士達は一目散に逃げて行った。
城から出てきた軍団も速度を落としてゆっくりと近づいて来て、全体止まれの合図で停止して武器を納めた。
それから1頭の馬がやってきたので、傭兵の隊長でもある地方領主と側近が前に出て兜を脱いで顔を見せた。
「おお! アルカン殿! ご健在でしたか!」
「ああ! この通り前よりも大きくなったわ! ワハハハハハ!」
「確かに! 闘技大会の戦士よりも大きく見えますぞ!」
「ならば、次の大会には出てみようか!」
「ハハハハハハ!」
私はジャンヌに言われて高度を下げ、ゆっくりと着地した。
降下途中でジャンヌはハーネスをほどき、私の着地と同時に離れて片膝をつくと、傭兵達も片膝を立てた。
王の城からやってきた者も馬から降りて片膝をついて頭を下げた。
「頭をお上げください」
「ハッ! 新生魔王陛下、此度の救援、真に感謝いたします 我が王がお待ちしておりますので、我等について来て頂けますでしょうか?」
「分かりました、案内お願いします」
「ハハッ!」
私達は案内役の後について、王が待つ城へと向かって行った。
リザロ達も全員一緒に同行したが、透明ゴキブリ人間達は密かに敵の野営地から有益な情報や物がないか調査して回収し、王の兵士達が来る前に撤収するよう指示してあった。




