【スーパーマーケット】召喚! 100円の調味料が異世界を支配する日
【スーパーマーケット】召喚! 100円の調味料が異世界を支配する日
その日の夜、ポポロ村の集会場の裏手にある野外キッチンには、赤身の肉塊がゴトリと置かれていた。
村で飼育されている魔獣『ロックバイソン』の肉である。
「ケントさん、ごめんなさい。村で一番上等なお肉を用意したんですけど……ロックバイソンの肉は筋繊維が岩のように硬くて、半日以上煮込まないと噛み切れないんです。味も大味で、血生臭くて……」
キャルルが申し訳なさそうに兎の耳を伏せる。
確かに、前世の高級和牛などとは比べるべくもない、ゴツゴツとした野性味溢れる肉塊だ。異世界ファンタジーでは定番の食材だが、この世界の住人たちは塩で焼くか、ただただ煮込むという単調な調理法しか知らないらしい。
「いや、食材としては十分だ。赤身の旨味は強そうだからな。後は俺の『スキル』と知恵の出番ってわけだ」
俺は腕まくりをして、虚空へと手を伸ばした。
ユニークスキル【スーパーマーケット】の『調味料コーナー』と『日用品コーナー』にアクセスする。
ポンッ、ポンッ、ポンッ!
何もない空間から次々と現れるのは、カセットコンロ、大きなフライパン、そして見慣れた日本の調味料たち。
すりおろし生姜、特製焼肉のタレ(ニンニク醤油味)、マヨネーズ、そして塩コショウ。ついでに『惣菜コーナー』から、炊きたての白飯が詰まった特大パックと、袋入りの千切りキャベツも召喚しておく。
「な、なんやそれ!? また空間からポンポンと変なもん出しおって!」
「まあ見てろって」
騒ぐニャングルを片手で制し、俺は調理に取り掛かった。
まずはロックバイソンの分厚い肉にナイフで細かく隠し包丁を入れ、筋を切る。そこに、すりおろし生姜と焼肉のタレをたっぷりと揉み込み、常温で少し馴染ませた。
現代の焼肉のタレには、果実の酵素や酸味が含まれている。これが硬い肉のタンパク質を分解し、驚くほど柔らかくしてくれるのだ。
熱したフライパンに牛脂を引き、タレの染み込んだロックバイソンの肉を豪快に投入する。
――ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
焦げた醤油と、強烈なニンニク、そして肉の焼ける暴力的なまでに香ばしい匂いが、静かなポポロ村の夜空に爆発的に広がった。
「っ……!!??」
匂いを嗅いだ瞬間、キャルルの兎耳がピンッ!と垂直に立ち上がった。
ニャングルに至っては、咥えていた煙管をポロリと落とし、口から滝のようにヨダレを流している。
「あ、あかん……なんやこの暴力的なええ匂いは……! 胃袋が、胃袋が鷲掴みにされとる……!」
「はい、お待ちどおさま」
大皿に千切りキャベツを山盛りにし、その横に炊きたての白飯を盛る。そしてメインとなる、こんがりと焼き上がったロックバイソンの特厚ステーキを乗せ、仕上げにマヨネーズを網の目状に美しくかけた。
「さあ、冷めないうちに食ってくれ」
俺が差し出した皿を、キャルルが震える手で受け取る。
彼女はフォークで肉を一切れ刺し、恐る恐る小さな口に運んだ。
「――っっっ♡!!」
瞬間、キャルルの瞳孔がパァンッと開き、その可憐な顔が真っ赤に染まった。
岩のように硬いはずのロックバイソンの肉が、タレの酵素と隠し包丁のおかげで、口の中でホロリと崩れる。噛み締めるたびに溢れ出す強烈な肉の旨味。それを、甘辛いニンニク醤油のタレと、マヨネーズの濃厚なコクと酸味が完璧に包み込んでいる。
「お、美味しい……っ! お肉がすっごく柔らかくて、甘くてしょっぱくて……ご飯が、ご飯が止まりませんっ……!」
キャルルは兎のように口をモグモグと動かし、白飯と肉を交互に狂ったように掻き込み始めた。
俺はその横顔を見ながら、確かな手応えを感じていた。
――トクン……。トクン……。
ふと、キャルルの胸元から、不自然なほど大きく、そして速い心音が聞こえたような気がした。彼女の潤んだ瞳が、肉ではなく、じっと俺の顔を見つめている。
