メッキが剥がれた勇者と、神界大炎上
メッキが剥がれた勇者と、神界大炎上
「ち、違う! これは誤解だ! 僕は何も知らない! 記憶にございませんッ!」
泥水に這いつくばり、完全にメッキが剥がれた元イケメン勇者・ゼロスは、空中に浮かぶ『神眼カメラ』に向かって必死に叫んでいた。
魔法整形が崩れ、小柄な素顔を晒した彼は、まるで汚職がバレた三流政治家のように見苦しい言い訳をまくしたてる。
「事、事実無根であります! 魔王軍が村を襲うという報告を受けただけで、自作自演なんて……そ、そうだ! 全ては事務所の、いや秘書のミスだ! 僕は一切報告を受けていなかった!」
「へぇ。異世界の勇者様は、随分と聞き馴染みのあるテンプレ言い訳をするんだな」
俺はスウェットのポケットから、黒い小さな機械を取り出した。
【スーパーマーケット】の家電コーナーから召喚した『高性能ICレコーダー』だ。ニャングルが村の通信タワーに仕掛けていた超指向性マイクの音声データが、すでにこの手元に同期されている。
俺は再生ボタンを押し、音量を最大にした。
『――いいかお前ら。ワイズ様からの指示通り、まずは村の外周にある畑や納屋に火を放て。村人たちがパニックになって逃げ惑い、絶望の悲鳴を上げたその時……僕が颯爽とカメラの前に登場する』
『村の人間はどうせただのモブだ。何人死のうが知ったことじゃない』
静まり返る広場に、ゼロスの下劣な地声が極めてクリアな音質で響き渡った。
「あ……あぁ……っ」
ゼロスの顔から、一気に血の気が引いていく。
「こ、これは魔族の罠だ! 僕の声を真似た偽造魔法に決まってるッ!」
「往生際が悪いですね」
キャルルが冷ややかな視線を突き刺し、一歩前に出た。彼女の長い兎耳が、ゼロスの胸元に向けられている。
「あなたの心音、先ほどから嘘をつくたびに嫌なリズムで跳ね上がっていますよ。それに、録音された声とあなたの声帯の魔力波長は完全に一致しています。これ以上の嘘は、月兎族の耳が許しません」
決定的な証拠と、ヒロインの冷酷な宣告。
神眼カメラを通じて配信されているゴッドチューブのコメント欄は、もはやお祭り騒ぎを超えて大炎上状態だった。
『ヤラセ確定www』
『勇者(笑)、完全に終わったな』
『マグロ剣士とウサギちゃん有能すぎ』
『この三流役者、とっととBANしろ』
「さあて、エンタメの時間は終わりや。ここからは『現実』の時間といこか」
絶望するゼロスの前に、金の煙管を咥えたニャングルが進み出た。
彼の手には、パチパチと弾かれた算盤と、羊皮紙の長い請求書が握られている。
「村の畑と納屋への放火未遂、自警団への武力行使、および村人への多大なる精神的苦痛。さらに、ケントの旦那に無駄な残業(マグロの素振り)をさせた迷惑料。……しめて、金貨10万枚や」
「じゅ、10万枚!? 払えるわけないだろ! 僕にはもうワイズ様からの支援も――」
「無い袖は振れん、か。ま、ええわ。お前みたいな『不良債権』を回収する専門の業者を、すでに呼んであるからな」
ニャングルが指を鳴らした瞬間。
上空から、眩い光と共に数人の屈強な男たちが舞い降りた。黒いスーツに身を包み、厳ついサングラスをかけた、天界の『債権回収部隊』である。
「な、なんだお前らは!? 離せ! 僕は勇者だぞッ!」
「不正受給および、神界法違反による強制執行だ。身ぐるみ剥がせ」
黒服たちはゼロスを取り押さえると、彼の身につけていた高級な鎧や装飾品をあっという間に剥ぎ取り、ボストンバッグほどの巨大なスーツケースに彼を無理やり押し込み始めた。
「ギャアァァァッ! 狭い! 暗い! やめろォォ!」
「行き先はシーラン海域、『マグローザ漁船』だ。船内通貨はお前の大嫌いな貧乏人のケツフキ紙(K)だぞ。借金を返し終わるまで、せいぜいマグロの餌にならないようにな」
「イヤだぁぁぁぁぁぁッ!! ワイズ様ぁぁぁ、助けてぇぇぇぇッ!!」
スーツケースのジッパーが容赦なく閉じられ、ゼロスの絶叫は夜空の彼方へと消えていった。
* * *
一方その頃。
神界『セレスティア』のオフィスでは、炎上神ワイズが自分の頭を掻きむしりながら発狂していた。
「クソッ、クソッ、クソォォォッ!! なんなんだあの男は! 私の完璧なシナリオが、何故こんな三流コメディに成り下がっているんだ!!」
彼の目の前のモニターは、低評価の嵐と嘲笑のコメントで埋め尽くされている。
さらに最悪なことに、ゼロスが連行されたことで、彼の『不正課金バフ』や『裏工作』の履歴が神界のネットワーク上に完全に露呈してしまっていた。
『警告。警告』
突如、オフィスの空間に無機質な機械音声が響き渡る。
女神ルチアナが組み込んだ法執行の超AI、聖獣機神ガオガオンのシステム・アナウンスだ。
『第3種惑星創造神格公務員、ワイズ。
第1法:生命尊厳に対する罪(私欲による自作自演の村焼き討ち教唆)。
および第3法:絶対無謬なる適正手続きへの干渉(不正な課金バフ付与)。
以上により、有罪が確定。直ちに懲戒執行プログラムへ移行シマス』
「なっ……!? ま、待て! これはただのエンタメ演出だ! リスナーも喜んで――」
ドゴォォォォンッ!!
