+++ 過ぎゆく面影 +++(3)
「本当に付いて来んのかよ……」
「い、良いでしょ! 邪魔はしないもんっ」
礼拝堂の掃除を終え、気怠げな足取りで町に降りたシオンは、アヒルの子供のように後ろをトコトコ付いて来たイリスに半眼を向ける。
尚、ルピナさんは付いて行くとか言いながら彼を追い越して真っ先に駆けて行ったので、今どこに居るのかは知らない。知りたくもなかった。
「お前が何もしなくても、女連れで歩いてると色々うるせぇ連中が居るんだよ」
「え?」
「「「あ、兄貴っ!? 遂に女が出来たんですかい!?」」」
「ほらな」
町に入った途端、どこからともなく現れた厳つい男達に、シオンとイリスはあっという間に囲まれた。
ご存知、シオンにボコられて軍門に降った舎弟……ではなく、改心した『自警団』の皆さんだ。
「お、女って!? う、ウチがシオンのっ!?」
「何でお前が驚いてんだ……普通にさっさと否定しろや」
「い、いやぁ、だってぇ〜」
何故か急にクネクネして照れ始めたイリス。お年頃で頭がちょっとアレなのかもしれない。
どうして俺の周りにはイカれた女しか現れねぇんだ? ……と、シオンさんはちょっとだけ自分の運命を呪った。
「はぁ……おい馬鹿共。こいつはただの朝飯たかりに来た“穀潰しその二”だ。間違っても変な噂広めんじゃねぇぞ?」
「えぇ〜? 本当ですかい? スレンダーなルピナちゃんと違って、小柄でも出るとこは出てるあたり、ちょっとシスターにも似てるような……」
「ああ! 確かに! シスターは兄貴だけじゃなく、俺らの永遠の初恋だったからなぁ〜」
「でもやっぱり色気と言えば、ミナさんが一歩リードだなぁ」
ガラの悪い顔に非常にお似合いな下卑た笑みを浮かべる『自警団』の男達。全くもって学習しない。
「ははっ。そうか死にたいか。なら楽になりたい奴から前に出ろ」
「「「ひぃっ!?」」」
「……大体、誰の初恋があんなナマグサ聖女だって? ゛あ゛あ!?」
「「「お、お助けぇぇぇぇっっ!?」」」
一秒前まで笑っていた(それはそれで恐い)のに、次の瞬間には割とマジな怒気を撒き散らすシオンに、男達は久しぶりにガチで命の危機を覚える。町を護る前にもう少し自分達の身を守れる立ち回りを覚えられないものだろうか?
だが、そんな間抜けをやらかした彼らを、その純情で無自覚に救う少女が一人。
「シ、シオンは、おっきい方が好き、なの?」
ウルウルと瞳を潤ませ、小柄な割に豊かなその胸を隠すように腕を寄せた(結果的に谷間が強調されていて余計にエロい)イリスは、ちょこんとシオンの裾を掴んで問い掛ける。
「………いや、別に」
「今の間は何ですか? 納得のいく説明を求めます」
「テメェはホント居たら邪魔臭ぇ時に限って現れやがるな!?」
いつの間に戻ったのか、反対側からゴリゴリと拳でシオンの脇腹に地味な攻撃をしながらジト目を向けるルピナさん。
「大声で誤魔化そうとしても無駄です。さあ早く。きちんと論理的で明確な説明を!」
「鬱陶しぃ……だから、別に好みなんかねぇよ。やけに必死で聞いて来たから、少し答えに詰まっただけだ」
「つまり、ガッツリ谷間に見惚れていたと」
「何がどうなったらその結論になるのか論理的で明確な説明してみろやコラ」
やれやれと言わんばかりに肩を竦めるルピナに、シオンは青筋を浮かべて拳を振るわせる。
「まったく。敬虔な神の使徒が煩悩まみれとは何事ですか。この様子では、一緒に暮らしている私もいつ襲われるか分かったものではありませんね」
「ハッ! 鶏ガラが何言ってんだ? 別に肉付きが良い方が好きって訳じゃねぇが、流石に骨が相手じゃ興奮したくても出来ねぇよ」
「はぁぁぁあっ!? 誰が鶏ガラですか! 言っておきますが、私は脱いだら凄いんですからね!」
「出汁でも出んのか? 生憎と俺は魚介派だ。他当たってくれ」
「むきぃぃぃぃっっ!? そこまで言うなら見せてあげますよ! この引き締まった美ボディーをっ!!」
シオンに鼻で笑われた事がよっぽど頭に来たのか、ルピナは鎧に手を掛けて今にも肌着とショートパンツだけになろうとしている。
「「「おおおっっ!?」」」
「ちょっ!? ルピーちゃん!? こんなとこで脱ぐつもり!?」
その暴挙に興奮して手に汗握るスケベ野郎達と、あわあわ慌てふためく純情少女。
そんな彼らとは対照的に、酷く冷め切った顔で片手を振り上げたシオンは……
「やめれアホ」
「んにゃっ!?」
スパンッ! と、軽快な音を立ててルピナの頭をシバいた。
「そんなに自慢なら、好きでもねぇ男共に安売りすんな」
「うぐっ……」
「おら、さっさと回っちまうぞ。お前らがバカやってるせいで夕飯に間に合わなかったら、今度こそフィナがブチギレる」
「はっ!? それは不味いです! 最近のフィナさんは私に厳しいので、そろそろ夕飯抜きの刑になるかもしれません!」
「自覚あるなら自重しろや……」
何事も無かったように、いつも通りの漫才をしながら歩いて行くシオンとルピナ。
「……ずるいなぁ」
並んで歩く大きさの違う二つの背中に、イリスは拗ねたような顔で呟いて、トコトコと後を追いかけた。
「「「………ずりぃっすよ。兄貴ぃ」」」
そして、女に縁の無い者にはハーレムラブコメにしか見えないその光景に、『自警団』の男達は嘆きの声を漏らすのだった。
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