第23話
「それはとても……、とても魅力的な提案です、とりわけ今現在劣勢に立たされている国々にとっては大いに魅力的な選択肢になるかも知れません……、ですがその見返りに魔王様は何を所望されますか?」
「まずは貿易を行いたいと考えています」
「貿易……、ですか?」
「はい、この世界の果てでは育てられる作物などが限られています、なので麦やその他の作物や乳製品などの食料品などを対価として受け取りたいと思います、もちろんこちらが提供出来る肉などを気に入ってもらえればそれらと交換取引をしても良いと考えています」
「我等の土地を要求しないのですか?」
「いずれは共に暮らせる未来が来ることを望んでいますが、当面の間、恐らく百年以上は人間達の大陸に我々が移住する事はないでしょう」
「なんと!? あなた方は領土を獲得しに来ないのですか?」
「はいしません、さすがに未来永劫とまでは確約出来ませんが、数十年単位の更新契約で正式な誓約書を交わしても良いと考えています」
「……、そ、それ程の条件ならば、承諾する国があってもおかしくありません、しかし……、しかしそれを信じる国があるかどうか……」
「そこで、皆さんに力を貸して欲しいと思っております」
そこからは私に代わりジャンヌが説明した。
彼等は一部で名の知れた傭兵団なので、彼等と魔物達の混成部隊を編成して、苦境に立たされている国の支援を行うと話した。
もちろんすぐの話しではなく、共に軍事訓練を行って練度を高めて、さらに戦況調査をしっかりして準備を整えてからの話しである。
また、実際の戦場においては前線は魔物達が引き受け、傭兵達は人間達との交渉において重要な存在なのでなるべく負傷者が出ないような位置に配置する事も説明した。
「そこまでしてもらうのは気が引けます……」
「いえ、その方が私達にとっても有利なのです、私達のためだとお考え下さい」
傭兵団でもあった避難民達は考え込んだが、今すぐの話しではないので判断はまだ先に伸ばし、まずはここでの生活に慣れてもらい、体力が回復したら共に実践訓練を行うという方向で話しはまとまった。
それから一週間程かけて彼等にはここの生活に慣れてもらい、さらに私達の仲間を紹介した。
やはりまずはリザードマン達の姿を見て恐れ、次にゴキブリ人間達を見てさすがに怯んだが、子供達は割と面白がっていた。
獣人達にも恐れてはいたが、ネコのような愛嬌のある顔なので割とすぐに慣れて、ゴブリン達に対しては驚きの表情を浮かべた。
「トカゲの戦士達もですが、私達の知っている緑の小悪魔とは大分違います、なんというか我々人間のようで、緑の小悪魔と違って全く醜くありません、トカゲの戦士達もどことなく鎧を着込んだ人間のように見えます」
「トカゲしゃんかっこいい!」
「おおっ!? ハハハハハハ! そうか! それはありがとう!」
確かにリザロはかなり格好良い姿になり、地球にいる子供達が見たらさぞや人気のキャラクターになったことだろう。
その数日後、いよいよ合同軍事訓練を開始する事になったが、総指揮をとるのはもちろんジャンヌで、最初はいきなり実戦を行うのではなく、各員の配置の確認と移動訓練を行った。
混成部隊としてしっかり動けるように、この基礎的な行動練習のみを一週間かけて徹底的に叩き込んだが、さすが傭兵なだけあって動きはとても良かった。
また、訓練の合間に木剣などを用いて個々人の戦闘訓練を行ったが、傭兵達は子供の女ゴブリンにすら勝てず愕然としていた。
それを見たジャンヌは笑って、最初は私もそうだったと言って、皆もこれから訓練を重ねれば強くなれると激励した。
実際その通り毎日訓練を重ねて力を付け、それから2週間後には比較的安全な狩場に行ってトカゲ相手の実戦訓練を行った。
連日私の作る食事を沢山食べて、朝から晩まで実戦訓練に明け暮れる日々が続き、ひと月後には皆一回り以上身体が大きくなり、五人一組でオオトカゲを倒せるまでになった。
この頃になると混成部隊訓練もさらに磨きがかかり、マンモスも加えた戦闘訓練まで行うようになっていた。
そうして三ヶ月が過ぎたところで、命からがら逃げ延びてきた避難民達は屈強な精鋭揃いの戦闘集団となり、一緒に戦う事を承諾してくれた。
もちろんこの三ヶ月の間、人間達の情勢調査はしっかり行っており、一番最初に支援の手を差し伸べる国の選別も済ませていて、透明ゴキブリ人間達を使って王の居城のバルコニーに出所不明の書簡を届け続けてもいた。
我々の混成戦闘部隊は総数こそ100名程度であったが、本気を出せば5千の人間達にも勝てる自信はあった。
最初に支援する事を決めた国はやはり避難民達の愛する祖国で、避難民の代表者は地方の領主でもあり、田舎とはいえそこそこ名の通った傭兵でもあるので国王も必ず覚えているはずで、彼の署名入りの書簡にて、人間に協力してくれる魔物達と共に救援に向かう事を知らせていた。
また、避難民達の故郷という事で、その土地柄や気象状況も熟知しているという利点もあり、さらに増して彼等の愛する故郷なので、戦闘意欲もかなり高い事が期待出来た。
さらに密かに転移魔方陣を刻んだ石を支援対象国の近くに設置して、毎日のように深夜にジャンヌを背負って飛んで行って気象予測と敵兵力の偵察を行った。
ジャンヌによると5日後あたりに南から乾いた強い風が吹くとの事で、避難民達からも昔からこの季節特有の事だと教えてくれて、ジャンヌはこれを利用しない手はないと即断即決し、作戦内容を説明し始めた。
透明ゴキブリ人間達が敵兵達の野営地背後から自然火を装って火を放ち、慌てて消化作業をしている所を支援国の兵士を装って、あたかも籠城している王の居城から出撃したように見せかけて急襲するというものだった。
魔物側は全員素顔と素肌を隠して、魔物だと知られないようにする事を徹底したが、なんとその際リザードマン達は男女子供全員尻尾を切り落とす程の徹底ぶりだった。獣人達の尻尾については細くて柔軟性があるので、各自腰に巻き付けたり背中側に折り畳んだりした。
全員クロゲータの皮やアルマジロに似た生き物の皮で作った防具を身に着け、マンモスの牙やホーグルの爪やクロゲータの牙で作った武器を手にした。
今回の戦闘ではマンモスも魔法人も使用せず、敵勢力に対しても全滅させない事として、撤退した敵を追いかけてはいけないと命じた。
その理由は圧倒的な勝利をしてしまうと、敵の大兵力を呼び込んでしまう可能性があるからで、勝ち過ぎない事が重要だとの事だった。
それからの4日間は徹底的に行動練習を行い、最後の1日は完全休養日とした。
支援国の国王には詳細な作戦内容は伝えず、ただ5日後に敵兵力を撤退に追い込むとだけ伝えておいた。これは万が一にも作戦内容が漏れ伝わる事を避けるためである。
そうしていよいよ人間達との最初の戦闘当日となった。
作戦開始時間は深夜で、ジャンヌの気象予測通り南から乾いた強い風が吹いており、行軍時の音もかき消してくれる効果があった。
早速透明ゴキブリ人間達が敵兵団の野営地の背後に素早く密やかに進み、火打石を使って火を付けた。
まさに今、本物の戦争が始まった。




