行くぞ、冷凍本マグロ・ソード! 大間産質量兵器の圧倒的威力
行くぞ、冷凍本マグロ・ソード! 大間産質量兵器の圧倒的威力
「……シャアァァァァァァッ!!」
威嚇するように前脚を振り上げ、S級魔獣『アーマード・デススパイダー』が鼓膜を劈くような咆哮を上げた。
ポポロ村の防壁を容易く打ち破ったその巨躯は、軽く5メートルを超えている。全身を覆う外殻は鋼鉄を凌駕する硬度を持ち、先ほどキャルルが全力で見舞ったトンファーの打撃すら、傷一つつけずに弾き返してしまった。
しかし、そんな絶望的な怪物よりも、今この場において最も異様な存在感を放っているのは、間違いなく俺の手に握られているモノだった。
「……ケントの旦那? 自分、何持っとるんや?」
避難誘導をしようとしていたニャングルが、顔を引きつらせて尋ねてくる。
「何って、見れば分かるだろ。マグロだ」
「見れば分かるから聞いとるんや!! なんでこの緊急事態に『魚』なんか出しとるんやドアホッ! 晩飯のオカズにはデカすぎるやろがい!」
ニャングルの魂からのツッコミが夜空に響く。
無理もない。俺が【スーパーマーケット】の『鮮魚・特選コーナー』から召喚したそれは、全長2メートル、重量にして300キロは下らないであろう、巨大な『冷凍本マグロ』だったからだ。
表面には薄っすらと霜が降り、極低温の冷気を白く漂わせている。丸太のように太く、砲弾のように流線型を描くその魚体は、武器として見ればあまりにもシュールだった。
「下がってろ。こいつの血で、せっかくの食後のティータイムが台無しになる」
俺は数百キロのマグロの尾の付け根を片手で軽々と握り込み、大上段に構えた。
社畜時代、理不尽なノルマと徹夜作業に耐え抜いた俺の精神力は、異世界転生によって莫大な『魔力』と『闘気』へと変換されている。
俺はマグロを持った腕に、限界まで高めた闘気を流し込んだ。
『ギチチチチッ!』
アーマード・デススパイダーが、獲物を細切れにするための鋭利な前脚の鎌を振り下ろしてくる。
空気を裂く凄まじい一撃。まともに食らえば、人体など豆腐のように両断されるだろう。
――だが、遅い。
「ふっ!」
俺は最小限の足捌きで鎌の軌道を避け、同時に大上段に構えた冷凍マグロを、魔獣の鋼鉄の脚に向かって横凪ぎに一閃した。
ガアァァァァァァンッ!!
巨大な釣鐘を乱打したような、凄まじい金属音が響き渡る。
冷凍マグロと鋼鉄の脚が激突した瞬間、弾き飛ばされたのは――アーマード・デススパイダーの方だった。
「シャ、シャアッ!?」
巨大な蜘蛛が、バランスを崩して大きくたたらを踏む。
迎撃に使った冷凍本マグロの表面には、傷一つ付いていない。
「嘘やろ……!? 鋼鉄の魔獣の全力の斬撃を、魚で弾きよった!?」
「ケントさん……すごいです……!」
驚愕するニャングルと、目を輝かせるキャルル。
俺は小さく息を吐き、マグロの刀身(?)に、俺の本来の適性である『氷魔法』を極限までエンチャントした。
「《アブソリュート・ゼロ(絶対零度)》」
ピキピキピキッ!
俺の呟きと共に、ただでさえカチカチだった冷凍マグロが、神代の氷晶に包まれる。空気中の水分が凍りつき、ダイヤモンドすら凌駕する超硬度の『絶対零度マグロ・ソード』が完成した。
「悪いが、明日の朝は早いんでな。一撃で終わらせてもらうぞ」
俺は地を蹴った。
闘気によって強化された脚力が、大地を爆発的に陥没させる。
瞬きすら許さぬ超高速の踏み込み。俺の姿がブレたかと思った次の瞬間には、俺は魔獣の懐、その巨大な頭部の真上に跳躍していた。
『ギュ、ギャアァァァァッ!!?』
俺の放つ圧倒的なプレッシャーに、S級魔獣が初めて『死の恐怖』を覚えて後ずさろうとする。
だが、もう遅い。
俺は空中で体を捻り、遠心力と重力、そしてありったけの闘気を乗せて、巨大な冷凍本マグロを真っ直ぐに振り下ろした。
「大トロ・フィニッシュ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
凄まじい破壊音。
絶対零度の硬度を誇る数百キロの質量が、魔獣の脳天に直撃した。
鋼鉄の装甲がメシャァッと飴細工のように拉げ、ひび割れる。しかしそれだけでは終わらない。闘気を纏ったマグロの『刃』は、硬い外殻を完全に叩き割り、そのまま魔獣の巨体を縦に真っ二つに両断したのだ。
ズザァァァァァァンッ……!!
