世界最強の辺境スーパーマーケット、本日も元気に営業中!
世界最強の辺境スーパーマーケット、本日も元気に営業中!
課金勇者ゼロスの襲撃事件から数週間。
ポポロ村は、前例のないほどの活気と繁栄に包まれていた。
「へいらっしゃい! ポポロ村特製『カップ麺』、今日は豚骨味の入荷やで! まとめ買いなら銀貨一枚オマケしたるわ!」
広場に設けられた仮設テント(通称・タローソン特設会場)では、商人のニャングルが金の煙管を咥えながら、三大国の兵士たちや冒険者相手に大立ち回りを演じていた。
俺が【スーパーマーケット】から召喚した現代物資は、ニャングルの手によって飛ぶように売れ、村の金庫には毎日のように金貨の山が築かれている。
「よしよし、この資金があれば、地下帝国ドンガンに最新型の『魔導対空パトリオット砲』を追加発注できるな。ふふふ……」
自警団長のマンミアが、分厚いカタログをめくりながら頬を緩ませている。彼女は先日の一件以来、25歳のクリスマスコンプレックスをすっかり克服(?)し、俺を見るたびに「私の背中はいつでも空いておりますよ♡」と馬の下半身をすり寄せてくるようになった。
「マンミアさん、抜け駆けは許しませんよ。今日の村の巡回警備は私がケントさんと一緒に行きますから」
愛用のダブルトンファーを磨きながら、村長のキャルルがジロリとマンミアを睨む。彼女の胸ポケットには、俺への重い愛情の象徴である『お手製の人参刺繍ハンカチ』が誇らしげに輝いている。
さらに村の奥からは、タオルを首に巻いた元氷魔将軍のスアイが、片手斧を振り回しながら「今日の水風呂も最高でしたわー!」と大声で笑いながら歩いてくる。
「……たく。賑やかなことだな」
俺は広場の真ん中に置かれたリクライニングチェア(もちろんスーパーのアウトドアコーナー産だ)に深く腰掛け、淹れたてのコーヒーを啜った。
追放されたあの日、馬車馬のように働かされるだけの人生を捨てて、気ままなスローライフを求めてこの村にやってきた。
結果として、S級魔獣をマグロで叩き切り、炎上神のヤラセ配信を潰し、三大国の軍隊の胃袋を掌握するという、スローライフとは程遠い大立ち回りを演じる羽目になったが……。
こうして美味い飯を食い、笑い合える仲間(重すぎるヤンデレや処女馬も含む)に囲まれている今の状況は、間違いなく俺の望んだ『自由』そのものだった。
ビーーーーーーーーーーッ!!
ビーーーーーーーーーーッ!!
突如、村の魔導センサーがけたたましい警報音を鳴らした。
「ケ、ケントの旦那! 村の北側の森から、魔獣の群れが接近中や! 数はおよそ五十、B級指定の『ブラッドウルフ』の群れやで!」
「なんだと!? 総員、戦闘配置!」
マンミアが号令をかけると、広場にいた自警団の農民たちが、クワやスキを投げ捨てて、一斉に魔導ライフルやバズーカを肩に構え始めた。
普通ならパニックになる状況だ。だが、この村の住人たちの顔に、悲壮感は一切ない。
「よしよし、ちょうど肉の備蓄が減ってきたところだったんです!」
「キャルルちゃん、先陣は任せたぜ! 俺たちのバズーカが援護する!」
「スアイさん、サウナの薪割りついでに数匹頼みますわ!」
魔獣の襲撃を、『タダで向こうからやってくる新鮮な食料のデリバリー』としか思っていない狂気の農民たち。
「やれやれ……仕方ない。俺も少し体を動かすか」
俺はリクライニングチェアから立ち上がり、虚空へと手を伸ばした。
五十匹の魔獣の群れ。普通に戦えば時間がかかる。
ならば、今日の『特売品』を使うとしよう。
俺が【スーパーマーケット】から召喚したのは、巨大な黄色いポリタンク。
前世のホームセンターで売られている、強力な『除草剤(非農耕地用)』だ。
