第88話「3つの葉」
放課後、柊から連絡が来た。
『話したいことがある。屋上、いい?』
『ああ』
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屋上に着いたら柊がいた。
フェンスの前に立って、空を見ていた。
俺を見て、少し表情が変わった。
「来てくれてありがとう」
「何があった」
柊が手を見た。
「昨日の夜から——何かが変わった気がして」
「能力か」
「うん」柊が俺を見た。「実は前から使えるようになってたじゃない。でも昨日——別の何かが動いた気がした」
俺は柊を見た。
「どんな感じだ」
「根、だと思う」柊が手を見た。「地面に繋がる感じ。凪とは違う。凪は全体を把握する感じだけど、これはもっと——深い。地の底まで繋がっていく感じがした」
「根だ」俺は言った。「繋がりを辿る。地に繋がる全てを感知する。凪より範囲が広い。でも速度は遅い」
「なるほど」柊が頷いた。「実と根が同時に動いた感じがした。なんか、実が根を引っ張った気がする」
「実が育てているものが根を引き出した。順番として正しい」
柊が少し考えた。
「あと——もう一つある気がする」
俺は柊を見た。
「まだぼんやりしてて、形がない。でも何か、ある」柊が俺を見た。「これって何だと思う?」
俺は少し間を置いた。
「さあ」
「さあって」柊が少し不満そうな顔をした。「知ってるんじゃないの?」
「知らない」
「嘘だ」
「知らない」
柊が俺を見た。
俺は前を向いた。
「自分で気づけ」
「意地悪」
「意地悪じゃない」
「十分意地悪だよ」柊がため息をついた。「ヒントだけでも」
「ない」
「本当に意地悪だ」
俺は答えなかった。
柊が空を見た。少し考えている顔だ。
俺は柊を見ていた。
もう一つが何かは——柊が自分で辿り着く。
それが正しい順番だ。
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フェンスに並んで立った。
風が吹いた。柊の髪が揺れた。
「根が出てきてから——夢がまた変わった」柊が静かに言った。「昨日、顔がはっきり見えた」
俺は柊を見た。
「どんな顔だった」
「落ち着いた顔。でも目が強い。あと——声もはっきり聞こえた。名前を呼ばれた気がした」
「名前を」
「うん。私の名前。柊、って」柊がフェンスを握った。「17、この人誰か知ってる? 前に『もうすぐわかる』って言ってたじゃない」
俺はしばらく柊を見た。
「……拠点に来い。今夜」
「今夜?」
「会わせたい人間がいる」
柊が少し息を呑んだ。
「……夢の人?」
「来ればわかる」
柊が頷いた。
ゆっくりと、でも確実に。
「うん。行く」
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夜、柊を拠点に連れてきた。
玄関を開けたら、廊下に瑞樹がいた。
瑞樹が柊を見た。
柊が瑞樹を見た。
しばらく、二人とも動かなかった。
柊の目が、少しずつ変わっていった。
「……あ」
小さな声だった。
「夢で、見た人」
瑞樹が柊を見た。
目が、少し揺れた。
「……柊ちゃん?」
「知ってるんですか、私のこと」
瑞樹が小さく頷いた。「夢に入ってしまっていたみたいで。ごめんね」
「謝らなくていいです」柊が首を振った。「怖くなかった。むしろ——安心した」
瑞樹が少し目を細めた。
「そうか」
「はい」
二人が向かい合っていた。
根が、繋がりを辿った結果だ。
夢を通じて届いていたものが、現実で形になった。
俺はそれを見ていた。
何も言わなかった。
言う必要がなかった。
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柊が帰り際、玄関で俺を見た。
「連れてきてくれてありがとう」
「ああ」
「瑞樹さん、色々話してくれた」柊が静かに言った。「……大変だったんだね」
「ああ」
「私の棘がずっとざわついてたのって——瑞樹さんの綻びを感知してたのかな」
「そうかもしれない」
「だとしたら——もっと早く会いに来ればよかった」柊が少し俯いた。
「今繋がった。それで十分だ」
柊が顔を上げた。
「……うん」柊が少し笑った。「そうだね」
柊が歩き出した。
角を曲がる前に振り返った。
「17、最近——棘がすごくざわついてる。何か大きいことが起きそうな気がする」
「ああ」
「私にできることがあったら言って」
「ある」
「え」柊が少し目を丸くした。「何?」
「普通にしていろ。棘と根と実を、ちゃんと育てていろ」俺は柊を見た。「それが今お前にできる最善だ」
柊がしばらく俺を見ていた。
それから頷いた。
「……わかった。やる」
柊が歩いていった。
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深夜。
窓から南の方向を見た。
蚜を薄く展開した。
——近い。
昨日より、近い。
灰島の気配が、じわじわと近づいている。
速くはない。でも確実に。
俺は蚜を閉じた。
明日か、明後日か。
まだわからない。
でも——来る。
必ず来る。




