第63話「序列決定戦」
朝のホームルームで、担任が言った。
「今日から三日間、序列決定戦を行う」
教室がざわついた。年に一度の大会だ。全生徒参加、能力使用あり、トーナメント制。上位四名が四天王として認定される。
俺は窓の外を見ていた。
曇りだ。また曇りか。
「参加は義務です。棄権は原則認めません。初戦の組み合わせは——」
担任の声が続く。隣の席で誰かが興奮した声を出した。向こうの列では「九条と当たったら終わりだ」という声がした。
九条。
名前は知っている。九条家相伝の模写。生徒の間でも教師の間でも、今年の最強候補筆頭として名前が挙がっている。
俺は自分の対戦表を確認した。
特に感想はなかった。
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第一試合は午前中から始まった。
校舎裏の広い演習場に、全校生徒が集まっていた。壁際に観客席が設けられている。審判は教師が務める。
俺の初戦は三試合目だった。
待機列で腕を組んで、他の試合を見ていた。
二試合目は激しかった。炎系と衝撃系の能力者が正面からぶつかり合って、演習場の床に焦げ跡が残った。観客席が沸いた。
俺の番が来た。
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ある男が言った
「次、スコアERRORだって」
二年の男子生徒、田中が隣の友人に耳打ちした。
「あー、あいつか」友人の佐野が腕を組んだ。「計測不能のやつ。能力わかんないんだろ」
「どうせ大したことないんじゃね。ERRORってことは計測できないくらい低いってことだろ」
「かもな。でも一応見とくか」
二人は演習場に目を向けた。
スコアERRORと呼ばれる生徒が、ゆっくりと中央に歩いていく。
対戦相手は三年の上位生徒だ。能力は硬化系、防御と攻撃を兼ねる。去年の四天王候補にも名前が挙がっていた実力者だ。
審判が開始を告げた。
田中は目を細めた。
——何も、起きていなかった。
スコアERRORは動いていない。立っているだけだ。腕も組んでいない。ただ、そこに立っている。
なのに。
対戦相手が、膝から崩れ落ちた。
能力を使った形跡がない。衝撃もない。音もない。ただ——崩れた。糸が切れた人形みたいに、静かに。
審判が駆け寄る。対戦相手は意識がなかった。
「……え?」
田中は隣を見た。佐野が口を半開きにしていた。
「今、何かした?」
「……わかんない」
田中はもう一度演習場を見た。
スコアERRORはもう歩き始めていた。退場口に向かって、淡々と。振り返りもしない。
観客席が静まり返っていた。
誰も笑っていなかった。
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次の試合も、その次も、同じだった。
相手が倒れる。俺は歩く。それだけだ。
五試合目が終わったあたりで、観客席の空気が変わったのがわかった。沸かなくなった。静かになった。
絶望、というより——理解の放棄、に近い空気だ。
見ても意味がないと判断した顔が並んでいる。それでも目が離せない顔も混じっている。
俺は待機列に戻った。
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咲の試合は午後だった。
俺は観客席の端から見ていた。
相手は二年の速度系能力者だ。咲より射程が短い。でも速い。普通なら咲に不利な相手だ。
試合が始まった。
速度系の能力者が踏み込んだ。速い。咲の左側に回り込もうとした。
咲は——対応した。
左への反応が、遅くなかった。
菌根菌が地面を這う。相手の足元に絡みつく。動きが止まる。咲が射程を詰めて、決めた。
観客席が沸いた。俺は小さく息を吐いた。
やったじゃないか。
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夕方、準決勝の組み合わせが発表された。
**九条 vs 17**
柊 vs 咲
掲示板の前で、周囲がざわついた。
「九条とERRORが当たるのか」
「九条が勝つだろ。模写があれば何とかなる」
「でも今日のERRORの試合見たか? あれ、何してるのかわからなかった」
「九条なら写せる。写せれば対抗できる」
俺は掲示板を一瞥して、歩き出した。
九条家相伝の模写。
写す、か。
——何を写すつもりなんだ。
答えは聞かなかった。
明日わかる。




