絶対零度《アブソリュート・ゼロ》と、大トロ・フィニッシュ!
絶対零度と、大トロ・フィニッシュ!
「死ね! 村もろとも消し飛べェェェッ!!」
泥まみれになった『勇者』ゼロス・ディバインが、顔を真っ赤にして絶叫する。
彼が天に掲げたオリハルコンの聖剣に、膨大な魔力が急速に収束していく。それはゼロス自身が鍛え上げた力ではなく、彼と契約する炎上神ワイズが、神界の権限を乱用して強制的に注ぎ込んでいる『無限課金バフ』の結晶だった。
夜のポポロ村を真昼のように照らし出す、虹色の『神聖不可侵バリア』と極大の破壊エネルギー。
まともに撃ち込まれれば、この村の防壁ごと広場が消滅しかねない。
――同じ頃、遥か上空の神界『セレスティア』。
「ちょっと! あれ完全にルール違反じゃない! 神格権限で下界の人間に直接バフ盛るなんて、やりすぎでしょ!」
ジャージ姿のルチアナが、エンジェルすまーとふぉんの画面に向かって叫んでいた。
『ワイズの奴、自分のシナリオが狂ったからって強引すぎるわね』
『通報ボタンどこだっけ?』
『てかマグロ剣士、あのバリアどうやって破るん? 物理も魔法も完全無効のチートだぞ』
ゴッドチューブのコメント欄も、神々の非難とケントへの心配の声で荒れに荒れていた。
ワイズのやり方は明確な『不正』だ。しかし、システム上でバフが成立してしまっている以上、下界の人間がそれを打ち破るのは本来不可能に近い。
――だが、俺のユニークスキルと氷魔法は、そんな神々の想定すらも軽く超越する。
「……本当に、無駄なエネルギーの使い方だな。会社の経費で中身のないパワポの資料を徹夜で作らされた社畜時代を思い出すぜ」
俺は深く、冷たい息を吐き出した。
体内で静かに、しかし爆発的に練り上げられていた『氷魔法』の極致が、俺の足元から外の世界へと溢れ出す。
「キャルル、マンミア。少し下がってろ。……風邪を引くぞ」
ピキッ……、パキパキパキッ!
俺の言葉と共に、広場の気温が一瞬にしてマイナス数十度へと急降下した。
空気中の水分が凍りつき、ダイヤモンドダストのような無数の氷晶が夜空を舞う。
「な、なんだこの寒さは……!? 足が、地面が凍りついていく!」
ゼロスが震える声で叫ぶ。
彼を覆う虹色のバリアは確かに強固だが、それは『外部からの攻撃』を防ぐものであり、『環境そのものの急激な変化』まで完全にシャットアウトできるわけではない。
「キャルルが言っていたな。お前のその薄っぺらいバリアのエネルギーは、上空から供給されていると。なら……その『パイプ』ごと凍らせて切断すればいいだけのことだ」
「なっ……!?」
俺は右手を天に向けてかざした。
「《アブソリュート・ゼロ(絶対零度)》」
ドンッ!! と。
世界から音が消え失せたような錯覚に陥るほどの、極低温の波が放射された。
俺の放った絶対零度の冷気は、ゼロスを包むバリアそのものではなく、バリアと神界を繋いでいた『魔力の供給ライン(空間)』を丸ごと強制凍結させたのだ。
パシィィィィィンッ!!
ガラスが砕け散るような澄んだ音と共に、ゼロスに供給されていた虹色のエネルギーがプツリと途絶える。
「ば、バカな!? 神の奇跡が、ワイズ様からの魔力が……遮断された!?」
ゼロスが青ざめ、必死に聖剣を振るおうとする。
供給が絶たれたとはいえ、彼の剣にはまだ一撃分の極大魔法と、周囲を守る強固なバリアが残っている。
「焦るなよ。お前のそのメッキ、今から俺が力ずくで剥がしてやる」
俺は右手を下ろし、虚空へと突っ込んだ。
アクセスするのは【スーパーマーケット】の奥底、『鮮魚・特選コーナー』。
引き抜いたのは、前回S級魔獣を両断したものよりさらに大きく、そして見事な霜降り模様が入った、巨大な影。
「行くぞ……『冷凍本マグロ・ソード』。今回は特別製、脂の乗り切った大トロ部位だ」
全長2.5メートル、重量400キロに迫る巨大な本マグロ。
極上の脂が乗った大トロ部位は、絶対零度で瞬間凍結されることで、純粋な氷や鋼鉄すら凌駕する異常な密度と質量を獲得する(という俺の闘気と魔力によるシュールな物理法則だ)。
「魚……!? ま、また魚だと!? ふざけるなァァッ! そんな生ゴミで、オリハルコンの聖剣に勝てるわけがないだろォォォッ!!」
プライドを限界まで傷つけられたゼロスが、残されたすべての魔力と課金ステータスを乗せ、聖剣を俺に向かって振り下ろしてきた。
空気が焼け焦げ、光の刃が俺の頭上に迫る。
だが、俺はマグロを構えたまま、一歩も引かない。
「お前さ、自動車学校にも通わないでフェラーリを運転して、どうするつもりだ?」
「は……?」
「レベル1のお前が、課金で手に入れたレベル100のステータスを操作できるわけがないだろうが。剣の軌道はブレブレ、魔力の制御もガタガタ。そんなものは『強さ』とは呼ばない」
俺は、落下の勢い任せに迫るゼロスの剣撃を冷徹に見据え、腰を深く落としてマグロを大上段に構え直した。
「おい、偽物。……その装備と課金のバフを全部剥いだら、一体お前には何が残るんだ?」
その言葉と共に、俺は大地を粉砕するほどの踏み込みで前傾し、数百キロの巨大な冷凍本マグロを、下から上へとカチ上げた。
「『大トロ・フィニッシュ』ッ!!」
ガガァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!
