サウナ上がりの元将軍スアイと、極上の宴
サウナ上がりの元将軍スアイと、極上の宴
昨晩のケンタウロス娘による『夜の暴走騎乗』と、その直後にキャルルが笑顔で三時間ほど無言のトンファー素振りをし続けるという地獄のプレッシャーを乗り越え、ポポロ村に爽やかな朝が訪れた。
村の広場では、今日も平和な日常が営まれている。……とはいえ、俺の気ままなスローライフには、どうやら『次から次へと厄介な美人が転がり込んでくる』という呪いがかかっているらしい。
「あぁ〜、世俗のゴタゴタは面倒ですわ〜。やはり大自然の中でのDIY開拓とサウナに限りますわね!」
そんな清々しい独り言と共に、村の入り口に一人の女が現れた。
透き通るような白い肌、流れるような銀髪、そして誰もが振り返るほどの超絶美貌。
だが、その服装はあまりにも周囲から浮いていた。彼女が着ているのは、【タローマン(俺が前世の知識を元にルナミス帝国に作ったガテン系作業着店)】で売られている、機能性抜群のオーバーオールだった。首にはタオルを巻き、手にはDIY用の片手斧と薪を抱えている。
「ん? 新顔か? 冒険者にしてはずいぶんとラフな格好だが」
「おや、貴方がこの村の責任者かしら?」
女は俺を見ると、気さくな笑顔で歩み寄ってきた。
「私はスアイ。つい最近までアバロン魔皇国で『氷魔将軍』なんていう中間管理職をやっていたのですけれど、退職届を叩きつけてフリーランスのガチキャンパーになりましたの」
「……魔将軍? 魔王軍の最高幹部じゃないか。なんでまた退職を?」
「聞いてくださる!? 魔族の軍部は本当にコンプライアンスが狂ってますのよ! 氷の魔法を使うからって、なぜ極寒の戦場で露出度の高いビキニアーマーを着なければならないのです!? 意味のないエロスはただのセクハラですわ! 私は機能性の高いタローマンの作業着が着たいんです!」
力説するスアイ。
どうやら彼女は、魔王軍の『女幹部=セクシー衣装』という暗黙のテンプレにブチギレて軍を抜け、ここポポロ山で悠々自適なスキー場建設や開拓DASH村生活を楽しんでいるらしい。
「それで、今日は村に何の用だ? 開拓の資材ならニャングルの商会が扱うが」
「いえ、今日は貴方に個人的なお願いがあって来ましたの。噂で聞きましたわ。この村には、魔獣を凍らせるほどの凄腕の『氷魔法使い』がいると」
「まあ、俺のことだろうな」
「素晴らしい! 実は私、山に極上のサウナ小屋をDIYしたのですけれど……どうしても『水風呂』の温度管理だけが上手くいかなくて。貴方の氷魔法で、究極の水風呂を作っていただけないかしら?」
元魔将軍が、わざわざ山を下りてきた理由。それは世界征服でも村の侵略でもなく、『完璧なサウナ環境(水風呂)』の追求だった。
「……なるほど。そういうことなら、任せておけ」
俺は即答した。
前世の社畜時代、俺の数少ない癒やしは深夜のカプセルホテルにあるサウナだった。熱いサウナとキンキンに冷えた水風呂。あの『ととのう』感覚を知る者として、サウナーの頼みを無下にはできない。
俺たちはスアイの案内で、ポポロ山の麓に彼女が建てた本格的なログハウス風のサウナ施設へと向かった。
サウナ室は薪ストーブで熱され、白樺のヴィヒタの香りが漂う完璧な仕上がりだった。問題は、その横にある湧き水を溜めた水風呂だ。
「山の湧き水ですから十分に冷たいのですけれど……サウナの熱波と釣り合うには、あと一歩、パンチが足りないんですの」
「分かった。水温を『シングル(10度未満)』に設定すればいいんだな」
俺は水風呂の縁に立ち、体内の魔力を練り上げた。
魔獣を一刀両断した《アブソリュート・ゼロ(絶対零度)》の出力調整版。対象を凍らせるのではなく、水の分子運動だけを精密に減速させ、凍るギリギリの『9度』という極限の冷水状態を維持し続ける高度な魔法制御。
「氷結制御」
水風呂から、すーっと冷たい冷気が立ち上る。
表面には薄氷すら張らないが、その水温は人間の自律神経を極限まで刺激する至高の温度に固定された。
「ど、どうかしら……?」
スアイが息を呑み、足先をそっと水風呂に浸す。
「――っっっっっ♡♡♡!!」
瞬間、スアイの瞳孔が開き、全身が歓喜に打ち震えた。
彼女はすぐさま肩まで水に浸かり、ほうっと熱い吐息を漏らす。極限まで熱された体が、俺の氷魔法による究極の冷水で一気に引き締められ、脳内に大量のエンドルフィンが駆け巡っていく。