ワイズが弁明する間もなく、オフィスの頑丈な扉が蹴り破られた。
そこに立っていたのは、美しい銀髪をなびかせ、聖槍を片手に持った天使族の長、ヴァルキュリアだった。
彼女は完璧な笑みを浮かべていたが、その目は1ミリも笑っていなかった。
「ワイズ。あなた、ルチアナ様の大切な予算を、あんな下品なヤラセ番組に溶かしたそうですね?」
「ひっ……!? ヴァ、ヴァルキュリア殿! 違う、これは投資で……っ!」
「問答無用です。少し、頭を冷やしていただきましょう」
ヴァルキュリアはワイズの胸ぐらを軽々と掴み上げ、天界の広場へと彼を引きずり出した。
そこには、彼女が手塩にかけて育てた陽薬草を超高圧で生搾りした、深緑色の泥のような液体――『特製高濃度青汁』が、特大のジョッキになみなみと注がれて用意されていた。
「さあ、正座しなさい」
「い、嫌だ! それは天使族の前線兵士ですら泣いて逃げ出すという劇物――」
「健康に良いのですよ? 一滴残さず飲み干すまで、ここから一歩も動かさないと誓いましょう」
数分後。
天界の広場には、「にッがぁぁぁぁぁぁいぃぃぃッ!?」というワイズの断末魔と、それを肴に缶ビールをあおるルチアナの豪快な笑い声が響き渡った。
神界における『炎上プロデューサー』の、完全なる社会的抹殺の瞬間であった。
* * *
地上。ポポロ村。
厄介な勇者と神の暗躍が完全に片付き、村には再び平和な夜が戻っていた。
「ふぅ……これでようやく、まともに飯が食えるな」
俺が伸びをすると、村の広場に集まっていた自警団の農民たちや駐屯兵たちから、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
「ケントさん、最高です!」
「さすがポポロ村の守り神! あのマグロ、一生ついていきます!」
「今夜は俺たちの奢りだ! 宴会だァァァッ!」
熱狂する村人たちの中で、自警団長のマンミアが、頬をほんのりと赤く染めながら俺に近づいてきた。
「ケント殿……。その……先ほどは、私を庇っていただき、本当にありがとうございました。あなたの背中は、とても……大きく、頼もしかったです」
「気にするな。あんたが最前線で時間を稼いでくれたおかげだ」
「っ……! そ、そんな、私などまだまだ未熟者で……っ(ぽっ♡)」
もじもじと身をよじるケンタウロスの乙女。
その後ろで、キャルルが『ギギギギギ……ッ』と、トンファーを握りしめながら修羅のオーラを放っていることには、あえて気付かないふりをしておこう。
俺の【スーパーマーケット】と大間産マグロがもたらした、ポポロ村の防衛戦は大勝利に終わった。
しかし、俺たちのスローライフは、まだまだ平穏には程遠いらしい。
翌朝。
村の入り口に、ルナミス帝国の紋章――俺を追放した『バレンタイン伯爵家』の家紋を掲げた、一台の豪奢な馬車が砂煙を上げて到着したのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「ゼロスのドナドナとワイズの青汁刑、スカッとした!」「ニャングルの請求書が一番怖いw」「実家が今更何の用だ……?」
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次回、第12話「実家の崩壊と『今さら戻れと言われても』」。
破産寸前になった伯爵家がケントに泣きついてきますが、元社畜は容赦なく冷徹に切り捨てます! そしてキャルルの正妻ムーブが炸裂! お楽しみに!




