番外編「咲の師匠伝記!」
~私が見た師匠のすごいところ・ふつうのところ・よくわからないところ~
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其の一「師匠の修行について」
師匠は修行をしているのかしていないのかわからない。
これが弟子として一番困っていることだ。
私が演習スペースで菌根菌を展開して汗だくになっているとき、師匠はだいたい壁に背を預けて腕を組んで立っている。何もしていない。ただ立っている。
でも絶対何かしている。
一度「師匠は修行しないんですか!?」と聞いたら「している」と言われた。「どこでですか!?」と聞いたら「今も」と言われた。立ったまま。腕を組んだまま。
意味がわからなかった。
白瀬さんに聞いたら「17は存在してるだけで修行みたいなもんだよ」と言われた。それもよくわからなかった。
ただ一つだけわかっていることがある。
師匠は私の修行を、一回もサボらずに見てくれている。遅刻もしない。途中でどこかに行くこともない。どんなに忙しそうな顔をしていても、来てくれる。
それだけで、もう十分すごいと思う。
あと一度だけ、師匠が能力を全部使っているところを遠くから見たことがある。
何が起きているのかわからなかった。でもかっこよかった。
これが師匠の修行に関する全記録である。
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其の二「師匠の食生活について」
師匠の食生活は謎に包まれている。
まず好き嫌いがない。何を出されても同じ顔で食べる。おいしいとも言わない。まずいとも言わない。ただ食べる。
一度桐島さんが実験的にかなり辛いものを出したことがあった。私は半泣きになった。白瀬さんは「辛い!!」と叫んだ。朝霧さんは無言で水を飲んだ。
師匠は普通に食べた。
おかわりした。
意味がわからなかった。
甘いものは得意じゃないと言っていたのに、瑞樹さんが作ったプリンは食べていた。私が「甘いもの得意じゃないって言ってましたよね!?」と言ったら「これは別だ」と言われた。何が別なのかは教えてもらえなかった。
食事の量はそんなに多くない。でも食事を抜くことがある。忙しいときだ。
私がおにぎりを持っていったら受け取ってくれた。「ありがとう」と言ってくれた。
師匠が「ありがとう」と言うのを聞いたのは、あのとき初めてだった気がする。
おにぎりを作っていってよかった。
次も持っていこうと思っている。
これが師匠の食生活に関する全記録である。
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其の三「師匠の休日について」
師匠に休日があるのかどうか、正直わからない。
一度「休日は何をしていますか!?」と聞いたら「休んでいる」と言われた。「どうやって休むんですか!?」と聞いたら「目を閉じる」と言われた。
寝てるってこと!?
白瀬さんに聞いたら「散歩してるの見たことある」と言っていた。「どこを散歩するんですか!?」と聞いたら「知らない。気づいたらいなくて、気づいたら帰ってくる」と言っていた。
謎だ。
一度だけ師匠の休日に遭遇したことがある。
街で偶然すれ違った。師匠は一人だった。特に何かを買うわけでもなく、どこかに向かうわけでもなく、ただ歩いていた。
声をかけたら少し驚いた顔をした。師匠が驚く顔を見たのは初めてだった。
少しだけ一緒に歩いた。話しながら歩いた。
師匠はいつもより少しだけ喋った。
それだけだったけど、なんかすごく嬉しかった。
師匠の休日は、よくわからないけど、嫌いじゃない時間なんだと思う。
たぶん。
これが師匠の休日に関する全記録である。
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おまけ
「師匠が一番かっこよかった瞬間・個人的ランキング」
第三位
序列決定戦で何もしていないのに相手が倒れていったとき。意味がわからなかったけどかっこよかった。
第二位
帰り道に刺客に遭って、私を守りながら全員倒したとき。右肩から血が出ていたのに普通の顔をしていた。後で頭に手を置いてくれた。
第一位
修行で私が失敗ばかりしていたとき、師匠が一言だけ言った。
「まだ途中だ」
それだけだった。
でもその一言で、また頑張れた。
師匠はたぶん覚えていないと思う。でも私はずっと覚えている。
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以上、咲の師匠伝記でした!
師匠、これからもよろしくお願いします!!




