守銭奴商人と進める兵站掌握! 三大国へのカップ麺外交
守銭奴商人と進める兵站掌握! 三大国へのカップ麺外交
アナステシア世界において、戦争の勝敗を分けるのは魔法の威力でも、兵士の数でもない。
『兵站』――すなわち、物資と食料の補給である。
ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国、そして天使族が座するセレスティア。
各国の国境が複雑に入り組む緩衝地帯に、ルナミス帝国軍の最前線塹壕は存在していた。
冷たい風が吹き抜ける塹壕の中で、若い兵士たちは絶望の表情を浮かべていた。
「おい、今日の配給……また『アレ』かよ……」
「嘘だろ……昨日の夜もアレだったぞ。俺、もう胃壁が限界なんだけど……」
彼らの視線の先にあるのは、茶色い真空パックから取り出された黄色い塊。
ルナミス帝国軍が誇る悪魔の兵器、『軍用戦闘糧食3型』――通称『ゲロオムレツ』である。スライムの凝固剤と骨粉を混ぜて作られたそれは、タイヤのような弾力と、腐った靴下のような臭いを放っていた。
「隊長……もう俺、戦う前に栄養失調で死にそうです。敵の獣人たちからは美味そうな肉の焼ける匂いが漂ってくるのに……」
「耐えろ! 我らルナミス帝国の誇りを忘れるな!」
隊長が泣きながらゲロオムレツをかじろうとした、その時だった。
「まいど! 厳しい前線の皆様に、朗報をお持ちしましたで!」
軽快な声と共に塹壕に姿を現したのは、金の煙管を咥えた猫耳の商人――ニャングルだった。
彼は大きな魔導カートを引きながら、胡散臭い、しかしどこか頼もしい笑顔を浮かべている。
「ゴルド商会の商人か? 悪いが、俺たちにはお前から買うような嗜好品の余裕は……」
隊長が断ろうとした瞬間、ニャングルはカートに掛けられていた布をバサリと取り払った。
そこには、見たこともない筒状の容器が山のように積まれていた。
「今日お持ちしたのは、ポポロ村発の最新型・超高効率戦闘糧食! その名も『カップ麺』や!」
「カップ……めん?」
訝しむ兵士たちを前に、ニャングルは手際よくカセットコンロ(ケントが召喚したもの)で湯を沸かし始めた。
カップの蓋を半分まで開け、中に入っていた粉末スープの素を開ける。
すでにその時点で、醤油と魚介出汁の濃厚な香りが塹壕に漂い始めていた。
「な、なんだこの良い匂いは……!?」
「ゲロオムレツの悪臭が、一瞬でかき消されたぞ……!」
「まだまだ、驚くのは早いで。ここにお湯を注いで……フタをして、ピッタリ『三分』待つだけや。火も使わん、鍋もいらん。究極の野戦メシやで」
三分後。
ニャングルがフタを開け、割り箸で麺を持ち上げた瞬間、熱々の湯気と共に、ジャンクでありながら極上の醤油スープの香りが爆発した。
「さあさあ、まずは隊長さん。騙されたと思って一口すすってみてや」
「ご、ごくり……」
隊長は震える手で容器を受け取り、ズルズルッ! と麺を勢いよくすすった。
「――っ!!??」
瞬間、隊長の目から滝のような涙が溢れ出した。
細くちぢれた麺がスープをたっぷりと絡め取り、喉の奥へと滑り込んでいく。鶏ガラと醤油ベースのスープは、疲労困憊の兵士の体に塩分と旨味を細胞レベルで叩き込んだ。
「う……うぉぉぉぉぉぉんッ!! なんだこの美味さはァァッ! 麺が! スープが! 胃の底から闘気が湧き上がってくるッ!!」
「た、隊長!? 俺たちにも、俺たちにも一口……ッ!」
兵士たちが群がり、残ったスープを回し飲みする。
ゲロオムレツという地獄を味わい続けてきた彼らにとって、現代日本の化学調味料がふんだんに使われたカップ麺は、まさに『神の奇跡』に等しい破壊力を持っていた。
「あ、兄ちゃん! これ、いくらだ!? いくら払えば買える!?」
「おっと、慌てなさんな。これ一つで……せやな、銀貨一枚(約1000円)でどや? お湯付きの大サービスやで!」
前世のスーパーで買えば100円もしない特売品のカップ麺。それが、戦場という極限状態においては、10倍の闇レートでも飛ぶように売れていく。
「安い! 銀貨一枚でこんな美味いものが食えるならタダみたいなもんだ! 一箱くれ!」
「俺にも! 俺の給料の半分を前借りしてでも買う!」
ニャングルの算盤が、火を噴くような勢いでパチパチと弾き出される。
さらにニャングルの快進撃はルナミス軍だけにとどまらなかった。
彼は極苦の『特製高濃度青汁』を飲まされて泣いている天使族の陣地にも潜入し、豚骨味のカップ麺とポポロシガーを売り捌いた。
獣人王国の兵士たちには、スパイシーなカレー味のカップ麺を。
魔皇国の兵士たちには、ポポロシガーの極上の煙を。
