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+++ 月の光に抱かれて +++(4)




「こいつは俺の女だ。悪いが、誰にもくれてやる気はない」




 その瞬間、時が凍り付いたような静寂が舞い降りた。



「………ふぇっ?」



  数秒後、熟れたイチゴの様に顔を真っ赤に染めたルピナが、愛らしくも間抜けな声を漏らすまでは。



「「「ええええええええええっっ!?」」」

「「「なぁぁぁぁぁっっっっっっ!?」」」

「ななななっ、何ですとぉぉぉぉっっ!?」



 それに続いて、参列者達とナルキスが驚愕の絶叫を大聖堂が割れんばかりに響かせた。



「………ぶっ、あはははははははっっ!? あ〜無理! もう我慢出来ない!」



 ……そして、それまで俯いて表情を隠していた新王が突然発した大爆笑が、更なる混乱を呼ぶ。


「っっ!? こ、国王陛下!?」

「いやぁ〜最高だよ! 面白い事になれば良いなぁ〜くらいには思ってたけど……まさか、こんなに愉快な再会になるなんてねぇ? “エル”?」


 訳の分からない事態にグルグルと目を回すナルキスを無視して、新王はパチパチと手を叩きながら心底愉快げに笑い、勇者に歩み寄った。


「っっ!? お前……」

「あ、ちょっと待ってね」


 そして、何事か問いかけようとした勇者を軽い調子で片手で制すと、更にとんでも無い事を言い出した。


「は〜い解散解散! この結婚式は中止にしま〜す! 申し訳ないけど、参列者の皆さんはお帰り下さ〜い!」


「「「っっ!?」」」


 微塵も申し訳無さなど感じさせない爽やかな声音で告げた新王に、参列者は混乱したのも束の間、意味不明な茶番に付き合わされた怒りと反感が沸いてくる。


 ……だが。


「勇者エリュシオン。彼を呼び戻す為に、一芝居打たせて貰ったんだ。……この意味、分かるよね?」


「「っっ……!!」」


 主に古参の貴族や高位神官達が固まっている方へ新王が流し目を送ると、参列者の反応は真っ二つに割れた。


 未だ困惑や反感を抱く者と、顔を青ざめさせたり神妙な表情になる者達。

 言うまでも無く、後者は流し目を送られた者達だ。


「別に残りたいなら残っても良いけど、どうする?」


 ニコッと屈託の無い笑顔で新王がそう問いかけると、古参の貴族達は互いに目配せし、やがて率先して他の貴族達を引き連れ、大聖堂を出て行った。

 高位神官達もまた、苦虫を噛み潰したような顔で大聖堂を後にする。


 ………そうして、残ったのは新王と勇者、そして先程まで主役だったのに何故か場違い感のあるナルキスと、顔を沸騰させたまま勇者の腕の中で呆けているルピナだけとなった。


「お待たせ。エル。取り敢えず、その仮面外したら?」

「ちっ……。おい、立てるか?」


 楽しげに笑いかけてくる新王に舌打ちを一つ漏らし、勇者は億劫そうにルピナに問いかける。


「…………ふぇ? あ……はっ、はいっ!」


 やや間を空けて、ようやく自身に向けられた言葉だと認識したルピナは、慌てて勇者の腕から飛び降りた。


「はぁぁ……ったく」


 すると、勇者は脱力するように肩を落としながらため息を吐き、漆黒の仮面を外す。



「っっ!? そ、その顔は!? あ……あああああああああああああああっっ!?」



 不機嫌そうに眉間に皺を寄せる目付きの悪い勇者の顔を見て、ようやくナルキスはその正体が、辺境の教会で足蹴にした牧師だと悟る。


 髪や瞳の色が記憶と異なる気はするものの、殺されかけた時に間近で目に焼き付いた獰猛な顔立ちは、忘れようも無い。


「………」


 だが、当の勇者……シオンは、そんなナルキスの反応をサクッとスルーして、呆れの眼差しをルピナに向けていた。


「な、何ですか?」

「別に。思ったより元気そうでちょっとイラついただけだ」


「何で私が元気だとイラつくんですか!?」

「はぁぁ〜〜〜」


 正気に戻った途端、早速声を張り上げてツッコんで来るルピナに、シオンはますます力が抜け、その場に行儀悪く屈んで座り込む。

 いわゆるウ○コ座りである。とても『勇者』と呼ばれた者の振る舞いとは思えない。


「仲が良いねぇ〜? 昔のエルは女の子なんて微塵も興味無さそうだったから、もしかして死ぬまで童貞なんじゃ無いかと思って心配してたんだけど、杞憂だったかな?」

「いや何もしてねぇよ。てか、その呼び方やめろ。今の俺は“シオン”だ」


 ニヤニヤと愉快げに顔を覗き込んでくる国王を、シオンはまるで羽虫にそうするように手で払う。


「ええ〜、良いじゃん。今はもう、僕ぐらいしか呼ばないんだからさ」

「ウゼェ絡み方は相変わらずだな……。んな事より、“ウル”。テメェ……どうやって国王なんかになりやがった? そもそも、表に出て来れるような人間じゃねぇだろ」


「エルがあの場所を全部ぶっ壊してくれたお溢れだよ。まあ、前王の罪悪感はちょっと利用したけどね。それに、『資格』なら、一応エルにもあるでしょ?」

「………ちっ」


 意味深に口元を歪めた国王、ウルからシオンは眼を逸らし、心底煩わしいと言わんばかりに舌打ちする。


「あの、先程から二人にしか分からない会話をされているようですが、私にも分かるようにお話しして頂けませんか? と言うか、シオンさんが“勇者”ってどういう事です!?」

「コクコクッ!」


 それまで黙って大人しく二人のやり取りを聞いていたルピナだが、とうとう我慢の限界が来たようで、堰を切ったように質問をぶちまける。

 ……そして、混乱のあまり言語能力に異常をきたしたのか、ナルキスはメガネを置き去りにする勢いで頷くだけの人形となった。


お読み頂きありがとうございます。

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