表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/111

最終話「少しだけ未来の、一日」

 二十年が経った。


---


 朝、目が覚めた。


 隣に、柊がいた。


 寝ている。


 静かな寝顔だ。


 俺は少し——目を細めた。


 二十年経っても——柊は寝起きが遅い。


 変わらないものは、変わらない。


---


 起き上がった。


 台所に向かった。


 珈琲を入れた。


 窓から外を見た。


 朝の空だ。


 青かった。


 変わらない空だ。


 二十年前も、同じ空だった。


---


 スマホが鳴った。


 白瀬だった。


『おはよう。今日も元気か零』


 俺は少し止まった。


 二十年経っても——白瀬は朝から連絡してくる。


 変わらない。


『元気だ』


『よかった。今日咲ちゃんの道場の発表会だろ。行くよな』


『行く』


『朝霧も行くって。久しぶりに全員集まるな』


『そうだな』


『楽しみだわ』


 白瀬からの連絡が来るたびに、思う。


 こいつは二十年、変わらない。


 それが——少し、おかしかった。


 悪い意味じゃない。


---


 咲は今、道場を持っていた。


 菌根菌型の能力を活かした、能力者の指導だ。


 射程は——八十メートルを超えていた。


 四十、五十、六十、七十、八十。


 止まらなかった。


 弟子が二十人いた。


 師匠と呼ばれていた。


 俺に言ったことを——そのまま繰り返していた。


「まだ途中だ」


 咲の弟子たちが聞いた言葉だ。


 俺が咲に言った言葉だ。


 繋がっていた。


---


 朝霧は管理局に戻っていた。


 桐野の後を継いで——課長になっていた。


 無口なまま。


 でも——確実に、組織を変えていた。


 白瀬は朝霧の隣で働いていた。


 うるさいまま。


 でも——確実に、朝霧を支えていた。


 桐島は学園の教師を続けていた。


 水無瀬も続けていた。


 二人で学園を守っていた。


---


 瑞樹は——施設Aと施設Bの記録を整理していた。


 水瀬透の記録も、全部読んだ。


 全部、読んだ。


 泣いた日もあった。


 でも——読み終えた。


 今は、能力者の支援団体を作っていた。


 施設に収容されていた能力者の、その後を支える団体だ。


 奥津が一緒にいた。


 奥津の能力は——今も、俺の近くで安定していた。


 でも以前より、遠くても安定していた。


 少しずつ、変わっていた。


---


 榎本は——しばらく後に姿を消した。


 連絡が来なくなった日があった。


 でも——年に一度だけ、短いメッセージが来た。


『元気にしているか。』


『している』と返すと、それで終わった。


 どこにいるかはわからなかった。


 でも——生きている。


 それだけわかっていれば、十分だった。


---


 柊の声がした。


「零」


 台所に来た。


 寝起きの顔だ。


 髪が少し乱れていた。


 二十年経っても——変わらない寝起きだ。


「珈琲あるか」


「ある」


 柊が椅子に座った。


 珈琲を置いた。


 柊が両手で包んだ。


 いつもの動作だ。


 二十年間、同じ動作だ。


「今日、咲ちゃんの発表会だね」柊が言った。


「ああ」


「全員集まるんでしょ。白瀬さんから連絡来た」


「俺にも来た」


「白瀬さん、変わらないね」柊が笑った。


「変わらない」


 柊が珈琲を飲んだ。


 窓の外を見た。


「いい天気」


「ああ」


「零」


「何だ」


 柊が俺を見た。


 真っ直ぐ見た。


 二十年前と同じ目だ。


「今日——病院に行く」


 俺は少し止まった。


「検診か」


「そうじゃなくて」柊が少し笑った。「先生に聞いたら——双子、だって」


---


 台所が静まった。


 俺は柊を見た。


 柊が——俺を見ていた。


 笑っていた。


 でも目が——少し赤かった。


「双子」俺は言った。


「うん」


「二人か」


「二人」柊が頷いた。「先生が——もうすぐ産まれそうだって」


 俺はしばらく、柊を見ていた。


 柊が笑っていた。


 泣きそうな笑顔だった。


 嬉しいのか、怖いのか、よくわからない顔だった。


 二十年前も——こういう顔をしていた。


 笑っているのか泣きそうなのか、よくわからない顔を。


「零」柊が静かに言った。


「ああ」


「怖い?」


「怖い」


 柊が——少し目を細めた。


「私も」


「そうか」


「でも——嬉しい」


「ああ」


 柊が笑った。


 今度は——ちゃんと笑った。


「名前、考えなきゃね」


 俺は少し考えた。


「ああ」


「どんな名前がいいかな」柊が窓の外を見た。「二人分」


「わからない」


「一緒に考えよう」


「ああ」


---


 スマホが鳴った。


 白瀬だった。


『そういえば柊ちゃん今日病院だよな? どうだった??』


 俺は少し考えた。


 柊がスマホを覗いた。


「教えていい?」


「ああ」


