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+++ 過ぎゆく面影 +++(2)



「いやぁ、ごめんね。ウチまでご馳走になっちゃって。お礼に、掃除でも洗濯でも、何でもお手伝いするよ!」


 むんっ、とガッツポーズでやる気を見せるイリスだが、朝食の席にはどこかシラーっとした寒々しい空気が流れていた。


「イリス姉ちゃん、家事とか出来んの? すげー鈍臭そうだけど」

「われおもう。むりすんな」

「辛辣っ!? ちびっ子達シビア過ぎない!?」


 予想外の評価の低さにイリスは目玉が飛び出さんばかりクワッと瞼を開く。そういう無駄なリアクションの良さが舐められる最大の要因だと、本人は気付いていない。


「えっとその、イリスさんはまだこの町に来たばかりですし……そうだ! 兄さん。町周りのついでに、案内してあげたら?」

「あ? 押し付けんなよ面倒臭ぇ。別に大して広くもねぇんだし、一人で勝手にうろうろしてりゃ良いだろ」

「優しさで広げられた傷口に唐辛子刷り込まれたよ! ねぇここ教会だよね!? 全然救いが無いんだけど!?」


 まあ私は魔王だから当然だけどね! ……とは、流石に口に出さなかった。喉元まで出掛かったが。 


「もぐもぐもぐっ……ゴクンッ。あ、町周りなら私も付いて行きますよ? ついでに町の皆さんのお困り事を聞いて、便利屋さんのお試し営業です!」


 一人だけ朝からお代わりしたパン(シオンにしばかれそうになったがフィナが止めている隙に強奪した)を口一杯に詰め込んでいたルピナは、マイペースにしれっと同行を決める。流石の穀潰しクオリティーである。


「そうか。じゃあ俺が困るから、絶対付いて来ないでくれ。代金はテメェが食い潰した飯代から引いといてやるよ。ありがたく思え」

「絶対付いて行きます!」

「チッ、鬱陶しい」

「うぅ……ルピーちゃんの鋼のメンタルが羨ましい」


 シオンの嫌味や圧に一切屈しないルピナと、些細な事でも敏感に反応してしまう自分を比べてイリスは落ち込んだ。比較対象がおかしい事に早く気付かなければ、手遅れになるかもしれない。


「そんなに暇なら取り敢えず礼拝堂の掃除手伝え。昨日は魔族共のせいで人の出入りが多かったんだ。タダ飯食った分、気合い入れてキビキビ働けよ」

「っっ!? う、うんっ! 勿論!」


 シオンの口から『魔族』と聞いて、イリスは思わず返事に詰まりかける。


「そう言や、イリス姉ちゃん昨日はどこに隠れてたんだ?」

「(ビクッ!?)」

「すがたなきどうけ?」

「(ビクビクゥッ!?)」


「言われてみれば、確かに礼拝堂ではお見かけしませんでしたね?」

「ちょ、ちょうど山へ芝刈りに行って川で洗濯しててね!」

「昔話の年寄りかよ。洗濯はともかく芝刈りは意味分かんねぇだろ」

「イリスさん……、もしかして……」

「え、ええっと!?」


 訝しげな顔でじっと見つめて来るフィナの視線に、予想外に早く覚悟を決める時が来てしまったのかとイリスはもう隠せないほど(元々隠せていないが)狼狽える。

 まさか和やかな朝食の席で、自分が“魔王”だと明かす事になるとは。

 だが、遅かれ早かれ、その時はやって来るのだ。命の恩人である彼に、“感謝”と“謝罪”を受け取って貰う為に。


「そ、その、私っ」

「野宿してるんですか?」

「へ?」


 眉を下げ、憐れむように声を落としたフィナに問い掛けられ、イリスは目を丸くする。


「ふむ。芝を刈ってまで山奥で野営とは、中々気合の入った旅芸人さんですね」

「えっ、いや、違っ!? くもないけどっ!?」

「どっちだよ」


 コクコクと勝手に納得して感心しているルピナの横で、シオンは疑わしげな半眼をイリスに向ける。流石に挙動不審過ぎたようだ。


「兄さん……」

「駄目だ。ちゃんと拾ったとこに戻して来なさい」

「ま、まだ何も言ってないでしょ?」

「そのツラ見りゃ分かる。いくら何でも、これ以上穀潰しは飼えないからな。流石に面倒見切れん」

「むぅ……」


 乞うように袖を摘んで見上げて来るフィナに、シオンはキッパリと否やを告げる。完全に捨て猫を拾って来た子供と親みたいなやり取りだが、主語は言うまでもなく。


「あ、あの、もしかしてウチの話してる?」

「もしかしなくても、私を罵倒してます?」


 タイプ違いだが絶世と言って良い美少女二人が瞳をウルウルさせて(一人は完全に嘘泣き)コテンと首を傾げてシオンを見ている。

 シオンはそんな彼女らを、台所に出た害虫を見るような目で見ている。


「いくら緩いど田舎の町だからって、いつまでもタダ飯食らいの居場所があるとか、本気で思ってる訳じゃねぇよな?」

「「キビキビ働かせて頂きます!」」


 シュタッと揃って立ち上がった美少女(穀潰し)×2は、競うように素早く食器を片付け、礼拝堂に早歩きで向かった。


「………はぁ〜〜」


 そんな二人の華奢な背中を、シオンはクソデカため息を吐き出しながら見送った。


「ふふっ」


 そしてフィナはこっそりと、哀愁漂う兄の背中に笑いかけるのだった。


お読み頂きありがとうございます!

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