満月の夜の月兎族! 姫騎士キャルルの過激な『熱いヤキ』
満月の夜の月兎族! 姫騎士キャルルの過激な『熱いヤキ』
「アハッ……アハハハハハッ!!」
雲が晴れ、夜空にまん丸の満月が姿を現した瞬間、ポポロ村の広場は完全なる狂気に包まれた。
先ほどまで「ケントさん、すごいです♡」と乙女の顔をしていた村長・キャルルの姿はそこにはない。
大きく見開かれた瞳孔。口角は耳まで裂けんばかりに吊り上がり、全身からは致死量とも言える黄金色の『闘気』と、淡く光る『回復魔法』のオーラが爆発的に立ち上っていた。
「あ、あかん……! ケントの旦那、はよ逃げや!」
ニャングルが算盤を放り出し、耳をぺたんと伏せて全力で後ずさる。
「月兎族はな、満月の夜に感情が高ぶると、身体能力が限界突破して『ハイ状態』になるんや! しかも、この村長は回復魔法の天才……! いっぺんスイッチが入ると、誰彼構わず殴り倒しては全快させる『善意の暴走機関車』になりよるで!!」
「なるほど、それは少々厄介だな」
俺が冷静に状況を分析している間にも、キャルルの兎耳がピクピクと高速で震える。
「ああっ、力が……力が溢れてきますぅ! ケントさぁぁぁん! どこか怪我してないですか!? 私が治します! 完璧に治しますからねッ!」
「いや、俺は無傷だ。魚を振っただけだからな」
「遠慮しないでください! 心の傷も、筋肉痛も、私が全部癒やしてあげますからァァァッ!!」
ダァァァァァァァァァンッ!!
キャルルが大地を蹴った。
いや、蹴ったという生易しいものではない。彼女の特注安全靴が地面をクレーターのように陥没させ、その反動でマッハ1を超える速度――巡航ミサイルに匹敵するスピードで空間を跳躍したのだ。
だが、彼女のターゲットは俺ではなかった。
「ヒャッハー! でっけえ音がしたと思ったら、村の防壁が空いてるじゃねえか!」
「へへっ、噂のポポロ村だな! 備蓄の食料も、金目のものも、全部根こそぎ頂いて――」
運の悪いことに、先ほどのアーマード・デススパイダーの襲撃で開いた防壁の穴から、周辺を荒らしていた魔族や野盗のゴロツキ共が十数人、武器を掲げて雪崩れ込んできたのだ。
「――私の、ケントさんとの平穏な夜を邪魔する悪い子は、お仕置きですッ!!」
ゴロツキたちの目の前に、音速を超えてキャルルが着弾した。
衝撃波だけで数人の野盗が吹き飛ぶ。
「な、なんだこのウサギ女!?」
「やっちまえ!」
野盗たちが一斉に剣を振り下ろすが、満月バフのかかったキャルルには止まって見えているのだろう。彼女は嬉々としてダブルトンファーを構えた。
「月影流・顎砕きッ!」
「グベァッ!?」
闘気を纏った強烈な膝蹴りが、先頭の野盗の顎を粉砕し、脳震盪を起こして白目を剥かせる。
だが、キャルルの真骨頂はここからだった。
「はい、全回復ッ!!」
「……ッハァ!?」
ピカァァァァァァァンッ!!
砕け散ったはずの野盗の顎が、圧倒的な回復魔法の光に包まれ、次の瞬間には痛覚すら残さず完全に元通りに治癒してしまったのだ。
「あれ? 痛くない……? つか、俺の顎……」
「まだ痛いですか? そうですよね、心が痛いんですよね!? 私の『お薬』がもっと必要ですねッ!!」
「えっ、ちょ、まっ――」
「乱れ鐘打ちィィィッ!!」
ドゴッ! バキッ! メシャァッ!
