+++ ぬくもりにふれて +++(4)
「要するに、この子供を炙り出す為に、あんな騒ぎを起こしたと?」
地面に“正座”するアメリアに、青筋を立てたジニアが詰問する。
「そうそう。村に来た時からなぁんか妙な視線を感じててさ〜。でも索敵しても全然尻尾出さないから、ちょっとビックリさせたら出てくるんじゃね? と思って。だからさぁ、悪気は無かったんだよ〜。な? 分かったろ? 分かったらこの“鎖”解いて下さいお願いします」
正確には、強制的に“正座させられている”アメリアは、身を揺すって自身に巻き付いている如何にも堅牢そうな鎖をジャラジャラと鳴らした。
鎖の根本は空間に走る亀裂の中へと続いており、一目でそれが魔法による産物だと分かる。
「事案の言い訳には全くなって無いから却下ぁ〜」
「オメェだってシオンの顔、そのうっすい胸に押し付けてたろ!」
「極刑」
「ギャーッッ!? ギブギブ! 出ちゃう!? 出ちゃうから! 乙女って言うか人の身体から外に出ちゃいけないモノがぁ!?」
ブチッと何かが切れた音がカトレアからしたかと思えば、アメリアに巻き付いていた鎖が彼女の柔肌に容赦無く食い込んだ。勿論、服の上からだが。しかしそのせいで、豊かな胸部や臀部が強調されて、酷く教育に悪い絵面になっている。………もっとも、顔が踏み潰されたヒキガエルのように苦痛に歪んでいるので、色気は皆無に等い。
「お、おい!? 何で僕まで縛られてるんだ!?」
と、今にもミンチになりそうな聖女の横で、同じくカトレアの鎖に拘束されている魔族の少年が抗議の声を上げた。
「君はシンプルに怪しいからだよぉ〜」
「っっ!? ……ぼ、僕は別に怪しくなんかっ」
「我々“勇者パーティー”を、村に到着早々から見張っていたのに、か?」
「えっ!? やっぱりそうなのか!?」
ジニアが敢えて身分を明かした途端、魔族の少年はまるで砂漠にオアシスを見つけた旅人のように、その美しい黄金の双眼に希望の光を宿す。
大人達全員が、こう思った。
((((チョロ過ぎる………))))
と、少年が素直過ぎて逆に呆然としてしまった大人達の横から、シオンが淡々と問い掛ける。
「どうして魔族の子供が、俺達を監視している?」
「む? 何だお前は? と言うか、自分だって子供じゃないか!」
「質問に答えろ」
「断る! 僕には崇高な目的があるんだ!」
((((目的があるって言っちゃったよ……))))
見たところ同年代故か、シオンにムキになって反発する魔族の少年は、先ほどから遠回しに自白しまくっている事に気付かない。
「そうか。アメリア、やっぱりコレは殺して良いか?」
「殺っ!?」
だが更に口を滑らせる前に、全く表情も声色も変えず淡々と文字通りのキラーワードを口にしたシオンに、目を剥いて硬直する。
「いやダメだよ? てかさ、せっかく同年代の子とコミュニケーションしてるんだから、もうちょい頑張ろうぜ」
「でも、教会で“敵”は問答無用で“処分”しろと教わった。俺達を監視してたんなら、コレは敵じゃないのか?」
「そんなこと言ったら、私らだって一応、アンタを監視してる事になってるんだけど? シオンには私らが敵に見えてんの?」
「っ! ………いや」
「だったらさ、もっとしっかり話してみ? 敵かもしれないって疑ってんなら、尚更色々聞いた方が得だろ?」
「………分かった」
相変わらずの無表情だが、どこか納得のいかない様子の少年に、アメリアは寧ろ好ましい反応だと頷く。
「やっぱり子供は、素直過ぎないくらいが可愛いよ」
「誰かさんは自分に素直過ぎだけどねぇ〜」
「うん。貧乳ババア呼ばわりした事はマジで謝るから、良い加減この鎖解いてくんない?」
「イ・ヤ♡」
「ギャァァーーーーッッッ!?」
と、子供より学習しない聖女と根に持つタイプの魔法使いがコントしているのを尻目に、シオンは改めて魔族の少年に向き直る。
「アメリアにお前と話せと言われた」
「い、いや、それは聞いてたけど……」
つい今しがた自分を殺そうとしていた、まるで人形のように無表情な少年に、魔族の少年はどんな対応をして良いのか分からず、顔を背ける。
「目的は何だ? 所属は?」
「それ会話じゃなくて尋問だよね!?」
「敵を捕えたら最初に確認しろと、教会で教わった」
「じ、人族領の教会って、そんな事を教えてるのか……?」
魔族の少年は恐る恐る、目の前で腕を組んで顔を顰めている、如何にも厳格そうな神官に視線を向け。
「む?」
次いで鎖に拘束されている聖女(?)へ視線を滑らせ。
「で、出るぅ〜!? もう本当に出ちゃうぅ〜!?」
……そして、悲哀と同情を宿した瞳を、シオンに戻した。
「お前、大変だったんだな………」
「どういう意味だ?」
((((いや間違ってはいないけども!))))
