神々の実況配信(ゴッドチューブ)と、炎上神の苛立ち
神々の実況配信と、炎上神の苛立ち
アナステシア世界を遥か上空から見下ろす天界、『セレスティア』。
その一角にある散らかった自室で、世界神(第3種惑星創造神格公務員)である女神ルチアナは、ピンク色の芋ジャージに健康サンダルという、神の威厳ゼロの姿で万年床のコタツに潜り込んでいた。
「アハハハハハッ!! なにこれ最高!! 冷凍マグロでS級魔獣を一刀両断って、どんなギャグよ!!」
片手に缶ビール、もう片手にエンジェルすまーとふぉんを握りしめ、彼女は腹を抱えて爆笑していた。
スマホの画面に映し出されているのは、神々が運営する動画配信プラットフォーム『ゴッドチューブ』。神々はこのサイトを通じて下界の人間たちのドラマや戦闘を観賞し、そのPV(再生数)や評価率によって、その星の来年度の国家予算や神のボーナスが決定する仕組みになっている。
現在、ゴッドチューブの『急上昇ランキング1位』を独走しているのが、昨晩ポポロ村で撮影されたケントの【大間産冷凍本マグロ抜刀シーン】だった。
『大間産だからな(真顔)』
『草』
『この社畜っぽい男おもろすぎw』
『剣士(物理)』
『S級蜘蛛が一撃とか、戦闘力バグってね?』
神々からのコメントが滝のように流れる中、ルチアナは「やばい、推せるわこの男!」と、限度額ギリギリのクレジットカードから惜しげもなく高額スパチャ(投げ銭)を連打していた。
「あーあ、最近はテンプレみたいな勇者の無双ばっかで飽き飽きしてたのよね。やっぱりエンタメはこうじゃなきゃ! ねぇリリス、あんたもそう思うでしょ?」
「ル、ルチアナ様……またそんなに課金して……ヴァルキュリア様に怒られますよぉ……」
隣でみたらし団子を頬張る見習い女神リリスの忠告も、今のルチアナには届いていない。
一方、ケントの動画が大バズりしている裏で、割を食って大爆死しているチャンネルがあった。
『――皆の笑顔を守るためなら、僕はこの命を捧げよう! くらえ、ホーリー・スラッシュッ!!』
画面の中で、爽やかな笑顔を振りまきながら黄金の剣を振るうイケメン。
彼の名はゼロス・ディバイン。現在、天界の一部で猛プッシュされている『名誉勇者』である。
彼がオリハルコンの聖剣を振り下ろすと、無駄に派手な光の粒子が舞い散り、Cランク程度のゴブリンが数匹、大袈裟に吹き飛んで消滅した。
『ふぅ……みんな、怪我はないかい? 僕は大丈夫さ。君たちの笑顔が見られただけで、戦った甲斐があるというものだよ(キラッ☆)』
カメラに向かってウインクを決めるゼロス。
完璧な英雄の姿。だが、ゴッドチューブのコメント欄の反応は冷ややかだった。
『テンポ悪っ』
『エフェクト盛りすぎで何やってるか見えん』
『ゴブリン相手に聖剣抜くなよ』
『つーかマグロ出せよ』
『マグロ剣士のチャンネル行ってくるわノシ』
パラパラと流れる冷ややかなコメントと共に、同接視聴者数がみるみるうちに減少していく。
――そして、配信終了の合図である『神眼カメラ』の赤いランプが消えた瞬間。
「……チッ」
ゼロスの顔から爽やかな笑顔が消え失せ、チンピラのような苛立ちに満ちた素顔が露わになった。
「おい、カメラ切れたろ? はよ口臭スプレーよこせ。貧乏人の臭いが移る」
取り巻きにスプレーを吹かせながら、ゼロスは舌打ちをする。
さらに彼は、足元を覆っていた『厚底ブーツ』を脱ぎ捨てた。途端に、彼の長身は見事に縮み、小柄な本来の背丈に戻る。
爽やかな顔も緻密な魔法整形、高身長も厚底、そして先ほどの圧倒的な戦闘力すらも、自身のユニークスキル【マネー(課金)】によって一時的にステータスを買っていただけの、中身ゼロのペテン師。それが勇者ゼロスの正体だった。
「クソッ、なんで俺の同接がこんなに減ってんだよ! いつもなら俺の作り笑いでアホな女神共がこぞってスパチャ投げてくるはずだろ!」
『――数字が落ちているぞ、ゼロス』
突如、ゼロスの脳内に冷徹な声が響いた。
彼と契約している黒幕――新入りの神格公務員にして、炎上プロデューサーの異名を持つ『炎上神ワイズ』からの念話だ。
天界の洗練されたオフィスで、ワイズはマイタンブラーのカプチーノを啜りながら、ノートPCのキーボードを苛立たしげに叩いていた。