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁッ!?」
「全・回・復ッ♡!!」
「ひぃぃぃぃっ!? な、治った!? でもまた来るぅぅぅぅッ!?」
殴る。骨を折る。即座に回復させる。
そしてまた殴る。
それはまさに、地獄と天国を交互に味わわせる無限ループ。キャルル本人は「怪我人を治療している」という歪んだ善意と高揚感に満ちているため、タチが悪いことこの上ない。
たった数十秒で、十数人の屈強な野盗たちが、涙と鼻水とよだれに塗れ、土下座しながら「姉御ォォ! 許してくだせぇぇ!」「もう治療は十分ですゥゥ!」と泣き叫ぶ地獄絵図が完成した。
「皆さん、元気になって良かったです! さぁ、次は駐屯地の兵士さんたちですね! 疲労回復の特効薬(物理)をお届けに――」
血走った目でルナミス軍の野営地へ向かおうとするキャルル。
このままでは、村の駐屯部隊が彼女の『熱いヤキ』によって精神を破壊されてしまう。
「アカン……ケントの旦那、止めな村が壊滅するで!」
「分かってる」
俺はため息をついた。
前世の社畜時代、徹夜とエナジードリンクの過剰摂取でテンションが振り切れ、周囲に無差別にリポビタンDを配りながら暴走する上司を何度も見てきた。ああいうハイ状態の奴を力で押さえつけようとしても無駄だ。
必要なのは、急激な血糖値の補充と、圧倒的な『甘やかし』である。
俺は【スーパーマーケット】から、自立型ケースに入った『最高級イチゴパフェ(練乳たっぷり)』と、魔法瓶に入れた『ホットミルク』を召喚した。
「キャルル」
俺は氷魔法の余波を使い、キャルルが踏み出そうとした足元の地面だけを、ピンポイントで極薄の氷に変えた。
「――えっ?」
ツルッ。
マッハの初速を出そうとしたキャルルの安全靴が、氷に足をとられて見事にスリップする。
バランスを崩して前に倒れ込んでくる彼女の小さな体を、俺は正面からしっかりと抱き留めた。
「ケ、ケントさん……っ?」
俺は暴れる彼女をきつく抱きしめ、ポンポンと優しく頭を撫でた。
「よくやった、キャルル。お前のおかげで、村は野盗から守られた。ありがとうな」
「あ……あ……」
俺の落ち着いた低い声と、体温。
そして、俺が口元に差し出したスプーン一杯の『イチゴパフェ』。
「たくさん動いて疲れただろ。甘いものでも食べて、少し休め」
俺は、たっぷりの生クリームとイチゴが乗ったパフェを、キャルルの口元に運んだ。
キャルルは無意識に、パクリとその一口を口に含む。
「…………っ♡♡♡!!」
瞬間、キャルルの瞳孔の開きが元に戻り、兎耳がぴこんと愛らしく跳ねた。
イチゴの鮮烈な酸味、生クリームの絶妙な甘さ、そして冷たいバニラアイスが、彼女のハイになっていた脳を急激にクールダウンさせ、血糖値を満たしていく。
暴走状態がスッと引き、満月の狂戦士モードが、ただの『恋する乙女モード』に強制変換された。
「あ、甘くて……冷たくて……おいひい……♡」
キャルルは俺の胸に顔を埋め、とろけたような表情で頬を染める。
「ケントさん……もっと、もっとあーんして……♡ 私、ケントさんに甘やかされたいですぅ……♡」
完全に鎮圧完了だ。
俺は苦笑しながら、大人しくなったヤンデレ姫騎士に、次々とパフェを口に運んでやった。
「なんやそのチョロさは……!!」
背後で、ニャングルが腰を抜かしたままツッコミを入れていた。
翌朝。
昨晩ボコボコにされて全回復した野盗たちは、「姉御の熱いご指導に感激しました! ぜひポポロ村の防衛に協力させてくだせぇ!」と、何故か大量の貢物と忠誠を置いて逃げるように去っていった。
そしてキャルルはといえば、「私がケントさんの護衛をします♡」と言って、朝から俺の腕にべったりと張り付いて離れない。
どうやら、俺への依存度がさらに上がってしまったらしい。
だが、この時の俺たちはまだ気付いていなかった。
この『大間産マグロの一刀両断』と『満月の夜の大立ち回り』が、思わぬ場所で波紋を呼んでいたことに。
――場面は変わり、遥か上空。神々が座する『神界』。
全世界の予算を左右する神々の配信サイト『ゴッドチューブ』のモニタールームにて。
「ふざけるなァァァァァァッ!!」
新入りの炎上神ワイズが、マイタンブラーを投げ捨て、ノートPCのキーボードを激しく台パンしていた。
彼のモニターに映し出されているのは、自身が裏でプロデュースする『課金勇者ゼロス』の配信画面……ではなく、別のチャンネルのランキング急上昇動画。
そこには、俺が冷凍本マグロでS級魔獣を粉砕する様子が、バッチリと映し出されていた。
『何このマグロ超面白いwww』
『魚でS級一刀両断とか草』
『この社畜っぽい男、最高じゃん! スパチャ投げとこ!』
コメント欄には、ジャージ姿のポンコツ女神ルチアナや、他の神々からの大量のスパチャと絶賛のコメントが滝のように流れている。
一方で、ワイズが仕組んだ『勇者ゼロスの悲劇の英雄劇』は、完全にお通夜状態となっていた。
「俺の綿密な炎上シナリオを、ただのスーパーの魚で台無しにしやがって……! ケント・バレンタイン……貴様、絶対に許さんぞ……!!」
ワイズの冷酷な瞳に、明確な殺意が宿る。
かくして、俺の気ままなスローライフは、神界の炎上プロデューサーとポンコツ勇者の最悪の『ヤラセ標的』に認定されてしまったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「キャルルの回復魔法の使い方がエグすぎるw」「天国と地獄の無限ループ可哀想(笑)」「イチゴパフェで瞬時にデレる姫騎士可愛い!」
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次回、第6話「神々の実況配信と、炎上神の苛立ち」。
遂に神界の面々が登場。ケントのマグロ無双が神々の間で大バズりし、課金勇者ゼロスとワイズのクズな暗躍が始まります! お楽しみに!




