課金ステータス対決! 腐った勇者と社畜の知略
課金ステータス対決! 腐った勇者と社畜の知略
「な……なんだ、そのふざけた盾はァッ!?」
課金バフによって虹色の『神聖不可侵バリア』を纏ったオリハルコンの聖剣。
それが、鈍色に光る分厚い金属の壁に完全に阻まれ、ゼロスは血走った目で絶叫した。
「ただの業務用冷凍庫のドアだ。頑丈さと断熱性だけは折り紙付きでね」
スウェット姿の俺は、片手で巨大なドアを構えながら涼しい顔で答えた。
前世のスーパーのバックヤードで何度も開け閉めした、あの重たい冷凍庫の扉である。それを【スーパーマーケット】のインベントリから引き抜き、闘気を這わせて即席の超重量シールドとして運用しているのだ。
「ふざけるな! 僕は神に選ばれし勇者だぞ! こんなガラクタで僕の聖剣が止められるはずがないッ!」
ゼロスが狂ったように聖剣を振り回し、冷凍庫のドアに連撃を叩き込んでくる。
ガンッ! ガアァァァンッ! ドゴォォォンッ!!
無限課金によって限界突破したそのステータスは、確かに脅威だった。一撃ごとに村の地面が抉れ、衝撃波が周囲の木々を揺らす。まともに食らえば、いかに闘気で強化された身体でもひとたまりもないだろう。
――だが、俺は前世の社畜時代から『無駄な労力』を何よりも嫌う。
「力任せに振り回すだけか。……単調すぎてあくびが出るな」
俺はドアを斜めに傾け、ゼロスの全力の一撃を『受け流す』。
ズウンッ! と聖剣が虚しく地面を叩き割った瞬間、ガラ空きになったゼロスの顔面に、闘気を込めた右の拳をコンパクトに叩き込んだ。
「グベァッ!?」
ゼロスが鼻血を噴き出し、無様に地面を転がる。
彼は莫大な金(課金)をかけてステータスだけをレベル100にしているが、剣術の基礎や実戦経験はレベル1のままだ。自動車学校に通ったこともない素人が、いきなりフェラーリのアクセルを全開に踏み込んでいるようなものである。
俺から見れば、その太刀筋は素人の大振り以外の何物でもなかった。
「ケント殿……!」
「マンミアは下がって自警団の指揮を執れ。あいつの纏っている虹色のバリアは少し厄介だ。迂闊に近づくな」
肩で息をするマンミアを後退させ、俺は周囲の状況に目を配った。
ゼロスの傍らには、フワフワと浮遊する『神眼カメラ』が録画ランプを点灯させている。あれを通じて、神界のゴッドチューブに生配信が行われているのだ。
「……クソッ! 卑劣な魔族の手先め! 正々堂々と戦え!」
鼻血を拭いながら立ち上がったゼロスが、カメラを意識して『悲劇の勇者』の顔を作り、わざとらしく叫ぶ。
だが、そんな三文芝居が通用するほど、俺の仲間たちは甘くない。
「ケントさん、あの男の言葉、すべて嘘です!」
後方から、ダブルトンファーを構えたキャルルが鋭い声を上げた。
彼女の長い兎耳がピンと立ち、ゼロスの方へと向けられている。
「先ほどから、あの男の心音が激しく乱れています。自分が村に火を放とうとしたこと、自作自演であることへの罪悪感すらなく、ただ保身と見栄だけで言葉を紡いでいる……全盲の嘘です!」
「なっ……貴様、適当なことを言うな!」
「月兎族の聴覚を甘く見ないでください。あなたの汚い心臓の音なんて、丸聞こえなんですよ」
キャルルが冷酷な視線を突き刺すと、ゼロスは図星を突かれて顔を真っ赤にした。
さらに、村の集会所の屋根の上では、ニャングルが暗躍を開始していた。
「よしよし、ケントの旦那から預かったこの『防犯カメラ(魔導通信録画機)』と『超指向性マイク』……村の通信タワーに接続完了や」
ニャングルは、俺が先ほどこっそり【スーパーマーケット】から召喚して渡しておいた現代の電子機器を、手際よく魔法陣とケーブルで繋いでいた。
ゼロスが森の陰で傭兵たちに「村に火を放て。悲鳴を上げさせろ」と指示を出していた一部始終は、すでに俺のマイクでバッチリ録音されている。
ニャングルはゴッドチューブの通信回線に逆ハック(ミラーリング)を仕掛け、証拠映像と音声を全世界に暴露する準備を整えつつあった。
「さあて、後は旦那がド派手にあの金メッキを剥がすだけやで」
ニャングルがニヤリと笑う。
情報戦の準備は整った。あとは、カメラの前で奴を完全に無力化するだけだ。
『――おいゼロス! 何を手間取っている!』
ゼロスの脳内に、炎上神ワイズの怒号が響いたのだろう。ゼロスがビクッと肩を震わせる。
『相手はただの冒険者だぞ! さっさとその虹色のバリアで突っ込んで、跡形もなく消し炭にしてしまえ! 私のシナリオをこれ以上台無しにするな!』