『君にどれだけの先行投資(課金バフ)をしていると思っている? このままPVが稼げなければ、来期の予算が下りない。私の昇進にも響く』
「お、俺のせいじゃありませんよワイズ様! どこの馬の骨とも知らねえ冒険者が、マグロを振り回すふざけた動画で視聴者を掻っ攫っていったんです!」
ワイズは自身のモニターに映る『大間産マグロの一刀両断動画』を睨みつけ、ギリッと奥歯を鳴らした。
『……ケント・バレンタイン。まさか私が裏で仕込んだS級魔獣を、あんなギャグみたいな方法で処理してバズるとはな。私の完璧な炎上シナリオを台無しにしやがって』
ワイズの価値観において、下界の人間はただの『コンテンツ素材』に過ぎない。
何人死のうが、悲劇が起きようが、PV(数字)が取れればそれが正義なのだ。ガオガオンのような法執行AIの目を盗み、直接手を下さずに下界をコントロールするのが彼のやり方だった。
『数字を取り戻すには、より刺激的な絵面が必要だ。……ゼロス、予定を変更するぞ。悲劇のシナリオだ』
「悲劇……ですか?」
『ああ。魔王軍の残党に襲われ、火の海に包まれる村。君はそこに駆けつけるが、一足遅く村は壊滅。怒りと悲しみに燃える君が、カメラの前で涙を流しながら魔物たちを成敗し、復讐を誓う……。どうだ、最高の感動ポルノだろう? スパチャが飛び交うこと間違いなしだ』
「なるほど! さすがはワイズ様! で、どこを燃やすんです?」
ワイズはノートPCの画面を操作し、ターゲットの座標を決定した。
『ポポロ村だ。あそこは三大国の緩衝地帯。どこにも属していないエアポケットだ。燃やして消滅しても、どの国も表立って文句は言えん。しかも、例のマグロ剣士もそこにいる』
「あの目障りな奴の拠点ですか! いいですねぇ、俺が正義の鉄槌を下してやりますよ!」
ゼロスが下劣な笑みを浮かべる。
ワイズはタンブラーをデスクに置き、冷酷に告げた。
『魔物と偽装兵士の手配はこちらでやる。君はただ、悲劇の勇者を演じろ。……ケント・バレンタイン。私の配信枠を荒らした罪、その命と村の崩壊で償ってもらうぞ』
* * *
一方その頃、ポポロ村。
俺たちをターゲットにした極悪非道な炎上シナリオが神界で練られていることなど露知らず、俺は清々しい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んでいた。
「ふぅ……美味いな」
村の特産品である上質な『ポポロ・コーヒー』の香りが、マグカップから立ち上る。
縁側に座り、淹れたてのコーヒーを啜っていると、隣で同じように煙管を吹かしていたニャングルが、分厚い帳簿をバタンと閉じてニヤリと笑った。
「ケントの旦那。昨晩のマグロの解体ショーも凄かったが、今日はもっと凄いで。いよいよ『アレ』の出番やな」
「ああ。ポポロ村の防衛資金と、俺たちのスローライフを盤石にするための第一歩だ」
俺は【スーパーマーケット】のインベントリを展開し、ゴトッ、と一つの商品を縁側に置いた。
それは、前世の現代日本ではどこにでも売っている、ありふれた食品。
――お湯を注ぐだけで完成する『カップ麺(醤油味)』である。
「三大国の国境警備隊……マズい飯に泣く哀れな兵士たちの胃袋を、こいつで完全に支配してやる」
ポポロ村を不当な侵略から守るため。
俺とニャングルの、えげつない『兵站外交(商売)』が、今まさに幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ルチアナ、ジャージでスパチャ投げてるの草」「ゼロスのクズっぷりが清々しいw」「ワイズの炎上シナリオ、絶ッ対にマグロで叩き潰してほしい!」
など、少しでもワクワクしていただけましたら、
ページ下部にある
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、ケントのカップ麺の在庫と作者の執筆スピードが無限に補充されます!
また、【ブックマーク】へのご登録も何卒よろしくお願いいたします!
皆様の応援が、本作をランキング上位へと押し上げる最大の力になります。
次回、第7話「守銭奴商人と進める兵站掌握! 三大国へのカップ麺外交」。
激マズ軍用食に苦しむ異世界の兵士たちに、お湯を注ぐだけの『カップ麺』が革命を起こす! 圧倒的な胃袋掌握内政がスタートします。お楽しみに!