「フフフ……美味いメシとタバコは、どんなイデオロギーよりも強い。これで三大国の胃袋は、完全にワイらポポロ村のモンやで」
ニャングルは山のように金貨が入った袋を担ぎ、ホクホク顔でポポロ村へと帰還した。
* * *
その日の夕方。
ポポロ村の集会所には、テーブルの上に山積みになった金貨と銀貨が眩い光を放っていた。
「お疲れ、ニャングル。大成功だったようだな」
「おうとも! 各国の前線指揮官たちが、涙を流してワイの手にすがりついてきたで。これでポポロ村への不可侵条約は絶対のものになったわ!」
俺が淹れたコーヒーを飲みながら、ニャングルが自慢げに胸を張る。
兵站を完全に握られた軍隊は、ポポロ村を攻撃すれば二度とカップ麺が食えなくなる。それはすなわち、前線の兵士たちの士気崩壊(あるいは反乱)を意味する。
俺の【スーパーマーケット】から生み出された原価数十円の物資が、最強の抑止力となったのだ。
「ケントさん、凄いです! これだけの資金があれば、村の防衛設備を維持するだけでなく、民の生活ももっと豊かにできます!」
村長のキャルルが、嬉しさのあまり俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。
ふんわりとした甘い香りと共に、彼女の胸の鼓動がダイレクトに伝わってきた。満月ではないので暴走はしていないが、俺への依存度は日を追うごとに強くなっている気がする。
「ああ、助かりました、ケント殿! この資金で、地下帝国ドンガンから新型の魔導バズーカ弾薬を追加発注できます!」
自警団長のマンミア(ケンタウロス種)も、顔をほころばせている。
平和な農村にバズーカは必要ないのでは、という前世の常識は、この村ではすでに捨てている。備えあれば憂いなしだ。
「よし。これで当面の資金と安全は確保できたな。今夜は豪華に、すき焼きでも――」
俺が労いの宴会を提案しようとした、その時だった。
「……ん? 今、何か……」
キャルルがピクリと兎の耳を動かし、俺の腕から離れて窓の外を鋭く睨みつけた。
彼女の並外れた聴覚と、マンミアの戦士としての勘が、同時に『異常』を察知したのだ。
俺も窓の外へ目を向ける。
ポポロ村は、強力な魔導センサーと地雷原によって外敵の侵入を感知するシステムになっている。だが、村の外縁部――センサーの感知範囲のギリギリ外側にあたる深い森の奥で、不自然な複数の松明の炎が揺らめいているのが見えた。
――同じ頃、深い森の陰。
「ここが、あの目障りなマグロ剣士の拠点か……」
厚底ブーツを履き、ギラギラと光るオリハルコンの聖剣を手にした男――課金勇者ゼロスが、下劣な笑みを浮かべていた。
彼の背後には、ワイズが裏ルートで手配した、魔王軍の鎧を偽装して着込んだゴロツキや傭兵たちが数十人、殺気を放って控えている。
「ワイズ様の指示通りだ。まずは村の外周の畑や納屋に火を放ち、悲鳴を上げさせろ」
ゼロスの傍らには、ゴッドチューブの配信と連動した『神眼カメラ』がフワフワと浮遊していた。
カメラのレンズが赤く光り、生配信が開始される。
「さあ、始めようか。魔王軍の残党に襲われる哀れな村を、僕が颯爽と駆けつけて救う……ただし、あのマグロ剣士の手足が焼き切れた後でな。最高の『悲劇のステージ』の開幕だ!」
偽りの英雄が、炎上神のシナリオに沿って悪意の炎を振りかざす。
だが、彼らは致命的な勘違いをしていた。
彼らが襲撃しようとしているこのポポロ村が。
三大国の正規軍ですら攻め入ることを躊躇う、世界一『過剰防衛』な狂気の要塞農村であるという事実に。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「カップ麺で号泣する兵士たち最高!」「ついに三大国の胃袋を支配したか…」「ゼロス、攻め込む場所を完全に間違えてるぞw」
など、少しでも楽しんでいただけましたら、
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【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、ケントのすき焼きの具材が超高級ランクになり、作者の執筆スピードも限界突破します!
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次回、第8話「自作自演の悲劇? 世界一過剰防衛な農村を舐めるな」。
悲劇の勇者を演じようとしたゼロスと偽装兵士たちを、ポポロ村の自動防衛システムとケンタウロスの超重突撃が一方的に蹂躙する圧倒的『防衛ざまぁ』が炸裂します! お楽しみに!




