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+++ 月の光に抱かれて +++(7)


「うん。“新たな聖剣と勇者を造ろうとしていた連中”さ。……ここまで言えば、僕が何でこんな茶番を用意したのか、分かるよね?」



 そう告げられた瞬間、シオンの全身から放たれた凄絶な殺気が、大聖堂を呑み込んだ。

 


「ぇっ……ぁっ!?」

「っっ、シオン! 己を見失うなっ!」


 血風の嵐を幻視するほどの殺意の暴威に、腰を抜かしたナルキスなどは呼吸困難に陥り、ジニアは表情を険しくして身構える。


「なんっ、だと……?」


 ギリギリと奥歯を噛み締める音を鳴らしながら、まるで壊れた人形のようなギクシャクとした仕草で、シオンは聖剣に手を掛けた。

 



「てい」




 ………その手を、少女の華奢な手がはたき落とした。

 まるで、つまみ食いしようとする子供を諌めるような、軽い調子で。


「っ!?」

「「「っっっっ!?」」」


 途端に、シオンが放っていた殺気は霧散し、少女の無謀とも思える行為に皆が目を見開く。

 

「私を置いてけぼりにして、勝手にシリアスな雰囲気にならないで下さい! 不愉快です!」


 ………が、当の本人はケロッとした顔でフンスと鼻息を漏らしながら腕を組み、不機嫌そうに仁王立ちしていた。


「………っはぁぁぁ〜。お前って、ホントお前だよな」


「??? 急に褒めるなんて、どうしたのです?」

「どうかしてんのお前なんだわ。………ふっ」


 いつも通り素でボケをかまして来るルピナに、シオンは肩の力が抜けて思わず笑ってしまう。


「ほう……」

「ふ〜ん」


 そんな二人へ、ジニアは感心したような、ウルは少し拗ねたような視線を向けていた。


「?? ……まあ良いです。それより、聖剣や勇者を“造る”とは、どういう意味ですか? 私の今後の方針にも関わるので、きちんと説明して下さい」

「それは……いや、お前は知らなくて良い。そもそも、お前が目指そうとしてる勇者と、連中が造ろうとしてるそれは別物だ」

「だから、それはどう言う……」


「ルピナ。シオンの言う通り、この話はお前が知る必要の無い事だ。いや、知らない方が良い。すまないが、ここは堪えてくれ」

「っ、お父様まで私を除け者にするのですか!?」


 揃って話すつもりは無いと言わんばかりに目を逸すシオンとジニアに、ルピナは苛立たしげに詰め寄る。


 だが、彼女が再び口を開くまでも無く、答えは齎された。



「“人造勇者計画”」



 その瞬間、シオンとジニアは反射的に声の出所……ウルを睨み付けた。


「テメェ……何の真似だ?」

「陛下。どう言うおつもりか?」

「怖いなぁ〜。そう睨まないでよ。てかさ、二人ともちょっと過保護過ぎるんじゃない?」


「人、造……?」


 言葉とは裏腹に、ウルは微塵も恐怖など感じていない様子でヘラヘラと笑い、不穏な響の言葉にどこか怯えた様子のルピナに肩を竦めて見せる。


「ルピナちゃんがその辺に居る普通の女の子なら、確かに知らない方が良いかもね。でも、それは今更でしょ? だって、彼女は元勇者パーティーの神官ジニア・イキシアの娘で、あの計画を終わらせた最後の勇者エリュシオンとも既に縁を結んでるんだよ? 君らが何と言おうと、連中からすれば立派な“こちら側の関係者”だ。当事者と言い換えても良い。何も知らない方が、よっぽど危ないと思うけど?」


「「っっ……!」」


 二人の口から、反論は出なかった。それは、無意識に彼らが目を逸らしていた事実に他ならないからだ。


「この偽結婚式は、君達にとって良いモデルケースになったんじゃない? 今回は僕が仕組んだ茶番だったけど、もし敵が君達の手が届かない場所で彼女を狙ったらどうするの? 本物の悪人は、悠長にヒーローが駆けつけるのを待ってなんかくれない。……なんて、僕なんかに言われるまでも無く、君達勇者パーティーは、誰よりもそれを思い知ってるよね?」