天を揺るがすような、凄まじい激突音。
光り輝くオリハルコンの聖剣と、カチカチに凍りついた冷凍本マグロ(大トロ)が正面から激突した。
「死ねえええええええっ!!」
「……」
ゼロスが目を血走らせて押し込もうとするが、結果は一瞬だった。
《アブソリュート・ゼロ》を纏い、俺の超一流の闘気と剣技によって完全にベクトルを制御されたマグロの『刃』は、課金頼りの大振りな一撃など易々と打ち破る。
ピキッ……。
メキメキメキメキッ!
「な……あっ……?」
ゼロスの瞳が絶望に染まる。
神の奇跡であるはずの虹色のバリアが、マグロの先端からひび割れ始め――次の瞬間、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
それと同時に、数億円の価値があると言われるオリハルコンの聖剣の刀身が、真っ二つにへし折られて宙を舞った。
「僕の……聖剣が……ば、ばか、な……」
防壁と武器を同時に失ったゼロスの無防備な胸郭に、マグロの腹の部分が容赦なく叩き込まれる。
ドゴォォォォォォォォンッ!!
「ぐべぇッッ!?」
内臓をひっくり返されるような衝撃を受け、ゼロスの体がボロ布のように宙を舞った。
村の広場を十メートル以上も吹き飛び、ズザザザザッと泥水を跳ね上げながら無様に転がっていく。
静寂。
圧倒的な、そしてシュールすぎる完全決着。
ポポロ村の広場に立っているのは、泥まみれになってピクピクと痙攣している勇者(笑)と、微塵の傷も付いていない巨大な冷凍本マグロを肩に担いだ、スウェット姿の元社畜だけだった。
「ふぅ……やはり大トロは重量感が違うな。いい運動になった」
俺はマグロをポンポンと叩き、インベントリに収納した。
「ケ、ケントさん……っ!」
「ケントの旦那ァァァッ!」
キャルルとニャングル、そしてマンミアが駆け寄ってくる。
キャルルの目は相変わらず潤み、俺への愛と尊敬で溢れかえっていたが、今はお預けだ。やるべきことがまだ残っている。
「……あ、あぁ……」
泥の海で、ゼロスがうわ言のように呟きながら、這いずって逃げようとしていた。
バフが完全に切れ、さらに戦闘の衝撃で顔にかけていた『魔法整形』が解け、履いていた厚底ブーツも完全に粉砕されている。
そこに這いつくばっているのは、背が低く、みすぼらしく、ただただ醜悪な素顔を晒した一人のチンピラに過ぎなかった。
「お前のメッキは、完全に剥がれたぞ」
俺はゼロスの前に立ち塞がり、見下ろした。
そして、傍らでフワフワと浮遊し、事の顛末をすべて生配信し続けている『神眼カメラ』を指差す。
「さあ、エンタメの続きといこうか。お前が一番欲しがっていた『数字』だ。とくと味わえよ」
神界のゴッドチューブは今、この瞬間。
『偽勇者の敗北とメッキ剥がれ』という最高のカタルシスにより、過去に類を見ないほどの大炎上と、俺へのスパチャの嵐でサーバーがダウン寸前になっていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「自動車学校に通わずフェラーリは名言!」「大トロフィニッシュの物理法則がシュールすぎるw」「ゼロスのメッキが剥がれてスカッとした!」
など、少しでもカタルシスを感じていただけましたら、
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次回、第11話「メッキが剥がれた勇者と、神界大炎上」。
言い訳を始めるゼロスに、ニャングルの算盤と「録音データ」がトドメを刺す! そして天界では、炎上神ワイズに恐怖の【特製高濃度青汁・一気飲みの刑】が下されます! お楽しみに!