「ケントさん……私、こんな美味しいもの生まれて初めて食べました。あなたって、本当に……本当に、素晴らしい人ですね……♡」
彼女の声音に、どこか甘く、ねっとりとした『重さ』が混じっていた。俺への好感度が振り切れた証拠だが、少々目が据わっている気がしないでもない。まあ、喜んでくれたなら何よりだ。
「ヒィィィィッ!! なんやこれぇぇ!!」
一方、肉を平らげたニャングルは、皿に残ったタレを指で舐め取りながら歓喜の悲鳴を上げていた。
彼の頭の中では、恐るべき速度で算盤が弾かれている。
「兄ちゃん、いやケントの旦那! この『マヨ』とかいう魔法の白いソースと、黒い『タレ』! これを三大国の軍隊に売り捌いたら、とんでもない額の金貨が動くでぇ! ルナミスの兵站も、アバロンの補給線も、ワイらの胃袋外交で完全支配できるわ!!」
「そうだな。原価は100円もしないから、利益率は軽く数万倍を超えるだろうな」
「数万倍……ッ!? アカン、ワイの狂った算盤が火を吹きそうや!」
これで当面の資金と、ポポロ村での俺の居場所は完全に確保できた。
美味い飯と、笑い合える仲間。俺が求めていたスローライフが、ここから始まる――。
ビーーーーーーーーーーッ!!
ビーーーーーーーーーーッ!!
そう思った矢先、村の静寂を切り裂くように、外界の侵入を知らせる『魔導センサー』の警報音がけたたましく鳴り響いた。
「な、なんや!?」
「村の外壁が破られました! 魔獣の襲撃です!」
キャルルが弾かれたように立ち上がり、腰に帯刀していた二本のトンファー(ダブルトンファー)を引き抜く。
ドォォォォンッ!という轟音と共に、防壁の一部が吹き飛び、もうもうと立ち込める土煙の中から巨大なシルエットが姿を現した。
体長5メートルを超える、鋼鉄の装甲を纏った巨大蜘蛛。
S級指定の凶悪魔獣、『アーマード・デススパイダー』だ。
(※神界の炎上神ワイズが、自身のプロデュースする課金勇者の見せ場を作るための前哨戦として、裏で村に放った実験体であるが、この時の俺たちは知る由もない)
「シャアァァァァァァッ!!」
魔獣が鋭い鎌のような前脚を振り下ろす。
キャルルが瞬時に前に飛び出し、ダブルトンファーを交差させてそれを受け止めた。
「くぅぅっ……! 装甲が硬すぎるっ!」
キャルルの怪力をもってしても、鋼鉄のクモの装甲には傷一つつけられない。逆に、強烈な膂力に押し込まれ、彼女の小さな体が後退していく。
自警団の到着までにはまだ少し時間がかかる。このままでは、村の被害が拡大してしまう。
「……たく。せっかくの美味い肉の余韻が台無しだな」
俺は深くため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
体内から、凍てつくような冷たい闘気を立ち上らせる。
そして再び、虚空へと手を伸ばした。アクセスするのは日用品でも調味料でもない。
【スーパーマーケット】の奥底――『鮮魚・特選コーナー』だ。
「そこを退け、キャルル」
「ケントさん!?」
俺が虚空から引き抜いたのは、全長2メートルを超える、巨大な鈍色の影。
極低温の冷気を放ち、表面がカチカチに凍りついた、一本の巨大な魚。
「行くぞ……『冷凍本マグロ・ソード(大間産)』」
俺は、絶対零度の冷気を纏った数百キロの冷凍マグロを大上段に構え、S級魔獣の眼前に立ちはだかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「マヨネーズと焼肉のタレは異世界チートの鉄板!」「キャルルちゃんの好感度が限界突破してヤンデレ化の予感が…」「いいところで冷凍マグロ抜刀きたー!」
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次回、第4話「行くぞ、冷凍本マグロ・ソード! 大間産質量兵器の圧倒的威力」。
カチカチの冷凍マグロが、鋼鉄のS級魔獣を真っ二つに叩き割るシュールな物理無双が開幕します! お楽しみに!