「………ちっ」

「はぁ……。この件に関しては、我々の考えが甘かったと認めざるを得んな」


 たとえ、“実情”がどうであろうと、勇者とその仲間達は、民衆にとって『英雄』だった。


 救いを求める声は数え切れないほど耳に届いた。

 けれど、必ずしもその全てに応えられた訳では無い。……身内ですら、守り切る事が出来なかったのだから。


「分かって貰えたみたいだね。自衛の為にも、ある程度は情報共有しといた方が良いんだよ。……あ。そう言う話だともう一つ、僕はエルとイキシア卿に少し怒っています」

「「???」」


 ピンッと人差し指を立てて、どこか芝居がかった様子でムッとして見せる国王に、シオンとジニアはキョトンと目を見合わせる。


「いやいや分かるでしょ。せめて僕には、エルの居場所を教えてくれても良かったんじゃない? って事だよ」

「「あ……」」


 またもや揃って「しまった」と言いたげに口を開けた二人に、国王は分かり易い呆れ顔を見せる。


「はぁ〜あ。せっかくあの手この手で国王になったのに、エルは全然会いに来てくれないし、イキシア卿は『どこかで平和に暮らしている』の一点張りで全然話そうとしないし。寂しかったなぁ〜。すっごい頑張ったのになぁ〜」

「いや、お前が国王になるとか想像もして無かったんだから仕方ねぇだろ」

「じゃあ知ってたら会いに来たの?」

「………」

「そういうとこだよ」


 サッと顔を逸らしたシオンに、国王は子供のように口を尖らせた。


「それについては私に責任がある。……アメリアは、シオンに平和な暮らしをさせたいと望んでいた。政治の厄介事に巻き込まない為には、徹底的に情報を隠蔽する必要があったのだ」


 シオンに助け舟を出したのは、眉間に皺を寄せて難しい顔をしているジニアだった。


「理由は何となく分かってたけど、お互いに保険はあった方が良いでしょ? 一人くらい協力者を増やしても良かったんじゃない?」

「もっともな話だが、陛下。こちらも言わせて貰えれば、戴冠して以降突飛な政策ばかり打ち出す貴方の面倒を見るので、私は精一杯だったのだ。娘も旅に出たまま帰って来ないし……。正直、最近はシオンの事まで気にかけてやる余裕は無かった」