「わ、分かってますよワイズ様!」
ゼロスはカメラに向かって再び悲壮な表情を作ると、オリハルコンの聖剣を天に掲げた。
「邪悪なる者よ! 僕の命に代えても、この村は守り抜く! くらえええええっ!!」
ゼロスが猛スピードで突進してくる。
確かに、奴の纏っている『神聖不可侵バリア』は厄介だ。普通の物理攻撃や魔法では、触れる前に弾かれてしまう。
なら、直接殴らなければいいだけの話だ。
「……大掃除の時間だな」
俺は冷凍庫のドアを地面に突き立てて盾にし、右手でインベントリから新たなアイテムを引き抜いた。
それは、太いホースの先に頑丈なノズルがついた、黄色と黒のボディの機械。
前世のホームセンターなどでよく見かける、『家庭用高圧洗浄機』である。
俺はノズルに氷魔法で生成した水を圧縮し、さらに闘気を極限まで練り込んだ。
「掃除用具に負ける勇者ってのも、エンタメとしては悪くないだろ」
トリガーを引く。
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
ノズルから射出されたのは、ただの水ではない。闘気と氷魔法で極限まで圧縮された、水圧カッターにも等しい超高圧の水流だ。
それが、突進してくるゼロスの『足元』――すなわち、地面の泥土に向かって直射された。
「な、なんだこの水は!? ぐわっ!?」
ゼロス自身には神聖バリアがあるため水流は弾かれるが、彼が踏みしめている足元の地面にはバリアはない。
超高圧の水流によって抉られた泥が弾け飛び、ゼロスの顔面と煌びやかな鎧をドロドロに汚していく。さらに足場を失った彼は、無様に足を滑らせて泥水の中に顔からダイブした。
「ぶべぇッ!? ぺっ、ぺっ! き、汚い! 僕の顔が! 特注の鎧が!」
「おっと、すまん。つい汚れが目立ったもんでな」
泥まみれになり、厚底ブーツも片方脱げてしまったゼロスの姿は、もはや悲劇の勇者とは程遠い、ただの滑稽な泥遊びをする男だった。
神眼カメラが、その無様な姿を克明に生配信している。
『草』
『勇者(笑)、泥まみれじゃん』
『この社畜、今度は高圧洗浄機出しやがったwww』
『もうこいつ一人でいいんじゃないかな』
天界のゴッドチューブのコメント欄は、ゼロスへの嘲笑と俺への賞賛で完全に埋め尽くされていた。
「ゆ、許さん……! よくも僕の顔に泥を塗ったな! 許さんぞぉぉぉぉぉッ!!」
プライドをズタズタにされたゼロスが、ついにブチギレた。
彼は神聖バリアを最大出力で展開し、オリハルコンの聖剣に、周囲の空間が歪むほどの莫大な魔力をチャージし始めた。
ワイズからのエネルギー供給を受け、聖剣が太陽のように眩い光を放つ。
「死ね! 村もろとも消し飛べェェェッ!!」
「ケントさん、危ないです! あの剣の魔力、尋常じゃありません!」
キャルルが叫ぶ。
確かに、あの一撃をまともに受ければ、この業務用冷凍庫のドアでも防ぎきれないかもしれない。何より、あのバリアがある限り、俺の魔法も届かない。
……普通にやれば、の話だが。
「……やれやれ。仕方ないな」
俺は高圧洗浄機と冷凍庫のドアをインベントリにしまい、ゆっくりと両手を下げた。
体内の魔力を、氷魔法の極致へと高めていく。周囲の気温が急激に下がり、俺の足元から白い霜が円状に広がっていった。
「なら、こっちも一番高いヤツでいくか」
俺が再びアクセスしたのは、日用品コーナーでも防犯コーナーでもない。
【スーパーマーケット】の奥底。すべてを叩き斬る、あの『特選コーナー』だ。
虚空に手を突っ込み、凍てつく冷気を放つ巨大な影の柄を握りしめる。
神の権威たるバリアごと、このふざけたペテン師を粉砕するための、物理と冷気の質量兵器。
――大間産マグロの抜刀準備は、完全に整っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「高圧洗浄機で勇者を泥まみれにする主人公w」「キャルルの心音探知とニャングルの情報戦、有能すぎる!」「いよいよ大トロ・フィニッシュの出番か!」
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次回、第10話「絶対零度と、大トロ・フィニッシュ!」。
第一章最大の物理カタルシス! 課金バフと神聖バリアを纏う勇者に対し、ケントが数百キロの冷凍マグロで神話級の粉砕劇を魅せます! お楽しみに!




