第13話
最も有望な水源は私達が狩場にしている場所だが、昨日マジクが言ったように魔物達は人間達のいる大陸に進出して100年以上住んでいて、その後人間達の大規模反転攻勢に遭って世界の果てに逃げ延び、まだそれほど時が経っていないので狩場の水辺までは戻ってきていないだろうという事で、大陸南部を中心に探索する事にした。
狩場は南東部なのでなんとなく南西部に似たような水辺がないか探すと、同じくらいの大きさの湖があるのでそこはどうかと聞くと、そこは付近一帯が毒に汚染されているので生き物はいないと説明された。
「毒の湖なんですか?」
「いえ、水には毒はないと思いますが、周辺には毒の空気が蔓延しているのです」
「毒の空気?」
「はい、目には見えない透明の毒です」
「毒の空気の近くには大抵黄色い岩が沢山あります、我らの大陸には割と多くそのような場所があって近付くと腐臭がします」
「……、あっそうか! 硫黄だ! 火山ガスだ!なんていったっけ……」
(※硫化水素、二酸化硫黄)
硫黄からは色々と便利な化学物質が取れると思うのだが、残念ながら私はその方面の専門的知識を全く持っていないし、今置かれている状況でそういった物質を抽出出来るとも思えない。
とりあえずこの場所は諦めて、別に候補になりそうな場所を検討した。
「この場所はどうでしょうか?」
「ウム、我もその場所を考えていた」
「ここですか?」
「はい、この地図上では特に何もないように見えますが小さな川が流れています、北部の雪が地熱で温められて出来た川です」
「狩場程ではないですが、緑もわずかにあって毛の生えた小さな獣もいます、川魚もいるので生き延びた者達の食料になります」
「なるほど、マジク、この近くに転移魔法で行けますか?」
「残念ながらその近くには御座いません、狩場から移動するのが最も近いですが、徒歩では数日かかります」
「なるほど……、そうだ! そしたら私とマジクの二人で飛んで行こう、そして新しく魔方陣を刻んだ石を用意して、夜になる前にここに戻って来て続きはそこからまた飛んで行くというのはどうですか?」
「なるほど! それは良い案だと思います!」
「さすが魔王様!」
「さすがでございます!」
「魔法陣はどれくらいで用意出来ますか?」
「半刻程で用意いたします」
「おお! そんな短時間で用意出来るんですね! では早速お願いします、準備出来次第出発しましょう」
「かしこまりました!」
マジクが言った半刻とは30分の事で、この世界でも地球と同じ時間認識があって、1刻は1時間に相当し1日は24刻で刻まれていた。これは人間達が使っていた概念を魔物達も取り入れて使うようになったそうだ。
「では我等は戦闘訓練を行います」
「私も」
「わたくしも」
「私達は確保した素材で防具を作りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」(ゴブリ)
「それは良いですね! 是非お願いします」
「ご許可いただき有難う御座います」
「であればわたくしは武具を作っても良いでしょうか?」(リザラ)
「良いですね、是非そうして下さい、他にも各自思いついた事があればやってみて下さい」
「仰せのままに!」
転移魔法陣が出来るまでの間、私は厨房に行って昼食の仕込みをしにいった。
肉と魚はかなりの量があるが小麦と玄米は多くはないので、節約するために昨日採ってきてもらった木の実を使う事にした。
木の実は全て殻が剥かれていて、まるでアーモンドナッツのような見た目だったので、軽く火で炙って食べてみるとかなり濃厚で美味しく、これはこのままでも十分主食になりそうだった。
とりあえず大量にあるナッツを火で炙り、試しにそのうちのいくつかを細かく砕いてナマズの白身の肉を小さく切り取って一緒に油多めでソテーにして炒めて試食してみた。
「うん! これはかなり美味しい! 今日の昼はこれで決まりだな」
素焼きしたアーモンドナッツは保存食にもなるので全て火を通しておいた。
作業終了と同時にマジクの方でも丁度準備が出来たという事で早速出発する事にしたが、その前に今素焼きしたアーモンドナッツをひと掴みしてマジクの鞄に入れてもらう事にした。万が一のための保存食でおやつに食べてもいい。
早速私とマジクはいったん狩場に行ってから目的地に向かって飛行した。
不思議な事に何故か私もマジクも目的地への方角が確信をもって分かっていて、飛び続けていても果たしてこの方向で合っているのだろうかという不安すら生じる事もなく突き進んだ。これも魔物が持つ特殊能力だろうか?
さらに驚くべきことに、時速70キロ程で3時間も飛び続けているにも関わらず、まるで疲れる事がなかった。これはマジクも同様だった。
「あっ! あれか!」
私の目に遠くを流れる川が見えた。
「この距離から見えるのですか? さすがは魔王様です、私にはまだ見えません」
確かにマジクの言う通りかも知れない、川が見えたと言ってもまるで髪の毛のような細い線が見えているに過ぎなかったのだ。かつての私では考えられない程の視力だ。
それからおよそ10分後に目的地上空に辿り着きそのまま上空偵察を行った。
マジクの言う通り猫並みに大きなネズミのような生き物がいて、私達の姿を見ると仲間に警戒を知らせながら逃げて行った。
かなり向上した視力を活かしてその場でグルリと見渡したところ、何となく上流に何かがいるような感じがしたので川に沿って移動した。
5分程移動したところで、遠くに二本足で立っている生き物がいるのが見えて、その生き物の方でもこちらを見ているのが分かった。
「何かいる! あっちもかなり目が良いみたいでこっちを見ている!」
「恐らく獣人種だと思います! 身体中毛皮で覆われているはずです!」
「あっ、ホントだ!」
マジクの言う通り全身体毛で覆われていて、まるで猫のような人間がいた。
その獣人は私達を見ても逃げることなく、後ろを振り返って大声をあげて仲間達を呼んでいるようだった。
私は速度を落として直立した姿勢の状態で獣人にゆっくりと近づいて行った。
すると突然どこから現れたのか獣人達が4匹程近付いていて、私は目を凝らして良く見ると、なんと地面に巧妙にフタをした小さな出入口から出て来ているのが分かった。しかも体毛が周辺の地形の色に似ているのでパッと見では気付きにくかった。
私は大いに感心しながら眺めていると、最終的に獣人達は6人現れ、皆整列して跪いた。
彼等に敵意は無いと判断したので、私とマジクはゆっくり高度を下げて静かに着陸した。
「顔を上げて下さい」
私がそう言うと、皆ゆっくりと頭を上げた。どの顔も凄く可愛い猫のような顔で、皆まだ若い、というより幼い感じがした。
「ああ! そのお姿! そのお姿は紛れもなく魔王様です!」
「ええと……、そうです、一応私は魔王です」
「魔王様!!」
「復活おめでとうございます!」
「魔王様万歳!」
残念ながら語尾にニャはつかず、誰もニャアニャア言わなかったが、それでも皆かなり可愛い容姿で見ているだけで癒された。