「おっと、こっちは藪蛇だったか」

「ちょっと、何か私まで怒られたみたいな感じになってるんですが?」

「まごう事なき説教だろ。お前ら反省しろよ」

「「エル(シオンさん)にだけは言われたくない(です)」」


 クソガキ国王とポンコツ侯爵令嬢が初めて意気投合した瞬間だった。


「そんなどうでも良い事より! 良い加減、その『人造勇者計画』とやらについて教えて下さい! お二人がやたら親しげな事にも関係あるのでしょう?」

「そっか〜。どうでも良いか〜。別に気にして無いけど、一応僕、国王だからね?」

「??? もう知っていますが?」


 全く目が笑っていない笑顔を向ける国王に、ルピナはキョトンと首を傾げる。本当にどうでも良いらしい。


「図太いなぁ……あんまイキシア卿に似てないね。ま、それを言ったら僕とエルも、性格は正反対なんだけど」

「はい? 私とお父様が似ていない事と、貴方とシオンさんの性格が対照的な事に何の関係があるのですか?」

「ルピナ。あんまり似ていない似ていないと言われると、お父様、傷付くんだが?」

「今大事なとこだからちょっと黙ってろ親バカ。いや、バカ親か」


 シオンは話が脱線する前に、ジニアの襟首を掴んでルピナから引き剥がす。


「さっき気付きかけてたじゃん。同じ面影がある、って。それが答えだよ」

「っ! ………まさか、兄弟、なのですか?」

「その通〜り! って言っても、どっちが兄で弟なのか、僕らにも分かんないんだけどね? まあでも、気持ち的には僕がお兄ちゃんです。……痛ぁっ!?」


 むんっ、と戯けた仕草で胸を張るウルの頭に、いつの間にか背後に居たシオンがストンとチョップをかます。


「どの口で言ってんだ。昔はビービー泣いてばっかだった癖に」

「何するんだよ〜。それを言ったら、エルだってろくに喋らなかったじゃん」


 下らない事で言い合いをするシオンと国王を見て、ルピナは二人が兄弟だという話が腑に落ちた。


「なるほど………ん? んん!?」


 そして同時に、とんでも無い事実を聞かされている事に今更ながら気付く。


「ちょ、ちょっと待って下さい!? じゃあもしかして、シオンさんも王子様だったという事ですか!?」

「違う」

「ええっ?」


 物凄く嫌そうな顔で即否定したシオンに、ルピナの頭は激しく混乱する。


「まあ、厳密には違うよね。僕らは“認知”されて無かったし。と言うか、パパは僕らの存在自体、六年前まで知らなかったんだよね」


「「パパ?」」


「陛下……前王をそのように呼ぶのはおやめ下さいと、何度も申しているでしょう」

「ええ〜? 良いじゃん別に。本人は喜んでるんだし」

「良い歳の息子にパパ呼ばわりされて喜ぶ前王の姿を見せられる家臣の気持ちにもなって下さい! 居た堪れないにも程があります!」


 ジニアの魂の叫びを聞いて、その状況を想像したシオンとルピナは「うわぁ……」と、鳥肌をさすりながらドン引きする。


「まあそこは要検討って感じで置いといて」

「署名を募って正式な嘆願書を提出しますよ?」

「『人造勇者計画』って言うのは要するに、父上の『子種』を使って“聖剣に適合する子供”を造ろうって言う計画だったんだよ」


 ぬるっと前王の呼び方を変えて、国王はさらりと核心に踏み込む。


「聖剣に、適合……?」


 ルピナは反射的に、シオンが腰に携えている聖剣に視線を向ける。


 柄から鞘の先に至るまで、白銀に輝く美しい剣。


 ……ただ、鍔に埋め込まれた真紅の宝玉からは、どこか異様な気配が漂っていた。

 永遠に見つめていたい妖しい魅力を放っているようにも感じるが、同時に、酷く悍ましい物であるような怖気も感じる。


「……ああ、そういやもう“消して”良いか。失せろ、ナマクラ」

「へ? ……っ!?」


 シオンが柄を握り締め目を眇めると、聖剣はまるで抵抗するかのように束の間ブルブルと震えたかと思えば、彼の手の中に吸い込まれるようにしてその姿を消した。


 すると、色が抜け落ちたような白髪は元の煤けた灰髪に、紅と黄金の瞳は漆黒に戻り、血染めの騎士服以外はいつも通りのシオンの姿へと戻る。


 ルピナはその変貌に改めて目を見開き、ナルキスなどは腰を抜かしたまま「や、やはりあの時の牧師っ!? あわわわわわっっ!?」などと泡を吹いている始末だ。


「とまあこんな感じで、聖剣は適合者と一体化するんだけど、僕ら『実験体』の中で成功したのは、エルだけなんだ。……だから、“勇者にされた”」