 柊がスマホを取った。


 打った。


『双子でした。もうすぐ産まれそうです』


 既読がついた。


 三秒後。


『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 白瀬からの返信だった。


 文字じゃなかった。


 感嘆符だけだった。


 次の瞬間、電話がかかってきた。


 柊が出た。


「はい——うん——そう、双子——白瀬さん、落ち着いて——白瀬さん——白瀬さん聞いてますか——」


 柊が俺を見た。


 困ったような、でも笑っているような顔だった。


「白瀬さんが泣いてる」柊が静かに言った。


「そうか」


「零も話す?」


「いい」


「白瀬さん、零が話さないって——うん——うん、わかった、今日発表会終わったら教えます——白瀬さん——」


 柊が電話を続けていた。


 俺は窓の外を見た。


 朝の空だ。


 青かった。


 二十年前と同じ空だ。


 でも——今日は、少し違って見えた。


---


 しばらくして、柊が電話を切った。


「白瀬さん、朝霧さんに電話するって言ってた」柊が笑った。


「朝霧が困る」


「でも嬉しいと思う」


「そうだな」


 柊が珈琲を飲んだ。


 もう冷めていた。


 でも飲んだ。


「零」柊が静かに言った。


「何だ」


「ずっと一緒にいてくれてありがとう」


 俺は柊を見た。


「二十年、ずっと」柊が続けた。「いてくれたね」


「ああ」


「これからも?」


「ああ」


 柊が——目を細めた。


「よかった」


---


 その日の午後。


 咲の発表会が終わった後。


 全員が集まった。


 白瀬、朝霧、桐島、水無瀬、瑞樹、奥津。


 咲が双子の話を聞いて「えええ!!双子!!ふたり!!師匠!!」と叫んだ。


 白瀬がまた泣いた。


 朝霧が静かに「そうか」と言った。


 でも目が——少し笑っていた。


 桐島が「名前は決まったか」と聞いた。


「まだだ」


「そうか。急がなくていい」


 瑞樹が柊の手を握った。


「おめでとう」


「ありがとう」柊が笑った。


 奥津が静かに「おめでとうございます」と言った。


 水無瀬が珍しく「おめでとう」と言った。


「……水無瀬が言った」白瀬が驚いた顔をした。


「俺も言う」


「いや、珍しいと思って」


「うるさい」


---


 夜、全員でテーブルを囲んだ。


 賑やかだった。


 白瀬がうるさかった。


 咲がもっとうるさかった。


 朝霧が静かに食べていた。


 桐島と水無瀬が淡々と話していた。


 瑞樹と奥津が笑っていた。


 柊が全員の顔を見ていた。


 俺も——全員の顔を見ていた。


 二十年前と同じ顔だ。


 少し変わった。


 でも——同じだ。


 白瀬はまだうるさい。


 朝霧はまだ静かだ。


 咲はまだ元気だ。


 全員が——ここにいた。


---


 夜が更けた。


 全員が帰った後。


 台所に二人が残った。


 俺と柊だ。


 柊が窓の外を見ていた。


 夜の空だ。


 星が見えた。


「零」柊が静かに言った。


「何だ」


「名前、一つだけ決めた」


「どちらの名前だ」


「まだどちらかわからないけど」柊が俺を見た。「一つだけ——颯太、はどうかな」


 俺は少し止まった。


 柊が俺を見ていた。


「灰島さんの息子の名前だよね」柊が静かに言った。「瑞樹さんから聞いた。颯太って、笑う子だったって」


「ああ」


「笑う子に——育ってほしいから」柊が窓の外を見た。「どうかな」


 俺はしばらく、窓の外を見た。


 夜の空だ。


 星が見えた。


 灰島が颯太に届こうとして、三十年かけた。


 届かなかった。


 でも——あの場所で、会えたはずだ。


「……いい名前だ」俺は言った。


 柊が——笑った。


「よかった」


---


 夜の空を、二人で見ていた。


 星が見えた。


 静かだった。


 俺には今——名前がある。


 隣に、柊がいる。


 もうすぐ、二人が来る。


 全員が、ここにいる。


 それだけで——十分だ。


 十分すぎるくらい、十分だ。



——完——

最終話まで読んでいただきありがとうございました。

初めての長編の作品でしたので、自分もどう書いていけばいいのかわからない中での執筆でした。

なんとこの作品を読んで下さった皆様のおかげで、

初の300pvを超えられました。

これからも、模索しながら頑張っていこうと思うので何卒よろしくお願いいたします。

もしこの作品がいいなと思ったらぜひ評価、コメントをよろしくお願いします。ご指摘などもありましたらぜひしてください。本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
正直なところ、最初の数章を読んだ時点では、この作品をそれほど好きだとは感じていませんでした。しかし物語が進むにつれ、17の味方になってくれる人々が増え、それに伴って17も少しずつ、感情を露わにするよう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