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第64話「成長と未来」

 咲の試合は午前の最後だった。


 俺は観客席の端から腕を組んで見ていた。


 相手は柊だ。


 咲にとって最悪の組み合わせ、と思う人間もいるだろう。棘で綻びを見つけて、凪で全体を把握する。咲の動きは全部見える。射程も筒抜けになる。


 でも咲は表情を変えなかった。


 演習場の中央に立って、柊を真っ直ぐ見ていた。十四歳の顔じゃない。


---


 審判が開始を告げた。


 咲は動かなかった。


 柊が少し眉を寄せた。棘を展開している。咲の綻びを探している。凪が広がった。


 その瞬間——咲が地面に手をついた。


 菌根菌が走った。


 見えない。地面の下だ。地中を這うように広がっていく。俺には感知できるが、普通の知覚では追えない。


 柊の凪が反応した。でも一瞬遅れた。


 菌根菌が演習場の床全体に薄く張り巡らされた。


 咲が立ち上がった。目が変わっていた。


 感知網だ。


 演習場全体が、咲の知覚になった。


 観客席がざわついた。柊が足元を一瞬見た。気づいている。でも張り巡らされた後だ。


「……やるね」柊が言った。


 咲は答えなかった。


---


 柊が動いた。


 速い。棘で見つけた綻びに向かって、迷わず踏み込んでくる。


 咲は退いた。射程を維持しながら、地面の感知網で柊の踏み込みを読んでいる。


 菌根菌が柊の足元から伸びた。


 柊が跳んだ。空中で凪を展開して、着地点を三択に散らした。読まれないための動きだ。


 咲の感知網が、着地の瞬間を捉えた。


 菌根菌が三箇所同時に伸びた。


 左からも。


 観客席が静まった。


 咲の左への展開が——遅くなかった。


 柊の着地した足に絡みついた。一瞬、動きが止まった。


 咲が射程を詰めた。菌根菌の密度が上がる。締め付けが始まる。


 柊が棘を全展開した。


 咲の綻びが全部見えた。


 柊が一点に向かって踏み込んだ。絡みつく菌根菌を強引に引き千切りながら。


 咲が後退した。射程ギリギリまで下がった。


 でも柊は止まらなかった。


---


 演習場の端まで追い詰められた。


 咲の背中が壁に近い。射程を維持できる距離がなくなってきた。


 柊が棘で見つけた一点——咲の右肩の綻びに向かって、最後の踏み込みをした。


 咲は退けなかった。


 菌根菌を全力で展開した。地面から、左から、正面から。感知網を攻撃網に切り替えた。


 柊が一瞬止まった。


 でも棘が光った。


 咲の展開した菌根菌の、綻びを見つけた。網の隙間だ。ほんの小さな隙間。


 柊がそこを抜けた。


 一点が、咲に届いた。


 咲の能力が霧散した。


 膝が折れた。ゆっくりと、地面についた。


 演習場が静まり返った。


---


 審判が近づく前に、咲が顔を上げた。


 柊を見た。


「……もう一回、やりたいです」


 声が震えていなかった。


 柊が少し目を細めた。「うん。またやろう」


 審判が柊の勝利を宣言した。


 観客席が沸いた。でも咲に向けられた拍手も、負けていなかった。


---


 俺は席を立った。


 咲が立ち上がろうとして、膝が笑っていた。朝霧が演習場に入って、肩を貸した。


 咲が朝霧に何か言った。朝霧が短く答えた。


 俺には聞こえなかった。


 でも咲の顔は——負けた顔じゃなかった。


 悔しい。でも次がある。そういう顔だ。


 俺はそれだけ確認して、控室に向かった。


 あいつは強くなる。


 まだ途中だ。

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