+++ 夢のほとり +++(3)
ガシャーンッッッ!!!
「「「「っっっ!?」」」」
子供達に指示をしようと口を開いた、その時。
突如、礼拝堂の方から不吉な破砕音がシオン達の耳に飛び込んで来た。
「ちっ!? まさか、奴らっ!?」
嫌な想像が脳内をチラつき、シオンは宿舎から飛び出すと、矢のように礼拝堂まで駆け抜けた。
開け放たれた扉の前まで瞬く間に辿り付き、中の様子を確認する手間すら惜しんで怒声を響かせる。
「おいっ、テメェら!? 何、を……っ」
だが、シオンは自身の視界に飛び込んで来た光景に、途中で言葉を失った。
神官ナルキスは、あわあわと口元を押さえ、腰を抜かしている。
……砕け散った、女神像の前で。
「「「っっっっっっっっっっっ!!??」」」
血風の嵐。……否、そう錯覚するほどの凄絶な殺意の暴風が、礼拝堂に吹き荒れる。
「…………っっ!!」
ダンッッ!! と、地面が抉れる音が響いた。
「あがっ!? ゛あ゛あああああああっっ!?」
その直後、苦しげに濁ったナルキスの絶叫が木霊する。
「「「っっ!?」」」
竦み上がっていた騎士達は、その声に我に帰る。
「っっ、ナルキス様!?」
そして、目にした。
漆黒の法衣を纏う牧師が、万力の如き力でナルキスの顔を掴み、壁にめり込むほど強く押し付けている様を。
「“何を、している?”」
「あっ!? あっ、がぁぁぁっっ!?」
聖職者どころか、人のそれとは思えない奈落の底から響いたようなその声に、激痛に喘ぐナルキスは答える事が出来ない。
騎士達もまた救出の意思はあれど、本能的な畏怖に硬直した身体が、言うことを聞かない。
「“答えろ”」
「ぐっ、ぅぅぅっ!? わっ、わだしはっ、私は悪くない! め、女神像の、下にっ、秘宝を隠して、いるのではとっ! そ、それでっ……!?」
ナルキスの神官服から金色の光が立ち上り、ギリギリと音を立てて僅かにシオンの手を押し返す。……どうやら、防護の魔法が付与されているらしい。
そのお陰で壁にめり込んでも後頭部が潰れず、今も何とか声を発する事が出来たようだ。
「そ、そうだ! これは事故なのだ! だから、ナルキス様を解放してくれ!?」
「“黙れ”」
「っっ……っ!?」
ギロリと片目だけ向けたシオンの眼光が突き刺さると、声を発した騎士は呼吸困難にでも陥ったかのように息を詰まらせてへたり込んだ。
「い、田舎の牧師如きがっ!? こっ、ここっ、高位神官であるこの私にっ、このような不敬っ、許されると思っているのかっ!?」
法衣の力を借りて尚、ビクともしないシオンの腕を必死に掴んで引き剥がそうとするナルキス。
無様に権力を振りかざす事も躊躇わず声を張り上げるが、殺意に支配された牧師は、恐れるどころかより凶悪に瞳孔を開いた。
「“帰れると思っているのか?”」
「ひぐっっ!?」
法衣の防護魔法が、許容量を超えた凄まじい圧力に悲鳴を上げたかのように明滅する。
今にも消えそうな薄い光のベール一枚に己の生死がかかっている状況をようやく実感し始めたナルキスは、全てを飲み込む深淵の如きシオンの瞳を覗き込み、言葉を発することすら出来なくなった。
「“もういい……死ね”」
ナルキスの顔を締め上げるシオンは、手の皮膚が裂け血が溢れ出す事も構わず防護魔法を喰い破り、頭蓋を握り潰そうとした。
「兄さんっっ!! だめぇぇぇっっ!」
………その直前、悲痛な少女の絶叫が礼拝堂に木霊する。
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