俺はこれを氷魔法で極限まで希釈・冷却し、広範囲に散布する霧状の『コールド・ミスト』へと変換した。
「キャルル、マンミア、スアイ。少し息を止めておけ」
俺は風魔法で、その冷たい霧を森の奥から迫りくるブラッドウルフの群れに向けて一斉に放った。
『グルルルッ……キャンッ!?』
強力な除草成分と極低温の冷気を同時に吸い込んだ魔獣たちが、次々と咳き込み、足をもつれさせてその場に倒れ伏していく。
致死毒ではないが、魔獣の神経を麻痺させるには十分すぎる効果だ。
「さあ、今のうちだ。鮮度が落ちないうちに回収(狩り)を済ませるぞ!」
「はいっ! ケントさん!」
キャルルが嬉々としてトンファーで魔獣の急所を的確に砕き、マンミアが拘束鎖で縛り上げ、スアイが片手斧で手際よく解体していく。
ものの十分で、五十匹の魔獣の群れは、立派な『お肉のブロック』へと加工され、俺のスーパーの冷蔵インベントリへと収納された。
「ふぅ、大漁大漁。今日の夕飯はブラッドウルフのレアステーキ、ガーリック醤油ソースがけで決まりだな」
「わぁぁっ♡ ケントさんのステーキ! 楽しみですぅ♡」
キャルルが兎耳をピコピコと揺らして喜ぶ。
こうして、今日もポポロ村の平和(と食卓)は守られたのだった。
――だが、その平和な光景の裏で。
俺たちがまだ知らない、世界の頂点に立つ者たちが静かに動き始めていた。
遙か上空、神界『セレスティア』。
女神ルチアナは、エンジェルすまーとふぉんを握りしめ、ポポロ村の映像を見つめながらよだれを垂らしていた。
『あぁぁ……ステーキ……。オリン様、どうしてもポポロ村への出張予算、下りないんですか……?』
『却下です。世界神が下界の飯に釣られてどうするんですか。それよりもルチアナ、下界の様子が少しおかしいですよ』
『え?』
見習い女神のリリスが指さすモニター。
そこには、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国――それぞれの国のトップである皇帝、獣王、魔王が、極秘裏に動き出している様子が映し出されていた。
『彼ら……ポポロ村の噂を聞きつけて、直接ケントの力を取り込もうと動き出しましたね。特にあの【大間産マグロ】の存在は、軍事バランスを根底から覆しかねませんから』
さらに、カメラの視点は海を越える。
海神の末裔であるシーラン国の女王リヴァイアサンが、手紙を読みながらワナワナと震えている。
『私の……愛しの娘、リーザが……ルナミス帝国の親善大使ではなく、地下アイドルになってパンの耳を食っているだとォォォッ!? 海軍を出撃させろ! すべての元凶を海に沈めるのだ!』
そして――。
ポポロ村の遙か上空、雲を切り裂いて飛来する、一つの巨大な影。
空を覆うほどの巨大な翼。ルナミス帝国との関わりが深く、伝説の存在と謳われる『竜王デューク』が、なぜかラーメンの屋台を引きながら、ポポロ村へと真っ直ぐに降下を開始していた。
「……ん?」
俺は、村の広場でステーキ肉の仕込みをしながら、ふと空を見上げた。
なんか、とんでもなくデカい影がこっちに向かってきている気がするんだが。
しかも、どこからともなく『五円!五円!御縁!御縁!』という謎のアイドルの歌声(幻聴?)と、『ホーリー・メイクアップ!』という機関銃の乱射音まで聞こえてくるような……。
「……まあ、いいか。どんな奴が来ても、美味い飯とスーパーの品出しで返り討ちにしてやるだけだ」
俺はエプロンの紐をキュッと締め直し、不敵に笑った。
追放された元社畜が、大間産マグロと現代物資で異世界を無双する気ままなスローライフ。
世界最強の辺境スーパーマーケット、今日も元気に営業中!
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