+++ 月の光に抱かれて +++(6)
「聖女になれないと知って挫折した時も、勇者を目指す旅に出る時も、お父様、何も言ってくれなかったじゃないですか」
ルピナは不安げな、それでいて何かを期待するような震える声を漏らす。
シオンはジニアに胸ぐらを掴まれたまま、「はぁ〜」と面倒臭そうなため息を吐き出す。
「………私には、何も言う資格は無いと思っていたんだ」
「続けてて良いから、取り敢えず下ろしてくんね?」
下ろしては貰えないらしい。
「どうして、そんな事を……?」
瞳を潤ませて自身を見上げるルピナを見て、ジニアは観念したように溜息を吐き出し、語り出す。
「はぁ……魔王討伐の旅に同行する以前、私が聖女の教育係をしていた事は知っているだろう? ……その時、私は自分が教育者として全く向いていない事を痛感した。だから、ルピナには余計な事は言わず、伸び伸びと自由に育って欲しいと願い、対話を控えていたのだ」
「そうだな。魔獣で大聖堂の入り口ぶっ壊しながら突っ込んで来て、人の胸ぐら掴んだまま娘と会話する奴は教育者とか向いてねぇわ」
シオンは扉を破壊した罪をさりげなくジニアに丸々押し付けた。
「責任転嫁するつもりは無いが、お前も私の教育者としての心を折った一因なのだぞ、シオン」
「あ? 何だよそれ?」
ジニアはようやくシオンの胸ぐらを離すと、どこか遠い目をして語り出した。
「傲慢と言われればそれまでだが、私はお前にも、親心のような物を抱いていた。共に旅をした時間は二年にも満たないが、側に居る大人として、すり減っていたお前の心を救い、せめて未来は明るい物にしたいと、本気でそう考えていたのだ」
「っ! ……パーティの連中には、十分過ぎるほど俺は救われたよ。その証拠に今もこうして、しぶとく生きる道を選んだんだからな」
時を経て言葉にされたジニアの思いに、シオンはむず痒そうに頭を掻く。
「いいや、全く十分では無い。特に教育という面においては、アメリアという“悪しき前例”があったにも関わらず、私はまたしても失敗したっ!」
「あ、これそういう話?」
拳を握り締めて悔しげに歯噛みするジニアを見て、シオンは感動とかシリアスとかそういう雰囲気の流れでは無いと遅まきながらに悟った。
「最初は口数が少ないだけで割と普通だったのに、年々チンピラのように荒くなっていく言葉遣い! 面倒くさくなるとすぐ暴力で解決しようとする悪癖! 脅迫や恐喝なんて日常茶飯事! 性格は捻くれに捻くれて素直さなど微塵も残っていない! 一体、私はどこで何を間違えたのだ!?」
「主にブチギレた時のアンタの影響じゃね?」
「アメリアは優秀なくせに全く真面目に勉強せず、礼拝の時間にはいつも居眠り! おまけにどれだけ諌めても口を開けば下ネタやセクハラ三昧! ……それに、そこのクソガキ(国王)が新王になってからは私が側に付いて補佐を務めているのだ……。こんな問題児ばかり育ててしまった私が、娘の教育に口を出せるわけが無いだろう!?」
「「「(それはそう)」」」
皆めちゃくちゃ納得していたが、口に出さない分別はあった。
「あの師匠が、アメリア様が幼い頃はそんなに問題児だったなんて……」
「いや死ぬまでそのまんまだったぞ?」
「信じたくないっ!!」
ウワッと顔を手で覆ったルピナに、ジニアは生温かい目を向ける。
「すまないルピナ。聖女になりたいと言う夢の助けになればと、苦渋の決断の末アメリアに引き合わせはしたものの……お前がアレを師匠とか呼び出した時は、発狂するのを抑える為に一月くらい毎晩瓶ごと酒を煽っていたよ」
「信じたくなぁぁぁいっ!!!」
「とんだナマグサ神官じゃねぇか」
イヤイヤと耳を塞いで首を振るルピナの横で、シオンは他人事のように呆れる。
「いやぁ〜感動の再会だねぇ」
「「どこが?」」
その横で、完全に他人事な戯言を抜かしている国王に、シオンとルピナは綺麗に揃ってジト目を向ける。
「まあまあ。何はともあれこれで全部丸っと綺麗に収まった事だし、良しとしようじゃないか」
「何一つ収まっていないが? 主に私の怒りとか」
無駄に爽やかに笑うウルに、ジニアが再び青筋を立てる。
だが、ウルはそんな彼に怯むどころか、寧ろ笑みを深くして一歩詰め寄った。
「いいや、収まったんだ。エルが来てくれたお陰でね。……ふふっ。まさか、ガッツリ勇者の格好で『聖剣』まで顕現させて来てくれるとは思って無かったけど、結果的にそれが『彼ら』には良く効いた」
「シオンが……? っ!? もしや、『彼ら』とは……」
ハッとしたように目を見開いたジニアから、緊張感が走る。
ウルは笑みを崩さず、ただその瞳に妖しげな光を湛えて、シオンを見た。
「うん。“新たな聖剣と勇者を造ろうとしていた連中”さ。……ここまで言えば、僕が何でこんな茶番を用意したのか、分かるよね?」
お読み頂きありがとうございます。
コントなのか説明回なのかよくわからない時間がダラダラ続いてすいません。でもこういうの好きなんです…。
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