「す、素晴らしいですわ……! 氷魔法をこんなにも繊細に、完璧な温度で維持するなんて……! これです、私が求めていた『究極の水風呂』は……っ! あぁぁ……ととのいますわぁ……♡」
ベンチに腰掛け、虚空を見つめながらだらしなく恍惚の表情を浮かべる絶世の美女。魔将軍の威厳など欠片もない。
「さて、サウナで汗を流した後は、塩分とカロリーの補給が必要だろ」
俺はサウナの外に設営されたキャンプテーブルに歩み寄り、虚空へと手を伸ばした。
サウナ上がりの体に染み渡る究極のメシ、通称『サ飯』。
俺が【スーパーマーケット】から召喚したのは、ポポロ村の特産品『陽薬草』の濃縮エキスと、キンキンに冷えた強炭酸水。これをジョッキで割り、異世界版の特製オロポ(回復薬サイダー)を錬成する。
さらに、ドンガン地下帝国の技術で炊き上げた『米麦草』の白飯の上に、ポポロ村で採れた分厚い『肉椎茸』をバターと醤油でこんがりと焼き上げ、たっぷりのワサビと刻み海苔を乗せた『肉椎茸の極上ステーキ丼』を完成させた。
「さあ、食ってみろ」
「い、いただきますわ……ごくり」
スアイは特製ドリンクを一気に煽り、「プハァァァァッ!」と親父くさい歓声を上げた後、肉椎茸丼を口いっぱいに頬張った。
「んんんんんっ♡!!」
スアイの銀髪がバサリと跳ねた。
アワビのような肉椎茸の弾力、溢れ出す旨味エキス。それを焦がしバター醤油の香ばしさと、ワサビのツンとした刺激が完璧に引き締めている。
「な、なんという美味……! 私、魔皇国の宮廷料理よりずっと美味しいと思いますわ! しかもこのシュワシュワする薬草ドリンク、細胞の隅々まで沁み渡ります……!」
「気に入ったなら何よりだ。うちのスーパーの特売品だからな」
「ケントさん……貴方、天才ですわ!」
スアイはスプーンを握りしめたまま、俺の手を両手でガシッと掴んだ。
「決めましたわ! 私は今日から、このポポロ村の住人になります! 毎日貴方のサウナ水風呂と、このご飯を食べられるなら、魔将軍の地位なんて本気でどうでもいいですわ!」
「おいおい、勝手に決めるな。俺はただの冒険者だぞ」
「構いません! 私、タローマンの新作作業着も買いたいですし!」
――とその時。
サウナ小屋の木の陰から、ゴゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が聞こえてきた。
振り返ると、愛用のダブルトンファーを握りつぶさんばかりの力で握りしめたキャルルが、暗い瞳でこちらを凝視していた。
「……私のケントさんが……今度は、露出狂の魔族女と一緒にサウナで……?」
「露出狂とは失礼ね! これは機能性を追求したガチキャンパーの正装ですわ!」
「うるさいです、泥棒猫。ケントさんのご飯は、私だけのものです……っ!」
バチバチと火花を散らす、ヤンデレ月兎族とガチキャンパー元魔将軍。
その光景を、はるか上空の神界からゴッドチューブの配信越しに見つめている者がいた。
『――あぁぁぁぁぁぁっ! なにあの超絶美味そうな肉丼と、キンキンに冷えた飲み物はぁぁぁっ!』
天界のコタツの中で、女神ルチアナがエンジェルすまーとふぉんの画面に向かって絶叫し、ジタバタと足を暴れさせていた。
『ずるいずるいずるい! 私もサウナに入ってその肉椎茸丼を食べたい! オリン様ぁぁっ、予算あげるから私もポポロ村に行かせてよぉぉぉっ!』
もはや炎上勇者の敗北などどうでもいい。
神々の最高位たる女神すらも羨望の涙を流すほどの、圧倒的で平和な飯テロ&スローライフ。
極上の兵站と防衛力、そして個性豊かすぎる美女たち(重い)が集うポポロ村は、今や間違いなく『世界で最も美味くて安全な村』として完成を迎えつつあった。
だが、この村の常軌を逸した噂が、世界を統べる最上位の存在たちの耳に届かないはずがなかったのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ビキニアーマーを拒否する魔将軍、解釈一致!」「氷魔法の最高の無駄遣い(水風呂)w」「ルチアナ様、神の威厳ゼロで草」
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次回、第15話「世界最強の辺境スーパーマーケット、本日も元気に営業中!」。
第一章完結! 仲間たちと過ごす最高の日常。しかし、その圧倒的な評判を聞きつけ、大空の彼方から『伝説の竜王』の影がポポロ村に迫る……!? お楽しみに!