「………」


 国王……否、幼い少年の頃の表情に戻った“ウル”の皮肉な言い回しを、シオンは否定しない。

 それは彼が、本心では勇者になどなりたくは無かった事を物語っていた。


「で、でも、何故そんな計画に、前王の、そのぉ……」


 恥じらうようにモジモジと頬を赤らめるルピナに、シオンは目を見張る。


「え? お前、下ネタが恥ずかしいって概念持ってんのか?」

「んなっ!? ととっ、当然でしょう!? 淑女に向かって何て事を言うのですか!?」

「シオン貴様っ!? 人の娘に向かってセクハラとは何事だ!?」

「ハハッ。話進まねぇ〜」


 ウルは思った。彼等は漫才しなければ会話出来ない呪いにでも掛かっているのだろうか、と。


「ああ、悪い。あいつの事を師匠とか呼んでるから、俺はてっきり……」

「そう言う意味で師匠と呼んでいた訳では無いのですが!?」

「ルピナと会わせていた時は、不埒な発言など出来ぬよう私が厳しく見張っていたからな!」

「うん。聖女アメリアがちょっとアレな人だった事とイキシア卿が親バカなのは良く分かったから、話進めて良い?」


 ウルが笑顔のまま微妙に圧を強めると、流石にシオンと親娘も漫才を止めて彼を見る。


「コホン……。父上の子種が『人造勇者計画』に必要だった理由は単純だ。強い遺伝子が欲しかったからだよ。所謂世間一般で言う『尊い血』って言うのは、貴族に流れてる血の事だよね? では何故、彼らの血が尊いのか。それは、この国が建国された時に武勲を上げた、英雄達の血を引いているからだ」

「……なるほど。貴族の血を引いている者は、私のように魔法適正が高い事が多い」


「そう言うこと。当然、その頂点に立つ王家の血なら尚更その可能性が高い。ついでに言えば、長年暗殺対策で毒にも慣らされてるから、実験の過程で薬物を投与しても簡単に壊れない肉体的な強度も期待出来る」

「そんな理由で……っ」


 シオン達がどのような扱いを受けていたのか、朧げながら想像したルピナは思わず口元に手を当てて顔を青くするが、ウルはそんな彼女の反応に構わず、軽い調子で話を続ける。


「しかも知っての通り、父上は悪い人では無いんだけど、昔から好色だったからねぇ。適当に女を見繕って近付ければ子種は簡単に手に入ったろうし、子供が出来てるかどうかなんて相手に申告されなきゃ知りようが無い。そうやって、僕ら『実験体』は影で“量産”されて……」


「おいウル。もうその辺で良いだろ」


 と、饒舌に語っていたウルの言葉を、シオンの疲れたような声が遮った。


「ええ〜? ここからが良いとこなのに〜?」

「これ以上は聞いても気分が悪くなるだけだ。要するに、王家すら利用して自分達の目的を果たそうとしてる危ねぇ連中が昔居た。そんで、また似たような悪さをするかもしれねぇ連中が出て来た、って事をコイツが理解したら、それで良い」

「ちょっ、シオンさん!? 幾ら何でも雑に纏め過ぎでは!?」


「うるせぇ。ジニア、もう十分だよな?」

「……当事者のお前がそう言うなら、私は何も言えん。陛下も、ご自重下さい。これ以上は、彼の尊厳にも関わる」


「まあそう言われたらねぇ……。でも、ちょっとくらいエルの格好良い活躍のとこも語りたかったなぁ〜」

「何ですかそれ!? メチャクチャ気になるんですが!?」


 拗ねたように口を尖らせたウルの言葉に、ルピナが目を輝かせて食い付く。

 そんな彼女のリアクションに、シオンはいつもの様に呆れる、のでは無く、表情を消して、静かに俯いた。


「ふふっ、聞きたい? それはねぇ……」


 ニヤニヤと楽しげにウルが口を開いた、その時。



「俺が勇者になった後もコソコソ計画を続けてた連中を、ブチギレて皆殺しにしただけだ。その俺を庇ったせいで、アメリアが罪人扱いされて王都から追放された。以上」


 シオンはウルの言葉に被せて、淡々とまるで他人事のように過去を……己が罪を打ち明ける。


お読み頂きありがとうございます。

もう少しギャグとシリアスのメリハリを付けたいという気持ちはあるのですが、キャラが喋ってるとすぐふざけさせたくなってしまうんです……。稚拙な文章力ですみません。

ご意見、ご感想等、良ければ頂けると幸いです。

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