第14話
「今ここにいるので全員ですか?」
「はい、ここにいるのは我等だけです」
「他に私達の仲間がいるか知っていますか?」
「下流に行けば魔法人がいるかも知れませんが、もう死んでいるかも知れません……」
「魔法人?」
「はい、彼等は私達を逃がすために最後まで残って戦ってくれました、本当は私達の方こそ彼等を逃がさないといけないのですが……」
私はマジクに頼んでいったんこの場所で転移魔法を唱えてもらい、朝マジクが用意した転移魔法が刻まれた石をこの場に置いて、皆で洞窟へと移動した。
洞窟ではリザラ達リザードウーマン、ゴブリ達女ゴブリン、コック達ゴキブリ人間が各自作業をしていて、私と獣人達を見て歓声をあげ、獣人達も喜びの声をあげた。
どうやら種族間で互いに犬猿の仲の相手はいないようなので私は安心した。
すぐにでもその魔法人という存在の捜索に行きたいところだが、皆に獣人達の紹介をして獣人達には今の状況説明をして、さらに皆の昼食を用意しないといけないので、どうしたものかと考えていると、マジクがとても恐縮した様子で私に意見具申してきた。
「他の者達に任せて、一刻も早く魔法人の捜索に行かれることを進言いたします、あるいは私に捜索をお命じ下さい」
マジクは跪いてまるで床に額を付けるかのように深々と頭を下げてそう言った。
「うんそうだね、そうしよう、少しだけ時間をくれるかい?」
「ハッ! 仰せのままに!」
私はまずコックに有望な人材が見つかったか尋ねると、ゴキブリ人間達は全員肉や魚のカットや野菜の皮むきが上手に出来て、食器洗いも丁寧で冷たい水仕事も熱い物にも触れるので作業員として使えると説明された。
次に女ゴブリンの中の一名がとても料理に感心があり志願してきたので、試しに何か作らせてみたところ、ナイフ捌きなどはまだ未熟だが食材の選択と味付けについては見所があり、しばらく様子を見る価値があるとの事だった。
早速私はコックと一緒にその女ゴブリンを連れて厨房へと行き、探索に行く前に試食したナマズの白身肉のナッツ和えソテーを作って見せて、二人に味見させてこれと同じ物を作って皆に食べさせるように言うと、二人とも目を輝かせて頑張りますと言った。
それから洞窟に戻ってリザラかゴブリに獣人達への説明をしてもらうように依頼しようと思っていたら既にリザラが説明していたので、私は満足してそのままリザラに任せて、マジクと一緒に魔法人の捜索へと出かける事にした。
移動後、魔方陣が刻まれた石を回収して、ついでにマジクの鞄から素焼きのアーモンドナッツを出してもらい、二人でわけて飛びながら食べて下流へと向かった。
川に沿って1時間程移動したところで、私は遠くに小さなガラス張りのドーム形状の温室のような不思議な物を見た。
「なんだあれ? もしかしてあそこに魔法人がいるのかな?」
私はマジクに言って一気に時速100キロ程度にまで速度をあげて現場に急行した。
3分と経たずに到着すると、マジクのような姿をした小人が4人いて、うち二人は横たわっているのが見えた。
一目見て何故か私にはこれは良くない状況だというのが分かりすぐに声を上げて近付いた。
魔方人はすぐにこちらに気付き、私達を見ると両手を挙げて喜びの声を上げ、透明のバリアのようなものは消えていった。
魔法人の傍に着陸すると、二人の魔法人は私の姿を見て跪き胸の前で手を合わせて喜び、嗚咽を漏らして泣き始めた。
マジクが横たわっている二人に近付き手を触れたので、私もマジクの傍に行くと、マジクは首を振ってもう死んでいますと悲しい声で言った。
泣いている二人を見るとボロボロのマントから血がにじんでいるのが見えて、さらに嗚咽を漏らして泣いている途中で吐血していたので、私はすぐに近付いて両手をかざして心の中で「回復!」と強く唱えた。
すると二人のマント姿の小人は優しい光に包まれて金色の粒子がチリチリとまるでダイヤモンドダストのように舞い上がった。
わずか10秒ほどで光が自動的に消えたが、私には何故かこれで二人とも十分完治したという事が分かった。
さらに私はマジクの方を見て、これまで気付かなかったがマジクの方こそ酷い怪我を負っている事が突然今になって分かり、マジクに近付いて常に顔を隠しているフードを外した。
マジクにはとても悪いと思ったが、マジクは全く抵抗せずにそのまま立っていた。
すると目の前には酷いやけどでただれていて、あちこち化膿して黄色い膿が出ている皮膚に覆われたとても醜い姿があった。
髪の毛はあちこち抜け落ちていて、わずかに所々に生えているだけで、耳はほぼない状態で側頭部に溶けた肉が張り付いていた。
鼻から下は布を巻いて隠しているが、恐らく鼻も溶けてなくなっていて、他の箇所もかなり酷い状態であるのは間違いなかった。
非常に激しい悲しみに襲われたが、不思議な事に涙は流れずその悲しみもわずか数秒でスゥーッと消えて私は冷静になった。
そして私は先程と同じく両手を挙げてマジクの顔にかざして心の中で「回復ッ!」と唱えた。
するとやはりマジクは全身暖かく優しい光に包まれて、金色の粒子が宙を舞った。
気のせいかもしれないが先ほどよりも強く光り輝いていて、マジクの様子がどうなっているのか分からなかった。
そしてさっきよりも少し長く、20秒程で自動的に光が治まると、私の目の前には信じられないものが存在していた。
それはまるで天使のような美しい少女の姿で、透き通った白い肌に大きくて青く澄んだ目、さらにほとんど抜け落ちていた髪も見事な黄金の髪で全て復活していた。
マジクは愛らしい目を大きく見開いて、自分の髪を触り、耳を触り、さらに目から下を覆っていた布を取ると、とても整った綺麗な鼻筋とふっくらとした唇が現れて、マジクは自分の顔を何度も触って確かめた。
すると、他の二人の魔法人も近付いてきてマントのフードを取り、マジクを含めた三人で互いの顔をしっかり見て強く頷いていた。
マジク以外の二人もとんでもない美少女で、あまりにも美しすぎるのでまるで作り物のようだと思ってしまう程だった。
「驚いた……、魔法人は皆あなた達のように美しい容姿をしているのですか?」
「私達は私達が美しいとは思っていませんが、人間達からはとても好まれる容姿である事は知っています、なので常に顔を隠しています」
これほどまでに美しい人達が、自分達は美しいと思っていないというのは、人によっては酷い皮肉だと思うかも知れないが、魔物達の世界においては人間達の美的センスとはまるで尺度が違うのでそうした見解が出てしまうのは仕方がない事なのだろう。
「確かに人間達にとっては、あなた達はとても美しく魅力的に見えると思う」
「はい、人間達は私達をとても商品価値が高い物として捉えています」
「大勢の仲間が人間達に捕まって言葉に出来ない程酷い事をされたり、はく製にされて飾られている者もいました」
「……」
とても残念な事に人間達の中にはそうした者達がいる、ましてや彼女達が人類の敵とみなされている魔物だというのであれば、ほとんどの人間が何をしても良いと考えるている事だろう。
彼女達が顔を隠している理由が分かり、私は同じ人間だった者としてとてもやるせない気持ちになると同時に怒りがこみ上げてきた。