左右に分かたれた巨大な蜘蛛の死骸が、地響きを立てて倒れ伏す。
切り口は《アブソリュート・ゼロ》の効果によって瞬時に凍結されており、血の一滴すら地面を汚すことはなかった。
静まり返るポポロ村の広場。
俺は肩に冷凍マグロを担ぎ直し、ふう、と息をついた。
「よし、鮮度も落ちてないな。……どうした、二人とも。そんなに口を開けて」
「ど、どうしたやあるかいッ!!」
ニャングルが顔を真っ赤にして叫んだ。
「S級魔獣やぞ!? 討伐に騎士団一個大隊が必要な化け物を、なんでアンタ、魚一本で真っ二つにしとるんや! どんな理屈やねん!」
「どんな理屈って……大間産だからな。そりゃ斬れるだろ」
「産地と殺傷力に何の因果関係があるんじゃドアホォォォッ!!」
相変わらずキレのいいツッコミだ。
まあ、俺の氷魔法と剣術の練度があってこその芸当だが、前世の最高級ブランド魚の威厳が魔獣に通用したという事実が少し嬉しい。
俺がマグロを【スーパーマーケット】のインベントリに収納していると、背後から熱を帯びた足音が近づいてきた。
「ケント……さん……」
振り向くと、キャルルが両手を胸の前で組み、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
その目は、ただの尊敬や憧れといった範疇を完全に超えていた。
(……トクン、トクン、トクン、トクン……!)
彼女の胸郭から、早鐘を打つような激しい心音が俺の耳にも届く。
圧倒的な強さ。ピンチを救ってくれた頼もしさ。そして何より、先ほどの絶品の料理。
彼女の頭の中で、俺という存在が『恩人』から『絶対に手放してはならない運命の相手』へと急速に書き換えられているのが、その熱っぽい視線から痛いほどに伝わってきた。
「凄いです……。あんな恐ろしい魔獣を、あんな風に倒してしまうなんて。……ケントさん、私……私……っ♡」
キャルルが、うっとりとした表情で俺にすり寄ってくる。
その長い兎の耳が、何かの衝動を抑えきれないようにビクビクと痙攣していた。
「おい、キャルル。なんかお前、様子が……」
その時だった。
俺たちの頭上を覆っていた分厚い夜雲が風に流され、隠されていた夜空が姿を現した。
――空には、まん丸に輝く『満月』が浮かんでいた。
「あっ……」
満月の光を全身に浴びた瞬間、キャルルの体がビクンッと大きく跳ねた。
瞳孔が限界まで開き、その唇の端が、不自然なほど吊り上がっていく。
彼女の周囲から、先ほどまでの可憐な気配とは打って変わって、圧倒的で暴力的な闘気と、尋常ではない量の『回復魔法』のオーラが立ち上り始めた。
「あ、あかん……!」
ニャングルが青ざめ、後ずさる。
「ケントの旦那! 逃げや! 月兎族は、満月の夜に感情が高ぶると――」
「アハッ……アハハハハハッ!!」
キャルルが、甘ったるくも底知れぬ狂気を孕んだ笑い声を上げた。
「ケントさん、ケントさんケントさんケントさん……!! 私、力が溢れてきちゃいました! あなたのための、私だけの力!! さあ、怪我をしている人はどこですかァァッ!?」
バァァァァァァァァンッ!!
彼女が大地を踏み抜いた瞬間、暴走するヤンデレ姫騎士の、長く熱い『満月の夜』が幕を開けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「大間産だから斬れる(真顔)」「大トロ・フィニッシュの威力ヤバすぎw」「キャルルちゃん、完全に満月でスイッチ入っちゃった…!」
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次回、第5話「満月の夜の月兎族! 姫騎士キャルルの過激な『熱いヤキ』」。
暴走して敵味方構わず殴り飛ばしながら全回復させるヤンデレ姫騎士に対し、元社畜ケントが『最高級イチゴパフェ』で鎮圧に乗り出します! お楽しみに!




