第11話
それから私は大好きなライフワークでもある料理を上機嫌で行い、当然今日はお祝いだという事で一番良い肉を惜しげもなく使って沢山のご馳走を作った。
「と言っても使える調味料が少ないから、ほとんど全部塩味の料理なんだよなぁ……」
それでも一応今日獲得した食べ物の中にトマトに似た野菜があったので、煮込んでトマトソースっぽいものを作る事が出来た。
本当はもっと煮込んでから出したかったが、料理のバラエティを増やすために出す事にした。もちろん別途煮込み続けて濃くて美味しいトマトソースを作るつもりである。
同様にソースも作りたかったので、今日獲得した物と食料保管箱に入っていた物の中から様々な野菜や果物を選んで入れて煮込んだ。
そんな私の所作をコックは間近で全てガン見して学習していた。
「困った、この調子だと塩が足りない……」
「塩でございますか?」
「うん、このままだと3日、持たせても5日で塩がなくなる、どうにかして手に入れないと……」
「塩ならば、沢山あります」
「えっ? 本当ですか? どこに?」
コックの話しでは岩塩が沢山ある場所があるそうで、マジクの転移魔法でその場所に行けるとの事だった。コックは後で補充しておくと言ってくれたが私も行ってみたいので一緒に行こうと言うと、コックは嬉しそうな顔をした。いよいよ目の前にいる巨大なゴキブリが可愛いと思うようになってきてしまった。
その後出来上がった料理を別の洞窟に持ち運んで今日の狩りを祝って皆で食べた。出来ればお酒も欲しいところだったが、残念ながら今朝最後の酒を側近達と飲んだので酒無しの宴だった。
酒のない食事だけの宴となったが、全員私が作った料理に大満足し、食休み後には皆力が有り余るほど漲ったようで、身体を動かしたくてウズウズしてもうひと狩りしたいと言い出した。
リザロが丁度良いという事で、戦闘訓練をしても良いかと進言してきたので、私は怪我をしないよう十分注意して行うように言って許可した。
ゴブロとリザラも実施すると言い、ゴブリとゴキブリ人間達は野菜や果物の採取の続きをすると言って狩場へと向かったが、リザロはオオトカゲの内臓と頭の残骸を使って洞窟の外にいるガガラをおびき寄せて倒すとの事だった。
私はマジクに岩塩のある場所を転移魔法で開通してもらい、私とコックの二人で岩塩を取りに行く事にし、マジクには私の代わりに狩場に向かった仲間達の見張りをしてもらう事にした。
私はコックと二人で岩塩のある場所に行くと、そこは見渡す限り白い結晶が山のようにあったのでそれを見た私はかなり安心した。
コックが鋭い爪でひと欠片削ってもってきてくれたので軽く舐めてみると、豊富なミネラル成分を含んでいるおかげでとても美味しかった。
「これで鍋料理作ったら最高だよ! 水炊きとか作ったらさぞや美味しいだろうなぁ」
「水炊きですか?」
「うん、白菜や豆腐をタップリ入れたいね」
「白菜、トーフ……」
白菜はともかく、果たしてこの世界に豆腐は存在するのだろうか? 自分で試行錯誤して作ってみてもいいが、出来ればいつか人間達と貿易が出来るようになると良いな……
それにはまず魔物達をもっと多く集めて、しっかりした社会基盤を作らないと……、ってあれ? つい先日までただの調理人だった一般人の私が何故国家戦略のような事を考えているんだ?
私は軽く頭を振って今の考えを追い払うと、目の前ではコックが岩塩を削り取って丁寧に並べていた。それらは均等な大きなと形で揃えられていて、コックの几帳面さと丁寧さと器用さが如実に現れていてとても好感が持てた。
私とコックは何度も往復して岩塩を持ち運び、一通り運び終えた後で、せっかく来たのでもう少しこの辺りを見て回りたいと思い、コックを抱いて付近を散策する事にした。
ちなみにコックやゴキブリ人間達も飛行出来るが私やマジクのように速く高く長時間飛ぶことは出来ないそうだった。
岩塩の山が良い目印になって迷う事はなさそうなので目の届く範囲で遠くまで行ってみる事にした。
まずは高度を上げて100メートル程の高さでグルリと周りを見渡すと遠くには海が見えて、その反対にはまるで富士山のような見事な三角形の山が見えた。
「あそこに初代魔王様の居城がありました」
「そうなんだ、今でもその城は残ってるの?」
「人間達に焼き払われましたが、石造りで頑丈なので建物自体は残っていると思います」
「へぇ、いつか行ってみたいね」
「隠し通路の出入り口に転移魔方陣が刻まれた石が置かれています」
「あっそしたらいつでも行けるね!」
「はい、ですが恐らく城の内部には人間達が仕込んだ罠があると思います、侵入者を映し出して強制的に人間達のいる場所に転移させられます」
「そんなのがあるの!?」
「はい」
「それは対応策が見つかるまで近付かない方が良いね」
「はい、ですが今の私ならば透明になる事が出来るので見つからずに侵入出来ると思います」
「おお! いや、でも熱源とかで感知されるかも知れないよ」
「私は私がいる場所の温度と同じ体温なので大丈夫だと思います」
なるほど、確かに昆虫のコックならばその通りだ。
「じゃあ今度機会を見て偵察しに行ってもらってもいいかい?」
「仰せのままに!」
その後私は高度を下げて、何か気になるものがないか見て回った。
「……、うん?もしかしてアレは……」
私は以前沖縄に行った時に見た物を思い出し、その近くに着陸した。
「これはもしかして……」
ポキッ……、シャリシャリ……
「あっ! 甘い! サトウキビだ! これはサトウキビだ! やったぞ! 砂糖が手に入る!」
ポキッ……、シャリシャリ……
「本当だ! 甘いです! さすが魔王様! 素晴らしい知識量です!」
「これを煮込めばとても甘い黒糖という調味料が手に入るんだ! やったぞ! 料理の幅が一気に広がる!」
「魔王様万歳! 魔王様万歳!」
早速コックは鋭い爪を使って大量に群生しているサトウキビを伐採してくれて、私は胸に抱えられるだけ抱えて転移魔法陣のある場所まで何度も往復した。
かなりの量のサトウキビを確保したのでコックにもう十分だと言い、不毛の大地とはいえ探せば結構良い物があるじゃないかと満足し、これは本格的にあちこち視察する必要があると思った。
その後私とコックは確保した大量のサトウキビを拠点に運び入れて、黒糖を作る事にした。
まずはサトウキビを適当な大きさにカットして圧縮して甘い汁を絞り出すのだが、本来は圧縮する機械を使ったり、それよりも昔は石の歯車に挟んで絞っていたのだが、今この場にそうしたものはなくどうしたものかと思っていたら、コックは4本の腕を器用に使って腕力に任せて絞って汁を取り出した。
試しに私も左手で茎の上部を強く持ち、右手で上から下にギューッと握りながらしごくと汁が出てきた。
今更気付いたという訳ではないが、やはり今の身体は明らかに普通の人間の身体ではないという事を思い知りながら、二人で黙々と延々とサトウキビをしごき続けて汁を鍋に集めていった。
そのまま他の側近達が戻ってくるまでひたすら汁を集め続けた結果大きな鍋の7割程も集まり、後は1時間程煮込めば黒糖の完成となった。
私はコックにこの後はこまめにアク取りをしながらドロドロの粘り気が出るまで絶えずかき混ぜながら煮込んで、茶色いドロドロの状態になったら火からおろして素早くかき混ぜるように伝え、私は側近達の報告を聞きに行った。




