第18話
実戦の場においては、自分達の都合に合わせて敵が動いてくれる事はないので、走ってやってきた皆には疲れているとは思うが、そのまま戦闘開始させる事にした。
とはいえ、しっかり事前に計画しての訓練なので決して無為無策ではなく、全員がしっかり強力して力を出せれば乗り越えられる壁だった。
ますマジエがオスマンモスの前に出て挑発し、激高したオスマンモスが出てきたところで、マジコがメスマンモスを分断するためにトゲの柵を出現させた。
そしてスリング投石部隊がメスマンモスに対して投擲を開始し、怒ったメスマンモスが上手い具合にそちらへと向かっていった。
これまでの獲物もそうだが、マンモスも捨てるところは一切なく、その長くて保温性に優れた毛皮も手に入れたいのでマジエの炎の魔法で毛を燃やすわけにはいかないので、今回は私が仕留める事にした。
マジエがオスマンモスの前で火力弱めの炎を目の前ちらつかせて挑発し続けてくれたので、私は容易にオスマンモスの背後を取ることが出来て、私は相対速度を合わせて後方から側面へと移動して腹の下に潜り込み、前足の付け根の胸の部分に両手を当てて雷撃を送り込んだ。
オスマンモスは即座に心肺停止となり勢いよく倒れ込んだが、私は押しつぶされる前に前方から脱出した。
「お見事です! 魔王様!」
「ありがとう、マジエが完璧にマンモスを挑発し続けてくれたおかげだよ」
「お褒めいただき、光栄に存じます」
一方メスマンモスの方でも早くも戦闘は最終局面に入っているようで、顔の周辺に無数の矢が突き刺さって目を潰されて、足の健も切られて倒れたマンモスにとどめを刺すべく喉をかき切って窒息させていた。
私の時と違ってかなり惨い姿で可哀そうではあるが、これも我らが生きるためで、奪った命は全て無駄にせず有難く頂く事にするつもりだ。
早速解体作業に取り掛かったが、血の匂いを嗅ぎつけたサイズの大きいガガラが4羽も近付いて来たので、各自迎撃態勢を整えた。
「魔王様、1羽いただきたく存じます」
「うん、分かった、えぇと……、あの一番大きいのがいいんじゃない?」
「有難う御座います、では!」
マジエはわざと遠回りしてS字を描くように凄まじい機動で飛んでいき、一番大きいガガラの背後を突くように飛んで行った。
ボスらしいガガラはマジエに気付いたが、残る3羽のガガラは急降下していき、側近達はわざと迎撃開始の命令を下さず、ギリギリまで引き寄せているようだった。
マジエの方も何故かガガラに火炎放射を繰り出す事はせずガガラの攻撃を避けていた。
そして3羽のガガラの方がマンモスの上に乗った瞬間、なんと投石部隊から放たれたのはクモの糸を編み込んだネットで、四方八方から広がったネットが投擲され、すぐにリザロ達がネットの端を掴んでガガラが飛べないようにし、獣人達がすかさずガガラの喉を狙って鋭い爪を立てた。
そしてマジエはガガラの巨大なクチバシに突き刺されたかのように見えたが間一髪両手で防ぎ、開いた口の中に手を突っ込んでガガラの体内を業火で燃やした。
マジエは爆炎も使えるが、恐らくなるべく素材を回収出来るように最小限のダメージでガガラを仕留めたかったのだろう。もしも爆炎を使っていたら大きなガガラは爆散して木っ端みじんになっていたはずだ。
予想外の邪魔者が乱入してきたが、それも含めて上出来の結果となり、皆手を挙げて勝利の雄叫びをあげて喜んだ。
解体作業も皆嬉々として手を動かし、かなり美味しいらしい肉と臓器に、保温性の良い温かい毛に様々な物に使える牙と骨が手に入って皆大満足だった。
もちろん各自レベルもあがり、士気もあがってますます我々は一致団結していった。
その後もマンモス狩りで経験値稼ぎをしたが、獲り過ぎてマンモス達が少なくなるような事がないように、時にはエサをやったり子供のマンモスが穴に落ちたのを助けて回復させたり、食中毒か何かで病気になって苦しんでいるのを回復させたりしているうちに、想定外にマンモス達に懐かれてしまったので、それ以後は狩りをするのをやめたのだが、死期を悟ったマンモスが我々の前に来て楽に殺してくれと頼んでいるかのように跪いてアゴをあげたので、私が雷撃で安楽死させて、肉や毛などは全て有難く頂戴したが、片方の牙だけは墓標として地面に突き立てた。
マンモス達はこれに喜びますます我々に懐くようになったので、いずれ戦場の象部隊として共に戦えるように戦闘訓練を行った。
そうして気が付けば半年程が過ぎようとしたところで、ゴキブリ人間達全員に待望の透明化スキルが身に付き、これで兼ねてより送り込みたかった人間達の町での情報収集が出来るという事で私は喜んだ。
だがしかし、それと同時に最も恐れていた報告ももたらされたのだった。
「魔王様! 最南端に人間が現れました!」
早速私はマジクとマジコとコック配下のゴキブリ人間達を連れて最南端の監視所へと移動し、いまやかなりの視力を誇る我が目を凝視して獣人が指し示した方向を見た。
すると小さな小舟に数人の人間が乗っているのが見えた。
「うん? 何だ? 変だな……」
私の視力はますます遠くまで見渡せるようになっていて、見たところ小舟に乗っているのはわずか6人で武装した兵士が4人に船の舵を担当している者が1人、そして真ん中に座っているのは簡素な服を着て体を縛られていて、目には目隠しが巻かれていたように見えたが、目の辺りが真っ赤に染まっていたので、もしや目を潰されたのではないかという嫌な思いが頭をよぎった。
しばらくそうして見守っていると、いよいよ船は接岸し、先に2人の武装した兵士が降りて周辺を警戒し、続いて2人の兵士が座っている人間を小突いて立たせ、目が見えなくてオロオロしているのを乱暴に蹴とばして船から落とした。
咄嗟に受け身を取ったようだが、腕と額からは血が流れており、なんと酷い事をするのだとますます嫌な気持ちになった。
兵士達はさらにその人を蹴とばして突き飛ばしてから、船に戻って大陸へと戻って行った。
蹴とばされた人はその場に蹲って自分の身体を抱いて震えていた。
帰りの船は追い風のためにどんどん見えなくなっていき、やがて私の視力でも点にしか見えなくなったところで、私は皆にその場で待機するように命じて飛行魔法で蹲って震えている人間に近付いた。
私は音もなく近付きフワリと着地したのだが、体重をかけた瞬間砂浜の砂の音が極僅かにサクッとして、蹲っていた人間はビクッとした。
「驚かして申し訳ない」
「ダッ、アガッ、アガガッ、ダッ」
「?」
「アガガッ! ダガッ?」
私は大きく目を見開いた、その人は舌を切り取られていて言葉を話す事が出来ないのだ。
「静かに! どうか静かにして下さい! 今からあなたを治します、私は回復魔法が使えます、今からあなたの怪我を治すので、どうか静かにして下さい、そして出来れば抵抗しないで頂きたい、私の言葉は分かりますか?」
フーッ、フーッ、コクリ……
どうやら、言葉が通じたようなので、私は早速その人に近付いて両手でそっと包み込むようにして心の中で回復と唱えた。




