+++ やすらぎの風に誘われて +++(2)
「オラ。脇がガラ空きだぞ? いちいち大振りしてっからそうなんだよ間抜け」
「痛ぁ!? ちょっ!? 乙女の脇腹をぶたないで下さいよ! 寸止めで良いでしょう!?」
その辺で拾って来た太めの木の枝で、隙を突いて容赦無く脇腹をぶん殴るシオンに、ルピナは涙目で悲鳴を上げる。
……因みに、ルピナの方は自前の“真剣”を使っている。
シオンと同じように木の枝を取りに行こうとしたのだが、「あ? どうせ当たらねぇんだから普段の得物で良いだろ」と、親切に煽られた結果である。
「痛みが無きゃ危機感が染み付かねぇんだよ。文句言ってねぇでさっさと立てや。甘ちゃんが」
「くっ!? 軽い組み手と聞いていたのに、話が違う!?」
「俺は汗一つかいてねぇけどな」
自分で望んだくせに早々に根を上げそうなルピナを、シオンは半眼で見つめる。
確かに、魔力による身体強化の腕はそこそこだ。その証拠に、割と強めに打ち込んだにも関わらず、無防備な脇腹を殴られても泣きべそかく程度で済んでいる。常人なら悶絶して声も出なくなるところだ。
加えて、相変わらず動きはゴミカスだが、やはり剣を振る速度だけは規格外で、考え無しの一人旅でもその辺のゴロツキや魔物相手に引けを取らなかったのは頷ける。
だからこそ……。
「何て言うか、ホント残念だなお前」
「唐突な罵倒!? っっ、まだまだぁ!!」
シオンの素直すぎる感想に湧いた怒りをバネに、ルピナは立ち上がる勢いを利用して再び斬りかかる。
「だから、んな分かり易く突っ込むなや。ザコ相手ならともかく、戦い慣れてる相手には余裕で読まれてカウンター喰らうぞ?」
「牧師のくせに戦い慣れてる貴方もどうかしてますけどね!」
ヒョイっと軽く躱して詰るシオンに、ルピナは再び涙目になりながら必死に喰らいつく。
「取り敢えず、脇締めて相手を良く見ろ。馬鹿みたいに突っ込むなら突っ込むで、わざと隙作って相手を誘うんだよ。戦ってる最中ってのは、敵を仕留められると思った時が一番油断してんだ。お前みたいに正面から戦ってもどうにもなんねぇ未熟者は、罠なり不意打ちなり奇策なり、その空っぽの頭でも死ぬ気で使ってどうにかしろ」
「いっ、言っている事はわかりますが、いちいち罵倒しなきゃ指導出来ないのですか!?」
「褒める所が無ぇからな」
「うわぁぁぁぁぁっっっ!!」
まともな言葉で言い返す気力すら剣に乗せて、ルピナはがむしゃらにシオンの間合いに突っ込む。正に猪突猛進。話聞いてる?
「兄さ〜ん! ルピーさ〜ん! 朝ご飯出来たからその辺で切り上げて〜!」
「っ! ……ふぅ、仕方ありませんね。今日はこのくらいにしといてあげます」
「お前、鍛錬て言葉の意味知ってるか?」
自分達を呼ぶフィナの声を聞いて露骨に嬉しそうに剣を止め、如何にもやり切ったと言わんばかりに額の汗を拭うポンコツ娘に、シオンは虫ケラを見るような目を向けた。
「腹が減っては戦は出来ぬと言いますから!」
「戦どころかまともな組み手にもなって無かったけどな……んっと」
意気揚々と食堂へ向かうルピナに呆れながらも、「まあちょうど良い朝の運動にはなったか」と、シオンは軽く伸びをしながら彼女の小さな背中に続いた。
「二人とも、朝からお疲れ様」
フィナはそんな二人に少し困ったような笑顔でタオルを渡す。
「ありがとうございます。いやぁ、なかなかハードな鍛錬でした」
「ありがとよ。俺は別に疲れてねぇけど」
「あはは……」
同じように礼を言いつつも対照的な二人の反応に、フィナは歳に見合わぬ大人びた苦笑を浮かべる。どちらが子供か分かったものでは無い。
「おーい、さっさと朝飯食おうぜ。今日は市場に行くんだろ?」
食堂に入ると、待ちくたびれたと言わんばかりにレンが椅子ごと体を揺らしていた。
「そうでした!」
「ああ、んな事言ってたっけな」
レンにせっつかれて、ルピナとシオンは昨日の夕食の席でした約束を思い出す。
今日は午前中だけ教会を閉めて、ルピナに街を案内がてら皆で買い出しに行こうと話していたのだ。
「いのりをささげよ」
「王通り越して神になってんじゃねぇか……。まあ、遅くなって悪かったよ」
どんどん言動が偉そうになっていくリーンの将来を若干心配しつつも、シオンは大人しく席に座り、食前の祝詞を唱えるのだった。
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