第16話
初代魔王城の隠し通路には転移魔法陣があるとの事だったので、マジクに転移魔法で開通してもらい、コックに潜入してもらう事にした。
一応私とマジクも一緒に行き、コックから十分距離をとって、コックが先行して人間達が仕掛けた罠がないと確認してから進むようにした。
隠し通路内は真っ暗なのだが、コックと私は問題なく内部の様子が分かった。ただ全体的にグレーとして目に映り、物の輪郭が分かるだけで、物の色までは分からなかった。
マジクは暗視能力がなく完全な暗闇にしか見えないとの事だったので、私と手をつないで進む事にした。
ちなみにもう一人別の魔法人である赤毛の髪のマジエは炎の魔法を扱う事が出来て、暗闇を灯す事も出来るようだが、人間が仕掛けた罠が熱源や灯かりを感知するかも知れないので、このまま暗闇の中を進む事にした。
そうしてコックから大体10~15メートル程離れて音を立てずに慎重に進んだ。
コックは透明になるスキルを用いていたが、私にはコックの生命オーラを感じ取るが出来るのでコックを見失うことはなかった。
隠し通路をゆっくり音を立てずに進む事10分、いよいよ初代魔王城内部へと潜入した。
そこはどうやら調理場だった場所らしく、石で造られたかまどや調理台や水場がしっかり残っていたが、木製の棚などは全て焼き尽くされていて炭化した残骸が幾つか床に残っていた。
調理場はとても広くかまども沢山あったので、ここはかなり使えそうだと思って気に入った。
先に進んでいたコックが少し戻ってきて透明化を解除して頭を縦に振ったので私達は調理場を出て先に進んだ。
とても天井が高い通路に出ると、焼け落ちて窓枠だけになっている穴から光が差し込んでいて、辺りは明るくなっていた。
幾つかの食堂と思しき部屋があったが、どの部屋も焼き払われていて調度品は一切残っていなかったが、以前説明を受けた通り建物のほとんどが石造りであったので部屋自体は残っていた。
とはいえ一階の床とアーチ構造で作られた柱と天井以外は木製だったために一階以外は全て焼け落ちていて、城はいわゆる「ガワ」だけが残っているだけという状態なので、二階から上はすっかりなくなっていた。
その後もコックの先導の元探索は続き、恐らく玉座の間だったらしい広いホールへと出た。
一番奥に石造りの立派な玉座があり、一段高くなっていて石の階段が設けられていた。
私達は一目見て遠くからでも玉座に何かの模様が描かれているのが分かった。
コックが慎重に進んで側面から玉座に近付き、しばらくその場にたたずんでから、こちらに戻ってきた。
「見た所もしかしたらもう機能していないかも知れません、何か生きた獣などで確かめれば分かるかと思います」
「……、あっ! そしたらちょっと可哀そうだけどクモで試してみよう、玉座の上にエサを置くというのはどうだろうか?」
「なるほど、それは良い案です」
早速私達は洞窟に戻って大きなクモのいる場所に移動して、私がクモを抱いてまた玉座の間に戻った。クモは餌付けしてすっかり私達に慣れているので大人しかった。
コックが透明になって玉座に近付いてエサを玉座の上にうまく投げたので、私は抱いていたクモをそっと降ろすと、クモはすぐに玉座の方へと動いていき玉座の上に乗ってエサを食べた。
「やはりもう機能していないようですね」
「ところどころ魔方陣の模様が風化して消えて途切れています、大分前に描かれたものですから人間達の方でももう気にしていないでしょう」
「なるほど」
その後も城の正面玄関と裏口の二か所に魔方陣が存在していたが、どちらも風化して機能していない事が確認された。
「これならそのうちしっかり修復して再利用する事が出来そうだね」
「はい、以前は各階の床や天井に木を使っていたようですが、マジコの大地の魔法を利用すれば火に強い建物になると思います」
「おお! それはいいね!」
初代魔王の頃は魔法がなかったので一般的な古い建築技法で作られていたが、今は魔法があるので木製の梁や床板がなくても良いそうだった。
とはいえ今すぐにこの城が必要という訳ではないので、城の建て直しは追い追いやる事にして、他に何か気になる所がないかもう少しあちこち見てまわる事にした。
しかし城そのものは大きいのだが2階から上はすっかり焼け落ちているので、それから30分も経たずに全ての部屋を見終えた。
残念ながら隠し部屋とか秘密の地下室などが発見される事もなく、隠された財宝とか強力な武具が見つかる事もなく、貴重な資料や初代魔王が残したアイテムなどもなかった。
そもそも初代魔王の頃は、まだ文字がなかったとマジクから教えてもらった。
結局何もなかったという事で、来る前は割と期待していただけに結構残念な気持ちになりながら戻る事にした。
翌日は、最南端の最後の激戦区を視察に行く事にして、以前マジコ達を救助した場所に転移魔方陣を刻んだ石を隠し置いておいたので、その場所まで転移魔法で移動して、そこからさらに南にある砦を目指した。
魔方陣が刻まれた石はまた再利用するつもりなのでマジクの鞄に入れてもらって、今日も私はコックを抱いて飛行しながら進んだ。
マジクの話しでは恐らく最後まで残った人間の兵士達も既に撤退しているだろうとの事で、しっかり警戒はしつつも最南端まで行ってみる事にした。
まず先に砦が見つかったので用心しながら近付き、透明になったコックを投下した。
私とマジクは着陸して待機すると、15分後にコックが戻ってきて、人間の姿はなく魔物達の姿もなかったとの事だった。
ただ砦の近くに大きな穴が空いていて、魔物達はその穴で徹底的に焼き尽くされたようだと言っていた。
コックによると武具なども残っていなかったとの事なので、さらに先に進んで最後の激戦区へと向かう事にした。
途中ところどころに塹壕や簡易的な陣地の跡があったが、何も残っていないのが上空から見て明らかだったのでそのまま通過して進んだ。
そうして2時間程飛行したところで、大きな要塞のようなものが見えた。
しかし近付くにつれてあちこちの壁が破壊されて崩れているのが見えて、ここがかなりの激戦地だった事と、これ程の要塞を破壊出来る力が人間達にある事が分かり、改めて人間側の戦力を思い知る事になった。まぁそもそも自分も元は人間なので十分理解しているのだが……
ここでもまだ距離が離れているところで、コックを投下して先行偵察に行ってもらい、私とマジクは着陸して待機した。
今回は30分以上待っていると、コックが戻って来てやはり誰もいないと報告してきたので、私は要塞内を視察しに行く事にした。
上空から俯瞰してみると、天井の多くも破壊されて穴が空いており、崩れた残骸があちこちに散乱していた。
また地面には車輪の跡と思われる轍があり、人間達は大きな投石機を使っているたマジクから説明された。
どうやらこの時代はまだ火薬が発明されていないらしいく当然大砲もないようで、私は少しだけそれを聞いて安心した。
とてもじゃないが数においても圧倒的な戦力差があるのに、これに加えて科学的な水準まで進んでいたら我々に勝ち目はないだろう。