首を傾げるシオンの後ろで、大人達は正そうにも勘違いとは言い切れない魔族の少年の誤解(?)に、頭を抱えた。約一名は芋虫みたいに地面をのたうち回っているだけだが。
実際(当人達の認識はともかく)、ジニアとアメリアは教会暗部とは違う意味で教育によろしくないので、現在進行形でシオンが被害に遭っていると言えなくもない。客観性って大事だよね。
……ただ一つ。間違っている事があるとするならば、シオンがこれまで辿って来た道のりは、魔族の少年が想像したような“生易しい”物では無かったという事だけだ。
そうでなければ、こんな年端もいかぬ少年が『勇者』などと言う重過ぎる称号を背負う事など無いのだから。
「はぁ……口下手な俺が言うのもなんだが、お前達、一番大事な事を忘れていないか?」
「「??」」
やれやれと言いたげな調子でローダンが口にした問い掛けに、シオンと魔族の少年は種族が違うにも関わらず、揃っていたいけな子供らしく首を傾げた。
「「ぶはっ!?」」
「お前達は旅を終えたら真っ直ぐ牢獄行きだ」
そのあまりに純真な仕草に、事案女二人は鼻血を噴いて倒れ、ジニアはゴミカスを見るような目で彼女達を見下ろす。
「う゛、う゛うんっ! ……“自己紹介”だよ。初対面なのだから、互いに名乗るのが礼儀だろう」
「っ! 確かに……」
「そうなのか?」
気を取り直したローダンの言葉に目を見開いて納得する魔族の少年と、再び首を傾げるシオン。
「くぅっ!? 育ちの違いが顕著に出ているっ」
「話が進まないからお前も黙ってろ」
先程とは逆に対照的な反応を示す二人の少年を見て、ジニアは思わず眼鏡を外し眉間を押さえた。ローダンはそんな彼を事案女達の屍の上にポンと放り投げた。「「「ぐえっ!?」」」
「シオン。新たな出会いも旅の醍醐味だ。これも修行、と言っては彼に失礼だが、自分なりに名乗ってみろ」
「……分かった」
ローダンの低く落ち着いた声に促され、シオンは一つ頷くと、魔族の少年に向き直る。
「俺の名は『エリュシオン』。勇者だ」
「そ、そうか。僕の名前は『カラン』。訳あって今は貴族では無いが、一応高貴な血筋でってうえええええええええっっっ!? ゆ、勇者ぁぁぁぁあっっ!?」
ド直球なシオンの自己紹介は、見事に魔族の少年……カランの度肝を抜いたのだった。
話進まねぇなぁと思っている読者の方、申し訳ありません。私も思っています。でもキャラクターの掛け合いが好きなので、ついつい書いてしまうのです……すいません。
今話もお読み頂き、ありがとうございました。




